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第47話

#048
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2026/03/09 11:09 更新





ハチノスの地下牢に閉じ込められて3日目。
 私のストレスは限界を突破しそうだった。


「……お風呂入りたい」

「あとで入りましょうね」

「ふわふわのパジャマ着たい」

「帰ったら買いましょうね」

「イチゴのショートケーキ食べたい」

「ホールで買いますから」


 コビーは私の膝枕(交代制)で仮眠を取りながら、寝言のように私の要望を全て肯定してくれている。
 完全に扱いが「ワガママな幼児」だ。でも、そうでもしてないと気が狂いそうになるのだ。


「……ねえコビー。なんか、変な気配しない?」


 私がふと呟くと、コビーがパチリと目を開けた。
 彼の『見聞色』も反応しているようだ。


「……はい。看守ではありません。もっとこう、質量のない……」


 ホロホロホロ……


 不気味な笑い声と共に、鉄格子をすり抜けて「それ」はやってきた。
 白い幽霊(ゴースト)だ。
 目がまん丸で、舌を出している。


「うわぁっ!? お化け!?」

「ひぃぃっ! ゴースト!?」


 私とコビーが抱き合って怯えていると、幽霊の後ろから、ピンク髪のツインテールをした女の子が姿を現した。
 フリルたっぷりのゴスロリ服に、王冠のような帽子、そしてクマのぬいぐるみ。


「……あ」


 私の目が、カッと見開かれた。


「……か、かわいぃぃぃぃぃっ!!!」


 私は鉄格子に張り付いた。


「なにその服! 超可愛い! そのクマちゃんも可愛い! ねねね、どこのブランド!? 私も着たい!」

「はぁ!? なんなのよお前! うるさいわね!」


 女の子――ペローナが、ドン引きして後ずさった。
 かつてスリラーバークで麦わらの一味を苦しめた「ゴーストプリンセス」だ。


「あなたさん! 落ち着いてください! 彼女は海賊ですよ!」

「だってコビー見てよ! 超タイプ! あのフリフリ、私が着たら似合うと思わない!?」

「似合うだろうけどカジュアルの方が…って違います!! 今はそういう状況じゃありません!」


 コビーが私の腰を掴んで引き剥がす。
 ペローナは「フン」と鼻を鳴らし、宙に浮きながら腕を組んだ。


「あんたたち、海軍ね? ……ここにモリア様が捕まってるって聞いて来たんだけど、知らない?」

「ゲッコー・モリア……!」


 コビーの顔色が変わる。
 そうか、黒ひげは能力狩りのために、元七武海のモリアも捕らえていたのか。


「……知ってますよ。この奥の独房から、微かに声が聞こえます」

「本当!?」

「はい。でも、そこは厳重に鍵がかかっています。貴女一人じゃ、助け出すのに時間がかかるんじゃないですか?」


 コビーが眼鏡を光らせて交渉モードに入った。
 ペローナが怪訝そうに眉をひそめる。


「……何が言いたいのよ」

「取引しませんか? 僕たちがモリアさんの救出を手伝います。その代わり……」


 コビーが私の手首の海楼石の手錠を見せた。


「この手錠の鍵を盗んできてください。貴女のゴーストなら、看守室から盗めるはずです」

「ハーッハッハ! 海兵が海賊に助けを乞うなんて傑作だわ! ……でも、悪くない提案ね」


 ペローナはニヤリと笑った。


「いいわよ。モリア様のためなら、一時的に手を組んであげる。……感謝しなさいよ、この私が直々に鍵を取ってきてあげるんだから!」

「やったー! ありがとうゴスロリちゃん!」

「ペローナ様と呼びなさいよ!」

 ペローナは「ホロホロホロ!」と笑いながら、ゴーストを使って壁の向こうへ消えていった。



 ***



 数分後。
 チャリン……という金属音と共に、鍵束が私たちの前に落とされた。


「ほらよ。看守は全員ネガティブにしてやったわ」

「す、すごい……さすがです……」


 コビーが震える手で鍵を拾い、私の手錠の鍵穴に差し込む。
 カチャリ。
 重たい拘束が外れた瞬間、全身に力が戻ってきた。


「ふっかーーーつ!!」


 私は手錠を投げ捨て、両手を広げた。
 『パスパスの実』の力が、指先に戻ってくるのを感じる。


「ありがとうペローナちゃん! 大好き!」

「気安く触るんじゃないわよ!」

「次は僕です! 早く!」


 コビーの手錠も外される。
 彼は手首をさすりながら立ち上がり、キリッとした表情に戻った。


「よし……これで戦えます。行きますよ、あなたさん、ペローナさん!」

「命令すんな! 私がリーダーよ!」

 即席の「カワイイ同盟(命名:私)」の結成だ。
 私たちは牢屋を出て、薄暗い廊下を走り出した。


「ねえペローナちゃん、ここ出たらその服貸してね」

「貸さないわよ!」

「あなたさん、緊張感を持ってください! 敵の本拠地ですよ!」


 前を行くペローナのゴーストが索敵し、コビーが『見聞色』で看守の位置を把握する。
 そして、もし敵と鉢合わせたら、私の出番だ。


「あ、看守発見」

「『パスパス』!」


 シュンッ!


 私は看守と、近くにあった「空の樽」を入れ替えた。
 看守は一瞬で牢屋の中へ転送され、閉じ込められる。


「楽勝だね! 私たち最強かも!」

「油断大敵です! ……でも、いいペースですね」


 私たちは地下深部、モリアが捕らえられているエリアへと進んでいく。
 しかし、ハチノスの恐怖はここからが本番だった。
 この島には、黒ひげ海賊団の凶悪な幹部たちがウヨウヨしているのだから。


「……クソッ、なんだか嫌な予感がする」

「コビーの予感は大体当たるんだよねぇ……」


 私たちの脱獄劇は、まだ始まったばかり。
 お風呂とケーキへの道のりは、まだまだ遠い。

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