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第1話

第一夜 不穏
10
2026/01/04 17:58 更新
「まぁ今日もなんとも言えないクソみたいな1日だ」

男は缶ビールを片手に路地裏に座り込み独り言をぼやいた。ここは東京歌舞伎町。20時を過ぎ辺りには若者で溢れかえっていた。もう2日も何も食べていない。男はここで死ぬのだろうと静かに最後の時間を過ごしていた。なぜかここにくるまでの記憶がなく、家族や今までの生活、さらには自分の名前すら覚えていなかった。しかし右腕に付けられた古びたブレスケットだけは本能的に手放さずにいた。その時路地裏に野太い声が響いた‥

「お、いたいた笑おっさん今日はちゃーんとお金持ってるぅ?お裾分けしてねぇ?」
「何がお裾分けだよ笑全部持っていくくせに。」
「抵抗するなよ?痛い目に遭いたくないならな」

きたきた。男は特に抵抗する気もなく顔を上げる。そこには以前カツアゲに遭い金を全て取られた若者三人衆がいた。

「‥土下座したらくれてやってもいいぜ?クソガキども」

どうせ抵抗しても金は取られる。見えている結果を前に俺は漫画で主役がよく言っていそうな世迷言を吐き捨てた。しかしここは漫画の世界じゃない。案の定俺は反感を喰らいクソガキどもにリンチをくらった。俺は殴り倒されそのまま地面にぶっ倒れる

「おいおい‥このおっさんめちゃくちゃ弱えーじゃん。なんだったんだ今のセリフ」
「財布の中身わぁっと。おいおい小銭どころか紙切れ一枚入ってないぞ」

オール金髪の10代くらいの若者2人が俺の財布を見ながらぐちぐちと文句を言う。するともう1人が床に突っ伏している俺に近づいてくる。かなり太っており顔は他2人と比べるとかなり不細工だ。

「おいおっさん。身包み剥げよ?パチンコ代くらいにはなるだろ?それとも無理やり脱がせてやろうか?」

俺の服をパチンコ代に使おうとしてんじゃねーよクソガキども。しかしもはや生きる気力すらない俺は抵抗する気は当然なく、そのままゆっくり目を閉じた、その時、

「おいガキども、こんなところで何してんだ?」

路地裏にまた別の声が響き、声のした方をクソガキどもと同時に見やる。そこには白スーツ姿で髪型は七三分け、なぜか夜なのにサングラスをつけた男がゾロゾロと仲間を引き連れ路地裏の手前でこちらを睨みつけていた。

「な、何って、ただ話してただけっすよ」

明らかに態度の変わったガキどもはその男たちから逃げるように反対方向へと駆け足で消えていった。白スーツの男はガキどもには目もくれず俺の方をじっと見ていたが、やがて後ろにいる仲間に指示を出す

「おい、あいつでいいだろ。ここから引き摺り出せ」

指示を受けた仲間数人が路地裏に入ってきて俺を無理やり引っ張り出した。そしてリーダーと思われる白スーツの男の目の前で土下座の形で座らせられる

「お前のような社会の底辺に仕事をやろうと思ってな。これからお相手さんと大事な取引があるんだが、なかなか難しい話が舞い込んでてな。受取人として出向いてくれねーか?俺の指示通りにいったら大丈夫だ。報酬はちゃんとくれてやる」

なんとも身勝手な話だしそれよりあまりにもめんどくさい。俺はその場で断りを入れた。すると白スーツの男はいきなり俺の顔に膝蹴りを入れてきた。俺の口から血が飛び出してそのまま地面に倒れる。そのまま俺の髪を掴み持ち上げ目線を同じ高さに合わせて白スーツの男は言った

「お前、俺のこと知らねーんだな。この辺のシマで俺のことを知らない奴がいるとは。まぁいい。俺の話に拒否権なんかねーんだよ。断るならこの場でお前を殺す」

殺す‥か。このままゴミのように生きていても仕方がない。俺は殺されることを受け入れようとした。その時、後ろから甲高い声が響く

「あなたたち!今彼に暴力を振るおうとしていたわね?それにその人数‥全員逮捕します!」

声のした方を振り向くとそこには若い女警官がなぜか1人でこちらへ向かって歩いてきていた。目を見張るのはその美貌だろう。モデル雑誌に出ていてもなんら違和感がないスタイル、そして顔。目はぱっちり、鼻筋が通っており、なんとも美しい顔であった。さらにその下には強烈な二つの丘が揺れており、もはや警察のコスプレショーであった

