第24話

Chapter5 mm×lt×kps 琉球の波風に吹かれて#2
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2026/01/02 04:04 更新
沖縄旅行2日目の朝は、カーテンの隙間から差し込む、強烈な太陽の光で始まった。その光は、本土のそれとは明らかに違う種類のもので、肌を優しく通り越して、体の芯まで直接届くような力強さがあった。
Latte(杷野蘭)
ん…、まぶし…
ラテがうめき声と共に目を覚ます。昨夜、潮騒をBGMに眠りについた「カヌチャリゾート」のアゼリアスイート。ふかふかのベッドに深く沈んでいた意識が、ゆっくりと浮上してくる。重い瞼をこじ開けると、視界に飛び込んできたのは、白いレースが優雅に揺れる天蓋だった。
Latte(杷野蘭)
…へぇ、沖縄の朝ってこんな綺麗なんだ…
寝起きの不機嫌さも吹き飛ぶほどの絶景に、ラテは思わず感心したような声を漏らした。手すりに寄りかかり、ただぼんやりと、その完璧な南国の朝の景色に見入っていた。
部屋に戻ると、バスルームからシャワーの音が聞こえてくる。ぜんこぱすだ。彼は朝起きると、まずお風呂に入るのが習慣だった。昨日、部屋のオープンバスにはしゃいでいた彼の姿を思い出し、ラテは小さく笑った。

(…朝から元気なやつ)

ラテがそんなことを考えていると、入れ違いで外からすっきりとした顔のめめんともりが現れた。
めめんともり(森川芽衣)
おはようラテちゃんよく眠れた?
Latte(杷野蘭)
お子様扱いすな!まぁ寝れたけど…
めめんともり(森川芽衣)
ごめんごめん!
まぁ私もぐっすり!やっぱりいいベッドは違うね〜
Latte(杷野蘭)
私もぐっすり。やっぱり、いいベッドは違うね
めめんともりはそう言うと、部屋に備え付けられていたコーヒーメーカーのスイッチを入れた。すぐに、コーヒーの香ばしい香りが部屋に広がり始める。

やがて、バスルームからさっぱりとした顔のぜんこぱすが、Tシャツと短パン姿で出てきた。
ぜんこぱす(八島善)
おはようございます!いやー、朝風呂最高でした!
彼は、濡れた髪をタオルでガシガシと拭きながら、バルコニーを指差した。その表情は、子供のように輝いている。
Latte(杷野蘭)
はいはい、わかったから髪ちゃんと乾かしなよ。風邪ひくよ
ラテが、少し呆れたように、でもどこか楽しそうに言うと、ぜんこぱすは「あ、はい!」と素直に頷き、再びバスルームに引っ込んでいった。その素直な反応に、ラテとめめんともりは顔を見合わせて笑った。
めめんともり(森川芽衣)
さ〜て、朝食どうしようか。レストランもいいけど、ルームサービスでのんびりするのもアリだよね
めめんともりがパンフレットを手に取る。
Latte(杷野蘭)
いいね、それ。この景色見ながら食べられるんでしょ?最高じゃん
ラテが、バルコニーのデッキチェアに寝転がりながら即答する。
ぜんこぱす(八島善)
ぽくも賛成です!この景色を見ながら朝ごはんとか、夢みたいです!
髪を乾かし終えたぜんこぱすが、再び興奮気味に部屋から出てきた。
結局、三人の意見は満場一致でルームサービスに決まった。めめんともりが慣れた手つきで電話をかけ、沖縄食材をふんだんに使ったアメリカンブレックファストを注文する。

料理が届くまでの間、三人はバルコニーで思い思いの時間を過ごした。めめんともりは、今日の計画を最終確認するように、タブレットで那覇市内の交通情報や祭りのスケジュールをチェックしている。ラテは、デッキチェアの上で目を閉じ、ただ潮風と太陽の光を浴びている。ぜんこぱすは、手すりのそばに立ち、遠くを行き交う船や、空を飛ぶ鳥を、飽きることなく眺めていた。

