前の話
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パソコンの音と、何かを書き込むペンの音だけが暗闇の中に小さく響く。それが一つの欠伸を合図にピタ、とやんだ。少しの静寂の後、すぅすぅと規則正しい寝息を立てている彼と、未完成な書類を一つのライトが照らしている。普段見せない整った素顔を晒して、疲れきった顔で仮眠をとっている彼、そう、青井らだおの顔にはくっきりと青黒い隈が目立っていた。そこには、コツコツと進めていてもどんどん積まれていく書類のタワーが、机の半分を陣取っている。もうすぐ午前4時、後数時間で日が昇る時間だ。朝がくる。
/ rdo side
警察で働き始め、上官として後輩に慕われるようになってから睡眠時間が前に比べ どんどん短くなっていった。ランクが上がる度に増えていく負担やプレッシャーに耐えられなくて、不安で不安で眠れない。そんな日が何日も続いた。あまり眠れてないせいか、普段ならしないようなミスが目立つようになった。はぁ、とつきたくもないため息が口から勝手に溢れる。今日はなんだか気怠い気がするし、頭がズキズキと痛み、目眩がする。今日は事件対応より事務作業を優先しようと決め、早速取り掛かった。
「⋯よーしやるかぁ、」
机に山のように置かれた資料に取り掛かった。
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半分終わった頃には、少ししたら治るだろうと思っていた頭痛が前よりもっと酷くなっていた。胃がぐるぐると渦巻いているみたいに気持ち悪いし、目の前がぼやけてパソコンの字もまともに読めない。これは流石にやばいと感じた俺は、力が入らない足でいつものソファまで急いだ。
「げほ、っ⋯」
視界がぐらぐらして上手く歩けないが、手すりを使って何とか階段を上り、ソファに体を投げ出す。治まらない痛みや吐き気にイライラして、視界が涙で滲む。常備している頭痛薬と睡眠薬を無理矢理流し込み、ぎゅっと目をつぶって眠くなるのを待った。
/ tbur side
「⋯?らだおなんかおかしくないか?」
大型後のチルタイムに昼食を食べながら談笑をしていた時、先程まで笑っていたオルカが、急に眉間に皺を寄せ 俺の真後ろを指して言った。オルカの指の先には、フラフラした足取りで階段を上っているアオセンがいた。
「そういえば今日の大型対応、らだお先輩いましたっけ?」
「オルカは見てないぞ!ヘリはオルカと皇帝が出してたからな」
「らだおなら今日ずっと事務作業してましたよ」
まるんやオルカ、カニくん達と情報を出し合いながら、うーんと頭を捻って考える。そういえば最近アオセンが寝ているところを見てないような気がするが、タイミングが合わなかっただけだろうか。
「よし、じゃあらだおくんの先輩の私が様子を見てこよう」
「いや、俺が行きますよ!キャップには任せられないっす」
「なんだと!それくらいできるわ!w」
「じゃあオルカも行くー!」
元気に手を挙げて自分も行く、と主張するオルカ。それに続けて、力二くんとまるんも着いてくると言い出す。
「くそ⋯埒が明かねぇな⋯」
「よし、じゃあみんなで行くか」
そう言うキャップの提案に渋々了解した俺は、見失ったアオセンの背中を追うように早足で歩き出した。だが、階段を上がっても姿は見えない。
「どこいったアオセン」
「いつも寝てるソファじゃないですか?」
「あー、ありえるな」
少しの沈黙の後、今まで静かだったカニくんが口を開いた。
「⋯なんか声聞こえないっすか?」
確かに鼻水を啜るような音や誰かの嗚咽のような声が小さく聞こえてくる。それに気づいた俺は、誰よりも早く声の元まで走った。
「っ、アオセン?」
