入学式、というと満開の桜を想像するが、最近の桜は早く咲いて早く散るもので、すでに8割ほどの花は散っていた。
今日は高校の入学式。中学の頃に結構頑張って、県内で最も偏差値が高いところに進学した。
それも、中学でできた友達である、コウメイ君と敢助くんも一緒に。
高校進学において、やはり仲の良い友達がいるというのは心強く、
今日から始まるJ Kライフに私は、不安よりも期待を抱いていた。
入学式の日だけれど、父は大事な会議が入ってしまって
どうしても来れない、とのことだった。だから一人で駅に向かう。
そう、高校生から電車通学になったのだ。
定期券で改札を通れる、それだけで少しかっこいいよな、なんて思う。
7時30分過ぎ、最寄り駅についたころ、改札前で、私はコウメイ君の姿を見つけた。
藤井「あ、コウメイ君じゃん!おはよう、!」
諸伏「おはようございます、藤井さん」
コウメイ君もまた、私と同じで1人だった。
藤井「コウメイ君、ご両親は入学式、見に来ないの?」
諸伏「え、ええ。忙しいそうで」
一瞬だけど、コウメイ君は少し悲しそうな顔をした......気がする。
まあ、そうだよね。高校の入学式、見に来てもらえないの悲しいもんね、と思う。
諸伏「そういう藤井さんこそ、お父様は?」
藤井「なんか、会議入っちゃったんだってさ」
諸伏「それは、残念ですね」
藤井「ま、しょうがないよ」
そんな話をしつつ、2人で改札を抜ける。
藤井「コウメイ君、制服、似合ってるね。中学の時の学ランも良かったけど、ブレザーだとより優等生って感じがして、すごい良い」
諸伏「藤井さんも、リボンの色が変わるだけでもこんなに印象って変わるんですね。お似合いですよ」
藤井「ありがとう...!」
諸伏「そういえば、藤井さん」
藤井「なに?コウメイ君」
諸伏「今日から、あなたの名前さん、と呼んでもいいでしょうか」
藤井「え?全然いいけど、なんで?」
諸伏「出会って2年たちましたし、それに、藤井さんはコウメイ君と呼ぶのに、私は藤井さんと呼んでいるの、なんだか距離があるようで、嫌だな、と」
藤井「なるほどね。だったら余計に、嬉しい!」
諸伏「じゃあ、改めて、これからもよろしくお願いしますね、あなたの名前さん!」
藤井「うん!」
名前で呼ばれる、それだけでなんだか特別な感じがした。
別に気にしていたわけではないのだが、それでもやっぱり
名前で呼びたいと思ってくれるほど、仲良くなれたのかなって思うと
やっぱり、嬉しいなと思うし、ありがたいよな、とも思う。
諸伏「あ、乗換ですよ」
藤井「え?あ、ほんとだ!」
電車で遠くに行ったことなんてほとんどなかったから、
ずっとずっと遠くにあると思っていたところにも
思ってるよりあっという間につくからびっくりする。
藤井「受験しに来たときは気にも留められなかったけど、校舎、きれいだね」
諸伏「そうですね」
藤井「中、はいろっか」
諸伏「親御さんと一緒の人が多いですね」
藤井「そりゃそうでしょ、入学式だもん」
諸伏「新入生は......一旦各クラスに行くようですね」
藤井「受付でクラスが書かれた紙、もらうっぽい。行こっか!」
諸伏「はい!」
入学式終了後
藤井「クラス、別れちゃったか」
諸伏「まあ、5クラスもあれば、仕方がないでしょう」
藤井「それもそうだけどさ、でも不安だな。敢助くんもクラス違ったし」
諸伏「でも、休み時間には会えますし、登下校も一緒にできますから」
藤井「うん、ありがとう、気にかけてくれて!」
そんなこんなで、今年からもコウメイ君と過ごす時間は多くなりそうだった。
諸伏「情けは人の為ならず、ですから」
藤井「それでも優しくしてくれるのは、ありがたいことだよ」
諸伏「あなたの名前さん、君は、優しすぎます」
藤井「私が...!?」
諸伏「ええ」
そんなこと、思ってもいなかったから、そういわれると、少し、嬉しい。
諸伏「本当に......優しすぎる......」
藤井「なんか言った?」
諸伏「いえ、なにも」
藤井「そう?あ、電車逃しちゃう!」
諸伏「ほんとですね、急ぎましょうか」
優しいね、って気にかけてくれるコウメイ君に、私は少しときめいた。
孔明くんに重ねてみていたコウメイ君ではなく、諸伏高明という、1人の人間に対して。
少し頬を赤らめているような気がして、そしてそんな顔を見られたくなくて、
電車を言い訳に歩く速度を上げる。
でも、これが恋なのかどうか、私には、わからなかった。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。