やがて、ワゴンに乗せられた朝食が部屋に運ばれてきた。焼きたてのパンの香ばしい匂い、ベーコンが焼ける音、そして色とりどりのフルーツやサラダ。バルコニーの大きなテーブルにそれらが並べられると、そこはもう海辺の高級レストランだった。
「「「いただきます!」」」

海を眺めながらの朝食。そのあまりの贅沢さに、三人は言葉もなく、ただただ感動していた。
めめんともり(森川芽衣)
んー、このオムレツ、ふわふわ!アグー豚のソーセージも美味しい!
ぜんこぱす(八島善)
パンも焼きたてで最高ですね!
Latte(杷野蘭)
ん…。美味しいじゃん、これ。このソーセージ
食事をしながら、今日の計画について話す。
めめんともり(森川芽衣)
今日は、この後チェックアウトして、まず美ら海水族館に行くよ。そこから高速で一気に那覇まで南下して、ホテルに荷物を置いたら、いよいよ大綱挽まつりだね!
ぜんこぱす(八島善)
楽しみです!綱引きはテレビでしか見たことないですけど、すごい迫力なんですよね?
めめんともり(森川芽衣)
うん、すごいよ。街中がお祭り騒ぎになるから。ね、ラテも楽しみでしょ?
めめんともりの優しいパスに、ラテは
Latte(杷野蘭)
…まあ、嫌いじゃないけど。人が多いのはちょっとね…
と素っ気なく返すが、その瞳は好奇心に輝いていた。


朝食を終え、それぞれが出発の準備を始める。スーツケースに荷物を詰めながら、ラテはふと、この美しい部屋をもうすぐ去らなければならないことに、一抹の寂しさを感じた。
そんな感傷を吹き飛ばすように、めめんともりの明るい声が響いた。
めめんともり(森川芽衣)
よし、みんな準備できたかな?忘れ物はないかー?
ぜんこぱす(八島善)
ぽれは大丈夫です!
ぜんこぱすも、元気よく返事をする。
Latte(杷野蘭)
はいはい、私もできたよ
ラテも気持ちを切り替え、スーツケースのキャスターを引いた。

チェックアウトを済ませ、ヤリスクロスは再び走り出した。名残惜しそうにリゾートを振り返るぜんこぱす。その横顔は、楽しかった時間の終わりを惜しんでいるようだった。
めめんともり(森川芽衣)
ぜんくん、今日のメインはこれからだから!きっと、もっとすごいものが見られるよ!
めめんともりが、励ますように、そして自分にも言い聞かせるように言った。その言葉に、ぜんこぱすは「はい!」と力強く頷いた。

車は、沖縄の太陽を浴びて輝く海沿いの道を、北へ向かって走り始めた。旅の2日目が、最高の形で幕を開けた。




カヌチャリゾートのゲートを抜け、ヤリスクロスは再び国道58号線を北へと向かった。ハンドルを握るめめんともりの横顔は、完璧な朝を迎えた満足感と、これからの冒険への期待感で輝いている。

車は名護市の市街地を抜け、本部町もとぶちょうへと入っていく。海岸線を走る道からは、左手にエメラルドグリーンの海が広がり、時折、小さな漁港やサトウキビ畑がのどかな風景を作り出していた。ラジオからは、沖縄のローカル局の番組が流れ、三線の音色を使った陽気なCMや、うちなーぐち 沖縄方言混じりのDJのトークが旅のムードを盛り上げてくれる。

やがて、「海洋博公園」を示す大きな看板が見えてきた。広大な駐車場に車を停め、三人が外に出ると、じりじりと肌を焼くような強い日差しと潮の香りを乗せた風が吹き抜けた。
Latte(杷野蘭)
うわ、日差し強っ…!
ラテが、思わず手で顔を覆う。
ぜんこぱす(八島善)
沖縄の日差しは本土とは比べ物にならないですからねぇ…日焼け止めちゃんと塗ってますか?
ぜんこぱすが心配そうに声をかけた。
めめんともり(森川芽衣)
さ、行こうか!
めめんともりに促され、三人は車道を渡る歩道橋へと向かった。橋の上からは、亜熱帯の木々が生い茂る広大な公園とその先に広がる紺碧の海が一望できる。

