第328話

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2026/02/25 02:27 更新
 心操は重い脚を動かし、近くの自販機へ向かった。小銭を投入し、ボタンを押す。ガコン、と重い音が響き、取り出し口に青いボトルが転がった。あの日、彼女が自分に放り投げてきたのと同じ、スポーツドリンク。


「はいこれ、この前のお返し」

『……』

「いや、流石に覚えてるよね。え、覚えてない?」

『しつこい。忘れてねぇよ』


 ぶっきらぼうにボトルを引ったくった彼女が、慣れた手つきで蓋を開ける。心操はその横顔を盗み見ながら、かつての自分を思い出していた。

 体育祭。あなたは自分の個性を「怖い」とも「卑怯」とも言わず、ただ対等な能力として認め、あまつさえ良い個性とも言った。
 それがどれほど救いになったことか。周囲に貼られたヴィラン向きの個性というレッテルを、彼女はいとも容易く剥がしてみせたのだ。

 だから、今、かつての自分と同じように出口を見失っている彼女を見て、放っておけるはずがなかった。
 「ねえ」と、浅く息を吸う。この横たわる境界線を、今は踏み越える番だと思った。


『……何だ』

「今から言うことは、俺の独り言というか、うまく言葉にできないことなんだけど」


 心操は、手の中の飲み物をじっと見つめながら、ポツリと独白を始めた。


「あなたさんってさ。……良い意味で、俺らが思っているよりずっと、よく考えてるんだろうなって思う。それも、迷う時間を限りなく削ぎ落として、それを“即断即決”みたいに見せてるみたいな。衝動任せに動いているように見えて、実はその逆。……繊細、って言うのかな。そういうの」


 あなたの、ペットボトルを傾けようとした手が止まる。
 心操は、自分の声が微かに震えるのを抑えられなかった。これは、憧憬であり、理解であり、そして彼なりの愛着の告白だった。


「だから、羨ましいんだよ。俺なんか、迷ってるうちに色んなことが終わっちまうし。……でもさ、俺が言いたいのは、つまり」

「あなたさんはそれだけ繊細に物事を見て、選んでる。だからこそ……俺から見たら、あなたさんは十分やってると思うし、これ以上、自分で自分を追い込むのは——贅沢っていうか、酷じゃないの」


 あなたは、大きく目を見開いた。
 なぜできなかったという出口のない自問自答。
 自責という泥濘に足を取られていたあなたにとって、心操の「十分やってる」という響きは、あまりに無防備で、あまりに真っ直ぐな肯定だった。

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