第14話

ターゲットは耳と尻尾
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2026/03/17 23:17 更新




 

グリム
飯だ飯ー! オレ様はツナ缶たっぷりのオムライスがいいんだゾ!
エース
はぁ、はぁ、はぁあ……
デュース
お前、メシのことになると本当に聞く耳持たずだな…
ユウ
何で僕ら、食べる前に疲れてるの…?


​食堂の重厚な扉を潜り抜けた瞬間、エースとデュースが息を荒くしながら述べる

時刻はちょうど昼時。魔法の火で調理される香ばしいソースの匂いや、焼きたてのパンの香りが、広大な食堂の中に充満していた

エース
……あー、それにしても今日のパスタの匂い、ヤバくね? 完全に食欲そそるわ。デュース、お前何にすんの?
デュース
​……。……オムライス、いや、ハンバーグプレートも捨てがたい……
エース
おーい、デュース? 悩みすぎて魂抜けてんぞ


​デュースはメニューボードを睨みつけたまま、まるで行軍中の兵士のような顔で呟く

デュース
…いや、体力をつけるには肉だ。だが、昨日の予習で頭も使ったからな……。監督生は何にするんだ?
ユウ
んー……僕はそうだな、今日は日替わりのパスタにしようかな。あ、そうだ


​活気ある生徒たちの声に押されるようにして列に並びかけ、監督生がふと思い出したように背後へ振り返る

ユウ
ねえ、あなたくんは何が好き――












シーーン……












​問いかけは、虚空に消えた

​監督生の視線の先にいたのは、見知らぬハーツラビュル寮の生徒と、サバナクロー寮と思われる体格の良い男子生徒だけだった


ユウ
………………え?


そこにあるはずの、鋭い眼光を放つ金髪も、場違いなほど堂々とした立ち姿も、どこにも見当たらない

エース
どーした、監督生。変な顔して。……あ? あなたは?


​エースがひょいと首を傾げて、監督生の背後を覗き込む

ユウ
…………い、いない
エース
は?なにが?
ユウ
あなたくんが、どこにもいない!!


​監督生の悲鳴に近い声に、デュースがハッと我に返り、周囲を猛烈な勢いで見渡す

デュース
なんだと!? まさか、さっきの角を曲がった時に……!? おい、エース! お前、後ろに付いてきてるか見てなかったのか!
エース
はぁ!? なんで俺のせいなんだよ! お前こそ、案内役として一番後ろを歩くべきだっただろ、このバカデュース!
デュース
なんだと!? お前ッ、今は言い合っている場合じゃない! 
デュース
彼はこの学園の構造を全く知らないんだぞ! もし、もしも鏡の舎に迷い込んで、変な寮に飛ばされでもしたら……!
グリム
ふなっ!? アイツがいなきゃ、オレ様のメシの注文ができないんだゾ! 迷子センターはどこだ! 早く探しに行くんだゾー!
エース
迷子センターなんてねーよ! クソッ、アイツ……見た目は強そうだけど、中身はただの『異世界人』なんだぞ! 変な上級生に絡まれて、手ぇ出されたりしてなきゃいいけど……!
ユウ
逆だよエース! あなたくんが上級生をボコボコにして、退学騒動になる方が怖いわ!


​監督生のその一言に、全員の顔が真っ青に染まる

エース&デュース&グリム
……ありえる!!
エース
行くぞ!戻るんだ、今すぐ!
デュース
おい、待てエース! 走るとまた学園長に怒られ——
エース
知るか!騒動になる前に、あなたを探すのが先だッ!!


空腹で鳴り響いていたはずの腹の虫も、今の恐怖には勝てない

4人は注文しかけていた列を飛び出し、来た道を全力で、それこそ魔法でも使っているかのような速度で駆け出した














 
あなた
…………


​誰もいない廊下。先ほどまで響いていたグリムの騒がしい声も、エースの軽口も、嘘のように消えていた

私は、ポケットに両手を突っ込んだまま、呆然と広い廊下の真ん中に立ち尽くしている

あなた
…あいつら、本当に置いていきやがった


ドスの利いた、けれどどこか虚脱感の混じった独り言が、高い天井に虚しく響く

地元でつるんでいた連中なら、自分が立ち止まれば一瞬で気づいて戻ってきたはずだ。だが、ここは異世界

おまけに相手は、食い意地の張ったタヌキと、自分のことで手一杯な魔法使い見習いたちだ

あなた
………チッ、次会ったら絶対にまとめて正座させてやる


苛立ちを紛らわすように金髪を乱暴にかき上げると、私はとりあえず歩き出した

あなた
(幸い、鼻は利く方だから……)


微かに漂ってくる「飯の匂い」を頼りにすれば、あの馬鹿共が集まっている食堂へは辿り着けるはず……

あなた
左……いや、こっち?
あなた
(……駄目だ、無駄に広すぎてよく分からない)


​不機嫌極まりないオーラを撒き散らしながら、私は直角の曲がり角を、勢いよく曲がった





ドンッ




――っと!
あなた
わ……っ!