そして、水族館のエントランスへと続く長いエスカレーターを降りていく。目の前にはコバルトブルーの東シナ海が広がる。その先の水平線には平坦な島、伊江島 いえじまが見えた。島の中央からぽっこりと突き出たの城山ぐすくやま独特なシルエットもはっきりと見て取れる。海に向かって吸い込まれるように下っていく感覚は、まるでこれから海の世界へ潜っていくプロローグのようだった。
そしてジンベエザメの巨大なモニュメントを通り過ぎ、涼しい館内へと足を踏み入れる。
ぜんこぱす(八島善)
ついに来ましたね…!美ら海水族館!
ぜんこぱすは、入り口の前で深呼吸をし、まるで聖地に足を踏み入れるかのように、期待に胸を膨ませていた。



館内に入り、まず現れたのは「イノーの生き物たち」と名付けられたタッチプールだった。水槽の中にはヒトデやナマコといった沖縄の浅瀬、珊瑚礁に囲われたいわゆる礁池 イノーに住む生き物たちがいる。
ぜんこぱす(八島善)
うわ、直接触れるんだ!
ぜんこぱすが子供のようにはしゃいで水槽に手を伸ばす。
ぜんこぱす(八島善)
見てください!このヒトデ青くて綺麗です!…うわ、意外と硬い!
ラテも最初は少し躊躇していたが、ぜんこぱすの楽しそうな様子につられ、おそるおそるナマコに触れてみる。
Latte(杷野蘭)
…うわ本当だ。ぷにぷに。でも、ちょっとキモいかも…
と言いながらも、その口元は好奇心で緩んでいた。
その先の「サンゴの海」エリアは圧巻だった。屋根のない巨大な水槽に沖縄の強い太陽光が直接降り注ぐ。その光を浴びて、約70種450群体の生きたサンゴが色とりどりの複雑な地形を作り出していた。光が水中でキラキラと揺らめき、本当に海の底を歩いているような気分にさせた。

そして順路を進み、少し薄暗くなった通路を抜けた先に、それは現れた。


「「「うわぁ…」」」

三人の口から同時に感嘆の声が漏れた。

目の前に広がっていたのは、高さ8.2m、幅22.5mの巨大なアクリルパネルの向こう側に広がる、圧倒的な「黒潮の海」。

全長8.8mを超える巨大なジンベエザメが、まるで空を飛ぶ巨大な飛行船のように悠々と目の前を横切っていく。数千匹のグルクンやカツオが銀色の巨大な生き物のように群れをなし、一糸乱れぬ動きで水槽内を駆け巡る。そして世界最大のエイであるナンヨウマンタが、翼を広げて優雅に舞っていた。

三人は言葉を失い、ただただその光景に見入っていた。
Latte(杷野蘭)
すごいね…こんなに大きい生き物が本当にいるんだ…
ラテがぽつりと呟く。その声は感動に少し震えていた。
ぜんこぱす(八島善)
ぽれ、鳥肌が立ちました…。ずっと見ていられますね、これ…
ぜんこぱすも目をきらきらと輝かせながら、食い入るように水槽を見つめている。
午後12時 オキちゃん劇場と、青い海のステージ

「黒潮の海」の感動を胸に、めめんともりがパンフレットを見て言った。
めめんともり(森川芽衣)
あ、もうすぐイルカショーが始まる時間だ。屋外の『オキちゃん劇場』、行ってみない?
ぜんこぱす(八島善)
イルカショー!?行きたいです!
ぜんこぱすが即答する。
Latte(杷野蘭)
まあ、せっかくだから見ておくか!
ラテもまんざらでもない様子だ。
三人は再び屋外へと出た。ショーの会場であるオキちゃん劇場は、東シナ海の青い海を背景にした開放的なステージだった。すでに多くの観客が席を埋めている。

