初めて宝塚を観た日のことを、
私は今でもはっきりと覚えている。
舞台の中央に立っていた娘役が、
世界の空気を一瞬で変えた。
夢白あや。
指先ひとつ、視線ひとつで、役も物語も
自分の色に染めてしまう人。
その姿に心を撃ち抜かれて、私は宝塚を目指した。
その想いだけを胸に、がむしゃらに頑張ってきた。
少しでも近づきたくて、少しでも同じ景色をみたくて。
人より多く稽古して、人より早く上に行かなきゃいけない
気がしていた。
ある日の稽古終わり。
誰もいなくなった稽古場で振りを確認していると、
静かな声がかかる。
振り向くと、そこにいたのはあやさんだった。
優しいのに、芯のある声。
その言葉に、胸の奥を見透かされた気がして、
思わず本音が溢れた。
自分でも驚くほどまっすぐな声だった。
少し沈黙が落ちる。
あやさんは困ったように、でもどこか愛おしそうに笑った。
その一言が、柔らかく胸に落ちる。
目が合った瞬間、心臓が大きく跳ねた。
その日から、世界が少しだけ違って見えた。
焦りが消えたわけじゃない。
憧れがなくなったわけでもない。
でも、
誰かになるためじゃなく、
自分として舞台に立つために歩いていけばいい。
そう思えた。
舞台袖で見るあやさんの背中は、相変わらず眩しい。
それでも今は、ただ追いかけるだけじゃなくて、
いつか並び立つ未来を、静かに夢見ている。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!