そこにはヘルメットを抱えて、ソファの上で小さく蹲っているアオセンがいた。いつもは見せない弱々しい姿に、なんと声をかければいいか戸惑ってしまう。
「っ、ひっ、ぅ」
「らだおっ、?!」
俺の後を追って駆けつけた奴らも、今のアオセンの状態を見て固まっている。ゆっくりと近づいてソファの横にしゃがみ、そっと背中に手を当てる。その背中は発熱しているのかとても熱く、しゃくりあげたときの振動が手に伝わる。
「アオセン⋯アオセン!」
とんとんと優しく肩を叩いても、帰ってくるのは嗚咽のみ。背中を向けている彼の顔を覗き込むと、閉じている瞼から大粒の涙が溢れていた。きっと起こした方が良いと思い、少し強めに体を揺らす。
「ん、⋯つぼ、うら、?」
ゆっくりと開いたその瞼から潤んだ大きな瞳が覗いていて、その目からは絶え間なく涙が流れ続けている。
「おう、そうっすよ。何があったんすかアオセン」
「っ、みない、で⋯っひぐ、う“ぅ〜〜」
震えた細い腕で俺を押しのけ、手の甲で顔を隠す。それでも反対の手は俺の服をしっかり握っていて、身動きが取れない。
「大丈夫からだおくん!」
「どうしたんだ誰にやられたんだ!?」
そんな心配の言葉が聞こえていないのか、無反応だったアオセンが、急に顔を歪めた。
「げほ、っ、ぅぷ、」
何かを吐き出しそうになるのを抑えるように、頬を膨らませ、口を押え始めた。
「⋯!ゴミ袋、!!」
「っわかった!私が持ってこよう」
今までで見たこともない速さで忙しく駆け出すキャップに、何事だと騒ぐ無線。苦しそうにしているアオセンを起き上がらせ、背中を摩る。
「持ってきたぞ、!!」
ドタドタと息を切らしたキャップが、ビニール袋を俺に差し出し、その袋をアオセンの口の前に持って行って、背中を支える。
「手が空いてる人は、俺と一緒に必要なもの取りに行きましょ」
そう言って、テキパキと指示を出すカニくんに、水やティッシュなどの必要な物は任せて、今にも吐き出しそうなアオセンの看病に集中した。
「は、ぅ…げほっ、お“ぇ…っ」
小さな口から吐き出される吐瀉物と、大きな目から溢れる涙がボロボロと袋に溜まっていく。辛そうに嘔吐く彼の姿に、いつもみたいな大きな背中の影はなく、ただ苦しそうで胸が痛い。
「ご、めん、きたない、のに、」
全部出し終えたのか、力が抜けてぐったりとしていて、俺の服を握っている手はカタカタと小さく震えていた。
「アオセン、こっち向いて」
カニくん達が持ってきてくれたティッシュで、汚れた口の周りと、まだ流れ続けている涙を手際良く拭き取り、額にべったりとくっついた前髪をかき分け、タオルで汗を拭いた。
「ん、ありがと、ぅ、ごほっ、」
「はいはい、アオセンはまず人に頼るって事を覚えなきゃっすね」
ソファの空いた席に座り、震えた小さな手に自分の手を重ねる。力尽きたのか、こちらに体重を掛けてくる彼を受け止め、背中に手を回して包み込んだ。あやす様にトントンと摩ってあげると、先程までグズグズ泣いていたのが嘘のように泣きやみ、規則的な寝息を立てていた。
「ふは、赤ちゃんかよ、w」
特徴的な青みがかった髪を手櫛でとくように撫でると、ふわふわしていてずっと触っていたくなるような触り心地で気持ちがいい。これはいつも頑張ってくれている特殊刑事課対応課へ、特殊刑事課からのご褒美だからな。
まあ今日は特別にロケラン打つの控えてやろう、と心に決めた。
後日、この様子が話題になって、ロケランが飛び交うのは言うまでもない。
再掲です。供養させてください。
rdさん、Twitchでの活動を休止されましたね。もうストグラは帰って来ないのかな、とふと思ったときにこの作品を思い出したのでもう一度投稿させて頂きました。
恥ずかしくなったらこっそり消します。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。