陽気な音楽が流れ始め、飼育員のお兄さんとお姉さんが登場すると、会場から大きな拍手が湧き起こった。そして主役のイルカたちが、水しぶきを上げてプールに姿を現す。

ショーはイルカたちの驚くべき能力の紹介から始まった。飼育員の出すサインに合わせて歌うように鳴き声を上げたり、水中でスピンしたり、尾びれでバイバイと挨拶したり。その賢くて愛らしい姿に会場はすっかり魅了されていた。

ショーのハイライトはイルカたちの大ジャンプだった。青い海と空を背景に、イルカたちが次々と水面から高く飛び上がり、美しいアーチを描く。そのダイナミックで美しい光景に、会場のボルテージは最高潮に達した。
ぜんこぱす(八島善)
うわあああ!すごい!
ぜんこぱすは目を輝かせながら、スマホの動画撮影に夢中になっていた。

約20分間のショーはあっという間に終わった。イルカたちの素晴らしいパフォーマンスに、会場からは惜しみない拍手が送られた。
ぜんこぱす(八島善)
いやー最高でしたね!
Latte(杷野蘭)
うん、すごかった。想像以上だったかも
午後1時 腹ごしらえと、南へ

水族館を存分に満喫し、一行は名残惜しさを感じながらも海洋博公園を後にした。時刻はすでに午後1時を回っている。
めめんともり(森川芽衣)
お腹すいたね。この近くで美味しい沖縄そば屋さんがあるんだけど、レビューじゃ"ジューシーの美味しさに目覚めた"というレベルらしいけど…寄ってく?
めめんともりが提案する。
車で数分の距離にある、備瀬びせのフクギ並木。その中にひっそりと佇む沖縄そばの名店「きしもと食堂 八重岳店」。昔ながらの赤瓦の古民家を改装した店構えは、観光客だけでなく地元の人々にも愛されている雰囲気が漂っていた。

三人が注文したのはもちろん名物の「きしもとそば」。薪の火でじっくりと炊き上げたという、カツオの風味が強い独特のスープと、コシのある手打ち麺。
Latte(杷野蘭)
美味しい!麺が普通の沖縄そばと全然違う!
ぜんこぱす(八島善)
スープもすごく出汁が効いてて美味しいです!
三人は夢中でそばをすすった。空腹の体にその素朴で力強い味わいが染み渡る。
ぜんこぱす(八島善)
ぷはー、美味しかった!ごちそうさまでした!
ぜんこぱすが満足げにお腹をさする。
めめんともり(森川芽衣)
さて、エネルギーチャージも完了したし、いよいよ那覇に向かうよ!高速乗れば1時間半くらいかな。今日のメインイベントが、私たちを待ってるからね!
めめんともりの言葉に二人は「はい!」と元気よく頷いた。

車は再び沖縄自動車道を一気に南下する。旅のハイライト、「那覇大綱挽まつり」が、彼らを待っていた。
沖縄そばの名店「きしもと食堂」で、心もお腹も満たされた一行は、再び青いヤリスクロスに乗り込んだ。名残惜しさを感じながらも、備瀬のフクギ並木の涼やかな木陰を後にする。
めめんともり(森川芽衣)
さて、ここから一気に那覇まで戻るよ。高速使っても1時間半はかかるから、少し急ごうか
めめんともりがハンドルを握りながら言う。
ぜんこぱす(八島善)
はい!祭りに遅れるわけにはいきませんからね!
助手席のぜんこぱすが、まるでこれから戦いに向かう兵士のように拳を握りしめた。
後部座席のラテは、窓の外を流れるサトウキビ畑の風景を眺めていた。午前中に見た美ら海の深い青と、イルカたちの躍動感。そして、薪の香りがする力強い沖縄そばの味。その一つ一つが、すでに忘れられない思い出として心に刻まれていた。

(沖縄、来てよかったかもな…)

飛行機への苦手意識も、旅の始まりのドタバタも、今はもう遠い昔のことのようだ。そんなことを考えていると、心地よい揺れに誘われて、彼女はうとうとと眠りに落ちていった。

