ハチノスの地下牢に閉じ込められて3日目。
私のストレスは限界を突破しそうだった。
「……お風呂入りたい」
「あとで入りましょうね」
「ふわふわのパジャマ着たい」
「帰ったら買いましょうね」
「イチゴのショートケーキ食べたい」
「ホールで買いますから」
コビーは私の膝枕(交代制)で仮眠を取りながら、寝言のように私の要望を全て肯定してくれている。
完全に扱いが「ワガママな幼児」だ。でも、そうでもしてないと気が狂いそうになるのだ。
「……ねえコビー。なんか、変な気配しない?」
私がふと呟くと、コビーがパチリと目を開けた。
彼の『見聞色』も反応しているようだ。
「……はい。看守ではありません。もっとこう、質量のない……」
ホロホロホロ……
不気味な笑い声と共に、鉄格子をすり抜けて「それ」はやってきた。
白い幽霊(ゴースト)だ。
目がまん丸で、舌を出している。
「うわぁっ!? お化け!?」
「ひぃぃっ! ゴースト!?」
私とコビーが抱き合って怯えていると、幽霊の後ろから、ピンク髪のツインテールをした女の子が姿を現した。
フリルたっぷりのゴスロリ服に、王冠のような帽子、そしてクマのぬいぐるみ。
「……あ」
私の目が、カッと見開かれた。
「……か、かわいぃぃぃぃぃっ!!!」
私は鉄格子に張り付いた。
「なにその服! 超可愛い! そのクマちゃんも可愛い! ねねね、どこのブランド!? 私も着たい!」
「はぁ!? なんなのよお前! うるさいわね!」
女の子――ペローナが、ドン引きして後ずさった。
かつてスリラーバークで麦わらの一味を苦しめた「ゴーストプリンセス」だ。
「あなたさん! 落ち着いてください! 彼女は海賊ですよ!」
「だってコビー見てよ! 超タイプ! あのフリフリ、私が着たら似合うと思わない!?」
「似合うだろうけどカジュアルの方が…って違います!! 今はそういう状況じゃありません!」
コビーが私の腰を掴んで引き剥がす。
ペローナは「フン」と鼻を鳴らし、宙に浮きながら腕を組んだ。
「あんたたち、海軍ね? ……ここにモリア様が捕まってるって聞いて来たんだけど、知らない?」
「ゲッコー・モリア……!」
コビーの顔色が変わる。
そうか、黒ひげは能力狩りのために、元七武海のモリアも捕らえていたのか。
「……知ってますよ。この奥の独房から、微かに声が聞こえます」
「本当!?」
「はい。でも、そこは厳重に鍵がかかっています。貴女一人じゃ、助け出すのに時間がかかるんじゃないですか?」
コビーが眼鏡を光らせて交渉モードに入った。
ペローナが怪訝そうに眉をひそめる。
「……何が言いたいのよ」
「取引しませんか? 僕たちがモリアさんの救出を手伝います。その代わり……」
コビーが私の手首の海楼石の手錠を見せた。
「この手錠の鍵を盗んできてください。貴女のゴーストなら、看守室から盗めるはずです」
「ハーッハッハ! 海兵が海賊に助けを乞うなんて傑作だわ! ……でも、悪くない提案ね」
ペローナはニヤリと笑った。
「いいわよ。モリア様のためなら、一時的に手を組んであげる。……感謝しなさいよ、この私が直々に鍵を取ってきてあげるんだから!」
「やったー! ありがとうゴスロリちゃん!」
「ペローナ様と呼びなさいよ!」
ペローナは「ホロホロホロ!」と笑いながら、ゴーストを使って壁の向こうへ消えていった。
***
数分後。
チャリン……という金属音と共に、鍵束が私たちの前に落とされた。
「ほらよ。看守は全員ネガティブにしてやったわ」
「す、すごい……さすがです……」
コビーが震える手で鍵を拾い、私の手錠の鍵穴に差し込む。
カチャリ。
重たい拘束が外れた瞬間、全身に力が戻ってきた。
「ふっかーーーつ!!」
私は手錠を投げ捨て、両手を広げた。
『パスパスの実』の力が、指先に戻ってくるのを感じる。
「ありがとうペローナちゃん! 大好き!」
「気安く触るんじゃないわよ!」
「次は僕です! 早く!」
コビーの手錠も外される。
彼は手首をさすりながら立ち上がり、キリッとした表情に戻った。
「よし……これで戦えます。行きますよ、あなたさん、ペローナさん!」
「命令すんな! 私がリーダーよ!」
即席の「カワイイ同盟(命名:私)」の結成だ。
私たちは牢屋を出て、薄暗い廊下を走り出した。
「ねえペローナちゃん、ここ出たらその服貸してね」
「貸さないわよ!」
「あなたさん、緊張感を持ってください! 敵の本拠地ですよ!」
前を行くペローナのゴーストが索敵し、コビーが『見聞色』で看守の位置を把握する。
そして、もし敵と鉢合わせたら、私の出番だ。
「あ、看守発見」
「『パスパス』!」
シュンッ!
私は看守と、近くにあった「空の樽」を入れ替えた。
看守は一瞬で牢屋の中へ転送され、閉じ込められる。
「楽勝だね! 私たち最強かも!」
「油断大敵です! ……でも、いいペースですね」
私たちは地下深部、モリアが捕らえられているエリアへと進んでいく。
しかし、ハチノスの恐怖はここからが本番だった。
この島には、黒ひげ海賊団の凶悪な幹部たちがウヨウヨしているのだから。
「……クソッ、なんだか嫌な予感がする」
「コビーの予感は大体当たるんだよねぇ……」
私たちの脱獄劇は、まだ始まったばかり。
お風呂とケーキへの道のりは、まだまだ遠い。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。