​鈍い衝撃

厚い胸板にぶつかったような感覚に、私の身体がわずかに揺らぐ

同時に、目の前には二つの影が立ちはだかっていた

おい、危ねェぞ。前を見て歩け


​上から降ってきたのは 低くて野太い、威圧感のある声

顔を上げると、そこには尖った耳と立派な尻尾を持つ、体格のいい銀髪の少年

……あ。……ごめん、怪我はない……?


​その隣で、申し訳なさそうに声をかけてきたのは、打って変わって可憐な容姿をした少年

あなた
…………あ?


​私の口から漏れたのは、低い地を這うような声

けれど、それは怒りからくるものではなかった。曲がり角でぶつかった衝撃も、置いていかれた苛立ちも、視界に飛び込んできた「それ」を見た瞬間に、脳内から綺麗さっぱり消し飛んでいた

………おい。アンタ、聞いてんのか?


彼は、目の前の金髪が放つ異様な「圧」に身構えていた

だが、私の視線が自分の顔ではなく、その少し上——頭頂部でピコピコと動く狼の耳に釘付けになっていることに気づき、背筋に奇妙な戦慄が走る

あなた
…………耳
は?
あなた
……耳が、生えてる。本当に、獣人っているんだ


私は一歩、また一歩と、獲物を狙う肉食獣のような足取りで銀髪の少年に詰め寄る

地元の抗争でさえ見せたことのない、異様なまでの集中力。その瞳はギラギラと輝き、ターゲットである三角形の毛塊を逃さじと見据えていた

な、なんだよアンタ……。
さっきから耳、耳って……


​銀髪の少年が気圧されて思わず後退りする
その隣で、可憐な少年が不思議そうに首を傾げた

……もしかして、ジャッククンの毛並みが気になるの……?
あなた
………触らせて
…あぁん!? 急に何言ってんだ!


怒鳴り声も、今の私には心地よいBGMにしか聞こえない

私の手が、まるで吸い寄せられるように銀髪の少年の頭上へと伸びる

あなた
いいだろ、ちょっとだけ。減るもんじゃないだろ……っていうか、その尻尾。それも本物なのか?
やめろ! 馴れ馴れしく近づくんじゃねェ! 尻尾を指差すな!
あなた
いいから一回だけ! 指先だけでもいいから、そのモフらせろッ!!
 



ドドドドドドドドドド………


 
 
その時、背後の廊下から地響きのような足音が迫ってきた





​「「「「いたあああああ!!!
       あなたーーーー!!!」」」」





​エース、デュース、監督生、そしてグリム
血相を変えた4人が、コーナーをドリフト気味に曲がって現れる

エース
あなた! 落ち着け! それは『喧嘩』じゃなくて『事案』だ!
デュース
やめろあなた! ジャックはああ見えてデリケートなんだ! 噛みつかれるぞ!


​エースとデュースが左右から私の腕をガッチリとホールドする

それでもなお、私はジャックの尻尾に向かって手を伸ばし、指をワキワキと動かし続けていた

あなた
放せ……! 私は今、異世界で一番大事なものを見つけたんだ……! あの耳の付け根の毛、絶対柔らかいだろ!
ユウ
どんな結論なの!?
……ごめん。ジャック、エペル!あなたくんはちょっと……いや、かなり頭がアレなんだ。悪気はないんだ、多分!


監督生が必死に弁明する横で、銀髪の少年は顔を真っ赤にして

……あー。おい、監督生。こいつ、お前の知り合いか? 随分と骨のある奴を連れてるんだな
(この人……。なんだか、凄く強そう…)


​静かな廊下に、ピリついた火花が散る

迷子の元ヤンと、硬派な一匹狼、そして秘めたる熱い魂を持つ美少年

食堂へ向かうはずの道筋は、さらに波乱の予感を孕んでいく



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