車は沖縄自動車道を快調に南下していく。ぜんこぱすは、スマホで「那覇大綱挽まつり」の歴史や見どころを熱心に調べていた。
ぜんこぱす(八島善)
すごいですね、この祭り、琉球王朝時代から続く400年以上の歴史があるそうです。一時は途絶えたけど、沖縄の本土復帰を記念して復活したとか…
めめんともり(森川芽衣)
うん。沖縄の人たちにとって、すごく大切な、誇りなんだよ
めめんともりは、静かに答えた。
やがて、那覇インターチェンジを降りると、街の雰囲気は一変していた。中心部へ向かうにつれて、道路は渋滞し始め、歩道には色とりどりの法被や浴衣を着た人々が溢れかえっている。遠くから、鐘や太鼓の音が、熱気を帯びた風に乗って聞こえてきた。
Latte(杷野蘭)
うわ、すごい人…!もう始まってるのかな?
後部座席で目を覚ましたラテが、驚きの声を上げる。
ぜんこぱす(八島善)
みたいですね!すごい熱気です!
ホテルにたどり着くまでも一苦労だった。ようやくチェックインを済ませ、部屋にスーツケースを文字通り放り込むと、三人は逸る気持ちを抑えきれずに、祭りのメイン会場である国道58号線、久茂地くもじ交差点へと向かった。
午後4時 熱狂の渦の中心で

ホテルを一歩出ると、そこはもう日常の空間ではなかった。地鳴りのような人々のざわめき、体の芯に響く太鼓の音、そして時折空気を切り裂く鋭い指笛。街全体が、一つの巨大な生き物のように、興奮と熱気で脈打っていた。

普段はひっきりなしに車が行き交う片側4車線の巨大な国道が、完全に人で埋め尽くされている。その光景は、圧巻の一言だった。
Latte(杷野蘭)
すごい…!道が、人で川みたいになってる…!
ラテが、人の波に圧倒されて声を上げる。
ぜんこぱす(八島善)
とにかく、中心に行ってみましょう!綱が見える場所まで!
三人は、なんとか人波をかき分け、祭りの中心である久茂地交差点へと向かった。汗ばんだ人々の間をすり抜け、ようやく視界が開けた場所に出ると、そこには信じられない光景が広がっていた。

道路の真ん中に、巨大な、本当に巨大な藁の綱が、二本に分かれて横たわっている。それは、まるで巨大な龍が二匹、熱気にあてられて眠っているかのようだった。一本一本の藁が人の腕ほどの太さで編み込まれ、それがさらに束になって、直径1.5メートル以上はあろうかという極太の綱を形成している。
Latte(杷野蘭)
でっか…!あれを、引くの!?
ラテが、呆然と呟く。
ぜんこぱす(八島善)
ギネスブックにも認定された、世界一のわら綱だそうですよ!全長200メートル、総重量は40トンを超えるそうです!
ぜんこぱすが、興奮気味に調べた知識を披露する。
綱の周りでは、東西それぞれの陣営の衣装をまとった人々が、気勢を上げていた。アガリ男綱をぅづな西イリ 女綱みぃづなと呼ばれ、それぞれの象徴となっている。
やがて、祭りの開始を告げる鐘の音が、カンカンカン!と甲高く鳴り響いた。会場のボルテージが一気に最高潮に達する。

まず始まったのは、「旗頭ガーエー」と呼ばれる、各地域を代表する旗頭の演舞だった。高さ7メートルから10メートル、重さ50キロを超える巨大な旗頭を、一人の男が「むちでぃー」と呼ばれる帯で腰に固定し、天高く掲げて舞う。

「うおおおおお!」

担ぎ手の雄叫びと共に、旗頭が大きくしなり、天を突く。その先端につけられた飾りが、西日を浴びてきらきらと輝いた。その勇壮で美しい姿に、観客から「サーラ!」という独特の掛け声と、割れんばかりの拍手が送られた。
めめんともり(森川芽衣)
すごい…!あんなに重いものを、一人で…!
めめんともりが、感嘆の声を漏らす。

