敵対組織の人間を拷問するという依頼の対価は、
嘗て私と同様に
可愛がっていた子どもの様子を見てくることだった。
齢は14。
そこそこ小柄、だと思う
…私と比べて頭一つ分とまでは行かないが。
姉の様に慕っていてくれた子。
名を鏡花、氏を泉ーーー泉鏡花。
私が苦しめてしまった内の1人。
それを、彼女本人は知らないけれど。
今は「武装探偵社」という所にいるらしい。
尾崎幹部からの情報なら間違いないだろう。
なにやら人虎と行動を共にすることが多いらしいので、
藍か白の髪を探せばよかろう。
まぁでも、一応、連絡くらいはしておくべきだろう。
あの人に言伝を頼んでおいて
伝わっていたことなど片手で数えられる程度だが、
やらないよりかは幾分マシだ。
さて、
マフィアを抜けた鏡花はどんな風に変わったのだろうか。
今から楽しみだ。
午前十時。
世間は始業してしばらく経ち、
各々が学業や仕事に打ち込むこの時間。
私は一人、武装探偵社と書かれた扉の前に立っていた。
ちゃんと伝わっていることを祈り、
三回のノックの後、扉を開ける。
泉鏡花はいますか、
と言い切るより先に銃口が向けられ、
咄嗟に両手を挙げてしまった。
目線だけ動かして確認すれば、
正面にいる銃を構える長身の男と、
警戒態勢に入っている橙色の髪の男に、人虎がいる。
そして人虎の後ろに鏡花。
そうだ、正面の彼の名前は国木田独歩。
奥の橙色の髪の男が谷崎潤一郎。
任務帰りの樋口が言っていた。
ポートマフィア
その単語にその場の全員が反応した。
ほぼ全員が戦闘態勢に入るが、一人だけが違った。
鏡花が人虎の影から飛び出して、
私と国木田の間に割り込み、
私を庇うようにして立っていたのだ。
「探偵社員としてなら、そこの彼の方が正しく見えるよ」
その言葉を続けたとき、少し驚いた顔をしたが、
鏡花は動かなかった。
ポートマフィアから抜けて、かなり変わったようだ。
言われるがまま暗殺をこなしていたあの頃と違って、
今はちゃんと芯を持っている。
成長したな、と一言声をかけて、正面の男もとい国木田に目線を向ける。
「どうせ、目的は依頼に見せかけた暗殺なのだろう。」
と続けた彼にそう考えるのも仕方がないか、と内心でため息を吐く。
前は樋口と芥川がそれをやろうとしたから。
そう思うと同時に鏡花が口を開いた。
お願いだから、信じて。
14歳の少女の願いが溢されると同時に、入口の扉が開いた。
ちょうどこの場に居合わせなかった探偵社員二人が帰ってきたのだ。
それは幸運にも、私を良く知る人物だった。
一人は幼いころの親友。
一人は消えたと思っていた元上司。
そして、室内を見渡してフッと笑いをこぼした。
鏡花の隣に立ち、同じく庇ってくれる晶ちゃんと、警戒されている様子を見て煽ってくる太宰。
「太宰貴様ッ…連絡しただろうが!」そう思うと同時に太宰の胸倉を掴んでいた。
ついつい圧がある、と言われる顔を向けてしまったが、問題ないだろう。
こいつのことだ、どんな顔を向けられても気にはしないから。
太宰が変わっていないことを悟り、ため息を吐くと同時に胸倉をつかんでいた手を離す。
もう此奴が泣かせた女全員に此奴の今の住所、ばら撒いてやろうかな…でもそれはそれで探偵社の迷惑か。
太宰に何かやり返したいと同時に、此奴に振り回される探偵社員に同情していると人虎から声を掛けられた。
「しかもよく自殺しようとして失敗していたんだ。本当に困った人だよ。」と続けると呆れと苦笑いの混ざった顔をした。
諦めとほんの少しの同情、それから幾分かの申し訳なさと共に、笑いかけて見せた。
が、少し崩れてしまった。だけど、まあ、それくらいがニンゲンらしいだろう。
未だ抜けぬ警戒と疑い。
そして裏に見え隠れする信頼。
…武装探偵社、少々チョロすぎやしないか?
「鏡花の様子見に来ただけなんで、じゃあ。と言われても困るかと思って。」
と実は持っていた手土産のお菓子を差し出すと、少し引いた目をされた。
…訪問に手土産は必要なのではないか?
「絶対に傷一つ付けやしないから安心してくれ。」と付け足して、探偵社員たちに背を向けて歩き出した。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。