あれはインターハイ予選決勝で私たちの敗退が決定してから少しだった頃だった。
珍しく改まった徹が私と一を徹の部屋へと招待してくれた
徹の部屋に集まるのはいつもの事だしと思っていたが、なにか重大な話を抱えていることは表情を見ればすぐにわかった。
及川「……で、話って言うのがさ、」
岩泉「おう。」
及川「進路のことなんだけどさ。」
あなた「……進路。」
夏休み目前、確かに高校三年生の私たちにはとても重要な時期だ。
それぞれの将来についても決めていかなくてはいけない。
そんな現実を突きつけられたような気がした。
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あなた「私ってさ、中学も高校も自分で決めたこと無かったんだよね。」
二口「え、じゃあどーやって決めたんだよ」
あなた「全部徹と一に誘われて行っただけなの。バレー部のマネージャーとそう。誘われたからやっただけ。……だから、正直この先も2人が自分を導いてくれるって勝手に思ってたんだ。」
二口「………。」
あなた「だからまさか2人がちゃんとそれぞれの進路考えてるなんて思わなくて、ショックだったんだ笑」
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あなた「進路って…?」
及川「……俺、卒業したらアルゼンチンに行こうと思う。」
岩泉「……そうか。」
あなた「……え、あ、アルゼンチン??え、あの、南アメリカの??」
及川「そう…。」
あなた「…そ、そっか」
正直言って宮城を出ていくんだろうなとは漠然と予想していた
しかしまさか日本国内では無いと聞いてあまりにも驚いてしまって平然を装うのに必死だった
そして何より驚いたのは一がすんなりと受け止めていたことだった
あなた「一は驚かないの?」
岩泉「いや、まぁでもなんとなく分かってたしな。及川お前それ結構前から考えてたことだろ」
及川「……うん、高校一年生の時とかにはもう既に…」
あなた「…あ、そ、そうだったんだ。」
自分だけが気がついていなかった
こんなにも長い時間を一緒にしていたのに。
あなた「そっか、でも、……そっかぁ…。ごめん、応援したいのになんか、悲しい気持ちの方が大きいかも」
及川「むしろ俺はそっちの方が嬉しいけど…」
岩泉「大丈夫だあなた。別に会おうと思えば会えるし、お前が呼べばすぐ帰ってくる」
及川「もちろん!!あなたになんかあればすぐ飛んでくるよ!!」
あなた「……あはは、…うん、そっか。」
及川「2人には先に伝えておきたくて。みんなにはまだ言ってないんだ。」
岩泉「あいつらなら応援してくれるだろ。」
あなた「だね。」
及川「岩ちゃんは進路決めてるの?」
岩泉「ん?あー、まぁな。俺ももしかしたら海外に行く時期があるかもしんねぇ」
あなた「え゛、は、一も……??」
岩泉「おう。つっても及川みてぇに拠点自体を海外にするわけじゃねぇよ。」
あなた「あ、そっか。」
一の言う海外へ行くというのは徹とは違い一時的んだけど留学のようなもの。
そう聞いて心底安心した。
もしふたり揃って自分から離れて言ってしまうと考えると悲しくて堪らなかったから。
及川「…あなたは?」
あなた「え?」
岩泉「なんかねぇの。この先自分が何してぇとか。」
あなた「いや、まぁそりゃ高三のこの時期だし考えてない訳では無いけど……」
私も何となくではあったが考えていることはあった。
でもそれは徹と一がいてこその夢だった。
中学の3年間と高校のこの3年間での部活動を通して、スポーツに取り組む人を支える仕事にやりがいを見つけた。
あなた「2人のおかげだよ。2人がマネージャーに誘ってくれたから。」
及川「いやいや、誘ったのは俺らだけど一生懸命取り組んだ上でやりがいを見いだせたのはあなたの力だよ」
岩泉「スポーツに携わる仕事ってことだろ?」
あなた「うん。……で、でもさ。それは徹と一を支えていきたいって思ったからなの。だから、もしふたりがそばにいないなら違うのかなって。」
こんなことを言ってしまえば2人の心の負担になってしまうのではないか、
夢の妨げになるのではないか
そうわかっていたはずなのについつい本音が盛れ出してしまう
そんな私を2人は静かに見つめ続ける
及川「……それは、違うんじゃないかな。」
あなた「え?」
及川「もちろん今までずっと俺らのマネージャーをしてくれてたわけだけど、そこからユースのマネとかを初めて自分の世界を広げていったのはあなたの頑張りだし、あなたの意思でしょ?」
岩泉「それは俺も思うぞ。あなたは自分で自分が思ってるより多分マネージャーの仕事が好きなんだと俺は思ってる。」
あなた「……。」
2人の言葉がストン、と胸に落ちていく
あなた「そっかぁ、私、マネジメント好きなのかな」
及川「第三者から見てるとそう見えるよ」
岩泉「俺からもそう見えた」
あなた「……うん、そうかも笑」
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あなた「それからしばらくして、色々大学とか調べたんだけどいいとこなくて困ってたとこに徹と一が『東京も視野に入れてみたら?』って言ってくれて」
二口「あーー、なんかオープンキャンパスも行ってたもんな」
あなた「そう、行くの付き合ってくれたんだ」
二口「はーーー、さすがだわあの人ら。愛重すぎだろ」
あなた「うーん、それが愛なのかはわかんないけど、2人は自分のことだけじゃなくて私の将来まで一緒に考えてくれてたんだ。」
二口「ふーーーん。」
興味津々とは言えないような反応でストローの飲み口を噛む二口
目を薄めてこちらをジッとみている
あなた「……なにいじけてんの。」
二口「いやぁ、俺があなたと同じ学年で同じ学校だったら良かったのになぁ」
あなた「あはは、何それ」
二口「あーー、ちょっと俺コーヒーおかわりしてこよ」
あなた「あ、うん行ってらっしゃい」
持っていたコップのコーヒーを飲み干し、席を立った二口を見送り、お店のウィンドウの外に目をやったところでパチリと知っている顔と目が合った。
あなた「あれ___。」












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!