次々と、意匠を凝らした14本の旗頭が登場し、その技と美しさを競い合う。その力強い演舞は、これから始まる大一番への気運を、否が応でも高めていった。
そして、いよいよ大綱挽のメインイベントが始まる。東西それぞれの綱に、数え切れないほどの「手綱てづな」が取り付けられていく。その手綱を、法被を着た男たちが持ち、ゆっくりと綱を中央へと引き寄せていった。

地響きのような掛け声と共に、男綱と女綱の先端がじりじりと近づいていく。そして、中央で二つの綱の輪が重なり合うと、ひときわ大きな歓声が上がった。そこに、「カヌチ棒」と呼ばれる巨大な丸太が、数人がかりで運び込まれる。

「あれで、二つの綱を一つにするんだ…」
ラテが、固唾を飲んで見守る。

カヌチ棒が、男綱と女綱の輪を貫き、完全に結合される。その瞬間、会場の興奮は頂点に達した。東西の力が、一本の綱となって結ばれたのだ。

やがて、開始の合図となる花火が打ち上げられた。

ヒュルルルル…

ドォォォン!!!

その音を合図に、地響きのような雄叫びと共に、綱引きが始まった。

「「「ハーイヤ!ハーイヤ!」」」

数万人の声が一つになり、空気を震わせる。東西合わせて1万5千人以上の人々が、一本の綱に全ての力を込め、大地を蹴る。

「うおおおおおおお!」

「わあああああああ!」

会場全体が、エネルギーの塊となって揺れていた。三人は、その圧倒的な光景に、ただただ立ち尽くすことしかできなかった。
Latte(杷野蘭)
すごい…!すごいよこれ!
ラテが、興奮して叫ぶ。
ぜんこぱす(八島善)
見てください!あっちで、観光客用の綱が引けますよ!行きましょう!
ぜんこぱすが、メインの綱から枝分かれした「かちゃーしー綱」を指差した。

三人は、周りの人々に混じって、その綱へと駆け寄った。太い藁でできた手綱は、汗で湿り、ずっしりと重い。
めめんともり(森川芽衣)
いくよ!せーの!
めめんともりの掛け声に合わせて、三人も力の限り綱を引いた。老若男女、地元の人も観光客も、外国人も関係ない。誰もが、ただ一つの目的に向かって、心を一つにしていた。

「ハーイヤ!ハーイヤ!」

周りの人々の掛け声に合わせて、声を張り上げる。足を踏ん張り、全身の力で綱を引く。汗が噴き出し、腕が悲鳴を上げる。しかし、不思議と辛くはなかった。周りの人々の熱気、笑顔、そして一体感。その全てが、三人の体に力を与えてくれるようだった。
めめんともり(森川芽衣)
ラテ!もっと力入れて!
Latte(杷野蘭)
やってるよ!!!
めめんともり(森川芽衣)
ぜんくん腰が引けてる!
ぜんこぱす(八島善)
ぽ、ぽれ、頑張ってます!
叫び、笑い、汗を流す。その瞬間、三人は、ただの観光客ではなく、この祭りを構成する、熱狂の渦の一部となっていた。
約30分間の死闘の末、綱引きは西の勝利で幕を閉じた。勝敗が決した瞬間、会場は勝鬨と、健闘を称え合う拍手に包まれた。勝ち負けなど関係なく、そこにいた誰もが、達成感と高揚感に満ちた笑顔を浮かべていた。

祭りの興奮冷めやらぬまま、三人は歩行者天国となった国際通りへとなだれ込んだ。普段の賑わいとは全く違う、祭りの後の特別な熱気が、夜の街を支配していた。道のあちこちで、カチャーシーを踊る人々の輪ができていた。
Latte(杷野蘭)
最高だった…!あんなの、初めて…!
ラテが、まだ興奮した様子で言う。その顔は汗と熱気で上気し、キラキラと輝いていた。
ぜんこぱす(八島善)
ぽれもです!本当に、感動しました!体はヘトヘトですけど、心がすごく元気になりました!
ぜんこぱすも、満面の笑みだ。