「おいおいねぇちゃん、暴力なんざしてねーよ。こいつが俺たちのことを馬鹿にしてきたから謝れって言ってただけさ。それにこの口周りの傷はこいつが勝手に転んで怪我したものだ」

なぁ?と俺の方を見て同感を促す男の目には返事をしなければ殺す、と明確に意思表示がされていた。特に俺はどうでも良かったため返事を合わせる

「そう‥彼が何もされていないと言うのであれば逮捕することはできないわね。でもその人数で土下座の強要は土下座強要罪にあたるわ。それ以上続けるなら応援を呼ぶけど?」

応援を呼ぶ、か。そもそもパトロールを女1人でやってるのはどうかと思うんだが‥内心の俺の気持ちは誰にも伝わることなく、白スーツの男は軽く舌打ちすると仲間に行くぞと言って夜の街に消えていった。

「あなた大丈夫?他に怪我しているところはない?」
「‥別にどこも」

俺はそのまま立ち上がりまた路地裏の方へ歩いていく、しかし女刑事は何かと面倒な生き物らしい

「待ちなさい。あなた家はどこかしら?そのまま路地裏に行って何をするつもり?」
「めんどくせーな。別にいいだろうが。俺の好きにさせろよ」
「もしかして家がないのかしら?とりあえず署まで同行願える?このままあなたを1人にするわけにはいかないの。色々と話聞くから」

あーこれめんどくさいやつだ。どう考えても俺にとって最悪の展開が見え俺は路地裏に猛ダッシュで逃げ込んだ

「な、待ちなさい!」

そのまま女刑事も路地裏に入ってくる。ったくめんどくせーな。こいつさてはポイント稼ぎというやつか?俺はそのまま路地裏を抜けて街の中へ逃げていく、

「やっぱり何か隠してるのね!絶対逃さない!」

彼女は応援を呼ぶことを忘れそのまま1人で追いかけ続けている。俺は振り返り女刑事がまだ追いかけてきていることに気づき勘弁してくれよ、とそのまま商店街に入る

「く、どこに行ったの?私の足で追いつかないなんて、相当足が早いわね」

ふぅ。なんとか逃げ切ったみたいだな。今更警察のお世話なんざごめんだぜ。俺はそのまま夜の商店街を抜け人混みの少ない路地へと入っていった
その時彼女の無線が響く

「鈴音巡査、今どこに?」
「こちら鈴音巡査、今怪しい男を追跡中、見失いました。しかし現在捜索中です」
「‥ハァ。鈴音巡査、いつも言っているだろ。なぜ勝手な行動を取るんだ。さっきだっていつのまにか俺の前から消えて‥もういいすぐに合流するぞ」
「‥わかりました。場所を伝えます」

鈴音は内心ムッとしていた。彼女は正義感が強く、犯罪に大きいも小さいもないと常に考えておりどんなに小さな犯罪であっても決して見逃すことはなかった。本来あるべき警察の姿ではあるのだが、あまりにも融通が効かない彼女の言動に評判は決して良いものではなかった。

「私はただ保護しようと思って話しかけただけなのに‥全くなんでいつもこう上手くいかないんだろ‥」

そう言って再び無線で位置を送ろうとしたその時鈴音の視野に警戒レベルマックスの二人組が人気のない路上へ駆け出していくところを目撃した。普通の人間はスルーするところであろうが、彼女の中には見ぬふりという言葉は存在しない。そして無線をつなぐと

「こちら鈴音巡査、怪しげな二人組を発見、直ちに追跡を開始します。応援を要請」

向こうからの返答はおそらく現場の状況や二人組の特徴の旨を伝えろ等のものであろう。しかしそんな時間はない。彼女は無線を切り尾行を開始した。

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