心操は重い脚を動かし、近くの自販機へ向かった。小銭を投入し、ボタンを押す。ガコン、と重い音が響き、取り出し口に青いボトルが転がった。あの日、彼女が自分に放り投げてきたのと同じ、スポーツドリンク。
「はいこれ、この前のお返し」
『……』
「いや、流石に覚えてるよね。え、覚えてない?」
『しつこい。忘れてねぇよ』
ぶっきらぼうにボトルを引ったくった彼女が、慣れた手つきで蓋を開ける。心操はその横顔を盗み見ながら、かつての自分を思い出していた。
体育祭。あなたは自分の個性を「怖い」とも「卑怯」とも言わず、ただ対等な能力として認め、あまつさえ良い個性とも言った。
それがどれほど救いになったことか。周囲に貼られたヴィラン向きの個性というレッテルを、彼女はいとも容易く剥がしてみせたのだ。
だから、今、かつての自分と同じように出口を見失っている彼女を見て、放っておけるはずがなかった。
「ねえ」と、浅く息を吸う。この横たわる境界線を、今は踏み越える番だと思った。
『……何だ』
「今から言うことは、俺の独り言というか、うまく言葉にできないことなんだけど」
心操は、手の中の飲み物をじっと見つめながら、ポツリと独白を始めた。
「あなたさんってさ。……良い意味で、俺らが思っているよりずっと、よく考えてるんだろうなって思う。それも、迷う時間を限りなく削ぎ落として、それを“即断即決”みたいに見せてるみたいな。衝動任せに動いているように見えて、実はその逆。……繊細、って言うのかな。そういうの」
あなたの、ペットボトルを傾けようとした手が止まる。
心操は、自分の声が微かに震えるのを抑えられなかった。これは、憧憬であり、理解であり、そして彼なりの愛着の告白だった。
「だから、羨ましいんだよ。俺なんか、迷ってるうちに色んなことが終わっちまうし。……でもさ、俺が言いたいのは、つまり」
「あなたさんはそれだけ繊細に物事を見て、選んでる。だからこそ……俺から見たら、あなたさんは十分やってると思うし、これ以上、自分で自分を追い込むのは——贅沢っていうか、酷じゃないの」
あなたは、大きく目を見開いた。
なぜできなかったという出口のない自問自答。
自責という泥濘に足を取られていたあなたにとって、心操の「十分やってる」という響きは、あまりに無防備で、あまりに真っ直ぐな肯定だった。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!