夕食は、「国際通り屋台村」でとることにした。20軒ほどの小さな屋台がひしめき合い、祭りを終えた人々でごった返している。空いている席を見つけるのも一苦労だった。
三人は、なんとか席を確保すると、それぞれ好きな屋台から料理や飲み物を買ってきた。ジーマーミ豆腐の揚げ出し、ヒラヤーチー(沖縄風チヂミ)、てびちの煮付け、そしてもちろんオリオンビール。
めめんともり(森川芽衣)
じゃあ、綱引きの勝利と最高の旅に!かんぱーしー!
めめんともりが、沖縄風のイントネーションで言うと、二人は笑ってグラスを合わせた。

「「かんぱーい!」」

冷えたビールが、汗をかいた体に染み渡る。
Latte(杷野蘭)
いやー、本当にすごかったね。あの綱の大きさ、人の数、声援…。全部規格外だった
ぜんこぱす(八島善)
ぽれ、綱を引いてる時、周りの人たちと、なんだか一つになれた気がしました
めめんともり(森川芽衣)
わかる!言葉とか、全然関係ないんだよね。ただ、一緒に綱を引くっていうだけで…
祭りの感想、美ら海水族館の感動、そして明日にはもう帰らなければならないという寂しさ。様々な感情が入り混じりながら、三人の会話は尽きることがない。
那覇大綱挽まつりの圧倒的な熱狂と、国際通り屋台村の陽気な喧騒。その全てを全身で浴びた三人は、心地よい疲労感と高揚感を胸に、タクシーで今夜の宿へと向かった。祭りの影響で、那覇市内の道路はまだ混雑していたが、その渋滞さえも、祭りの特別な余韻のように感じられた。
ぜんこぱす(八島善)
いやー、本当にすごかったですね綱引き!ぽれ、あんなに大声出したの久しぶりです!
ぜんこぱすが、窓の外の夜景を眺めながら、興奮した様子で言った。その声はまだ少し枯れている。
Latte(杷野蘭)
本当だね。私も腕パンパンだよ。でもなんかスッキリした
ラテも満足そうに頷く。その顔には、純粋な楽しさと少しの日焼けが健康的に輝いていた。
めめんともり(森川芽衣)
二人とも楽しんでくれたみたいで良かったよ。最高のクライマックスだったね
めめんともりは、そんな二人の様子を微笑ましく見守っていた。

タクシーが到着したのは、国際通りから少しだけ離れた、静かなエリアに佇む「ホテル コレクティブ」。近代的ながらも、琉球ガラスや紅型のアートが随所にあしらわれ、沖縄の伝統とモダンが見事に融合した、洗練されたホテルだった。

チェックインを済ませ、案内されたのは高層階の「ハイフロアスーペリアツイン」。
部屋に入ると、大きな窓が一面に広がり、眼下に広がる那覇の夜景に三人は息を呑んだ。
ぜんこぱすは我先にとバスルームに駆け込んで行った。


めめんともりは大きな窓のそばに立ち、眼下に広がる那覇の夜景を見下ろしていた。

ラテもその隣に並んで呟いた。
めめんともり(森川芽衣)
綺麗だね、那覇の夜景
Latte(杷野蘭)
…うん。昨日のカヌチャから見た星空もすごかったけど、こういう都会の夜景もこれはこれでいいね

