食堂の重厚な扉を潜り抜けた瞬間、エースとデュースが息を荒くしながら述べる
時刻はちょうど昼時。魔法の火で調理される香ばしいソースの匂いや、焼きたてのパンの香りが、広大な食堂の中に充満していた
デュースはメニューボードを睨みつけたまま、まるで行軍中の兵士のような顔で呟く
活気ある生徒たちの声に押されるようにして列に並びかけ、監督生がふと思い出したように背後へ振り返る
シーーン……
問いかけは、虚空に消えた
監督生の視線の先にいたのは、見知らぬハーツラビュル寮の生徒と、サバナクロー寮と思われる体格の良い男子生徒だけだった
そこにあるはずの、鋭い眼光を放つ金髪も、場違いなほど堂々とした立ち姿も、どこにも見当たらない
エースがひょいと首を傾げて、監督生の背後を覗き込む
監督生の悲鳴に近い声に、デュースがハッと我に返り、周囲を猛烈な勢いで見渡す
監督生のその一言に、全員の顔が真っ青に染まる
空腹で鳴り響いていたはずの腹の虫も、今の恐怖には勝てない
4人は注文しかけていた列を飛び出し、来た道を全力で、それこそ魔法でも使っているかのような速度で駆け出した
誰もいない廊下。先ほどまで響いていたグリムの騒がしい声も、エースの軽口も、嘘のように消えていた
私は、ポケットに両手を突っ込んだまま、呆然と広い廊下の真ん中に立ち尽くしている
ドスの利いた、けれどどこか虚脱感の混じった独り言が、高い天井に虚しく響く
地元でつるんでいた連中なら、自分が立ち止まれば一瞬で気づいて戻ってきたはずだ。だが、ここは異世界
おまけに相手は、食い意地の張ったタヌキと、自分のことで手一杯な魔法使い見習いたちだ
苛立ちを紛らわすように金髪を乱暴にかき上げると、私はとりあえず歩き出した
微かに漂ってくる「飯の匂い」を頼りにすれば、あの馬鹿共が集まっている食堂へは辿り着けるはず……
不機嫌極まりないオーラを撒き散らしながら、私は直角の曲がり角を、勢いよく曲がった
ドンッ
鈍い衝撃
厚い胸板にぶつかったような感覚に、私の身体がわずかに揺らぐ
同時に、目の前には二つの影が立ちはだかっていた
上から降ってきたのは 低くて野太い、威圧感のある声
顔を上げると、そこには尖った耳と立派な尻尾を持つ、体格のいい銀髪の少年
その隣で、申し訳なさそうに声をかけてきたのは、打って変わって可憐な容姿をした少年
私の口から漏れたのは、低い地を這うような声
けれど、それは怒りからくるものではなかった。曲がり角でぶつかった衝撃も、置いていかれた苛立ちも、視界に飛び込んできた「それ」を見た瞬間に、脳内から綺麗さっぱり消し飛んでいた
彼は、目の前の金髪が放つ異様な「圧」に身構えていた
だが、私の視線が自分の顔ではなく、その少し上——頭頂部でピコピコと動く狼の耳に釘付けになっていることに気づき、背筋に奇妙な戦慄が走る
私は一歩、また一歩と、獲物を狙う肉食獣のような足取りで銀髪の少年に詰め寄る
地元の抗争でさえ見せたことのない、異様なまでの集中力。その瞳はギラギラと輝き、ターゲットである三角形の毛塊を逃さじと見据えていた
銀髪の少年が気圧されて思わず後退りする
その隣で、可憐な少年が不思議そうに首を傾げた
怒鳴り声も、今の私には心地よいBGMにしか聞こえない
私の手が、まるで吸い寄せられるように銀髪の少年の頭上へと伸びる
ドドドドドドドドドド………
その時、背後の廊下から地響きのような足音が迫ってきた
「「「「いたあああああ!!!
あなたーーーー!!!」」」」
エース、デュース、監督生、そしてグリム
血相を変えた4人が、コーナーをドリフト気味に曲がって現れる
エースとデュースが左右から私の腕をガッチリとホールドする
それでもなお、私はジャックの尻尾に向かって手を伸ばし、指をワキワキと動かし続けていた
監督生が必死に弁明する横で、銀髪の少年は顔を真っ赤にして
静かな廊下に、ピリついた火花が散る
迷子の元ヤンと、硬派な一匹狼、そして秘めたる熱い魂を持つ美少年
食堂へ向かうはずの道筋は、さらに波乱の予感を孕んでいく












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。