シャワーを浴び終えた三人がそれぞれのベッドに腰掛ける頃には、時刻は午後11時を回っていた。しかし、祭りの興奮からか、誰もすぐに眠ろうとはしない。
Latte(杷野蘭)
そういえば、明日の飛行機、結構遅いんだよね
ラテがスマホでフライト情報を確認しながら言った。
めめんともり(森川芽衣)
うん。私たちのはJTA46便、那覇20時05分発、セントレア22時着。ラテは翌日そのまま本社に出勤でしょ?
Latte(杷野蘭)
そうなんだよねぇ…まあ、しょうがない
ぜんこぱす(八島善)
ぽれはJAL920便の19時55分発、羽田行きです。ちょっとだけ、お二人より早いですね
ぜんこぱすが言う。
Latte(杷野蘭)
じゃあ明日も丸一日遊べるってことじゃん!
ラテの目が輝いた。祭りの疲れも見せず、まだまだ元気なようだ。
めめんともり(森川芽衣)
そうだね。どこか行きたいところある?
めめんともりが尋ねる。
Latte(杷野蘭)
うーん…。首里城は絶対行きたいでしょ。あとは…
ラテが考え込んでいると、ぜんこぱすが、おずおずと口を開いた。
ぜんこぱす(八島善)
あの…ぽれ、もう一回海が見たいです。昨日や今日見たみたいな、綺麗な海を
その言葉に、めめんともりは何かを思い出したようにふっと微笑んだ。
めめんともり(森川芽衣)
…海か。そうだね…。それならとっておきの場所があるよ
Latte(杷野蘭)
とっておきの場所?
めめんともり(森川芽衣)
うん。前に来た時、偶然立ち寄ったお店のおかみさんに教えてもらったの。『観光客は誰も知らないけど、最高の夕日が見える場所があるさー』って
めめんともりは、その時のことを思い出すように少し楽しそうに目を細めた。
めめんともり(森川芽衣)
そこはただのバス停なの。ナビにも載ってないような、小さなバス停。でもね、そこから海に降りていくとちょうど目の前の島に夕日が沈んでいくのが、完璧に見えるんだ。ネットには載っていないような綺麗な夕日がね。
ぜんこぱす(八島善)
へぇ、そんな場所が…
ぜんこぱすが、興味深そうに身を乗り出す。
めめんともり(森川芽衣)
そうなの。私も実際に行ってみたら本当にすごかった。仕事帰りの地元の人たちが、クーラーボックス片手にビール飲んでたりしてね。民泊のおじさんが本土からの学生さんを連れてきてて、『あれが伊江島だよ』って教えてくれたり、部活帰りの高校生たちが談笑してたり。みんな初対面なのに、そこにいるだけでなんだか自然と話しちゃうような、すごく温かい場所だったんだ
彼女自身の体験として語られる言葉には、確かな熱と実感がこもっていた。
Latte(杷野蘭)
…なにそれ、最高じゃん
ラテが、ぽつりと呟いた。その声には、強い興味が滲んでいる。
めめんともり(森川芽衣)
でしょ?バスも1〜2時間に一本くらいしか来ないような場所だから、車で行っても全然邪魔にならないし。もしみんなが良ければ、最後に、あの夕日をもう一度見に行かない?ぜんくんが見たいって言ってた『綺麗な海』も、きっと見られると思うよ
めめんとから語られる情景だけで、そこがどれほど魅力的で温かい場所なのかが伝わってくる。ラテとぜんこぱすの頭の中には、それぞれの「秘密のバス停」のイメージが膨らんでいった。
Latte(杷野蘭)
行く!絶対行く!
ぜんこぱす(八島善)
ぽれも行きたいです!なんだか映画みたいでワクワクしますね!
二人の即答に、めめんともりは満足そうに頷いた。
めめんともり(森川芽衣)
決まりだね!じゃあ、明日は首里城に行って、それから北へロングドライブだ!私の秘密の場所に二人を連れてってあげる!
旅の最後の日の計画が決まった。それは、ただの観光ではない。めめんともりが大切にしている、美しい思い出の場所を辿る、少しだけ特別な寄り道。
めめんともり(森川芽衣)
さて、じゃあ、明日に備えて、そろそろ本当に寝ようか。明日も朝から動くよ!
めめんともりが言うと、三人はそれぞれのベッドに潜り込んだ。

窓の外からは、国際通りの賑わいの名残が遠くに光って見えている。しかし、部屋の中は、心地よい疲労感と明日への新たな期待に満ちた穏やかな静寂に包まれていた。

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