第6話

再会
120
2026/03/20 01:26 更新
 敵対組織の人間を拷問するという依頼の対価は、

 嘗て私と同様に

 可愛がっていた子どもの様子を見てくることだった。


 齢は14。

 そこそこ小柄、だと思う

 …私と比べて頭一つ分とまでは行かないが。

 姉の様に慕っていてくれた子。


 名を鏡花、氏を泉ーーー泉鏡花。

 私が苦しめてしまった内の1人。

 それを、彼女本人は知らないけれど。


 今は「武装探偵社」という所にいるらしい。

 尾崎幹部からの情報なら間違いないだろう。

 なにやら人虎と行動を共にすることが多いらしいので、

 藍か白の髪を探せばよかろう。


 まぁでも、一応、連絡くらいはしておくべきだろう。
あなた
もしもし、ーー?
十時にそっちに行くから、
伝えておいてくれよ
 あの人に言伝ことづてを頼んでおいて

 伝わっていたことなど片手で数えられる程度だが、

 やらないよりかは幾分マシだ。


 さて、
 
 マフィアを抜けた鏡花はどんな風に変わったのだろうか。


 今から楽しみだ。
 午前十時。


 世間は始業してしばらく経ち、
 
 各々が学業や仕事に打ち込むこの時間。


 私は一人、武装探偵社と書かれた扉の前に立っていた。


 ちゃんと伝わっていることを祈り、

 三回のノックの後、扉を開ける。
あなた
十時に伺うと連絡をした者なのですがーー
 泉鏡花はいますか、
 
 と言い切るより先に銃口が向けられ、
 
 咄嗟に両手を挙げてしまった。


 目線だけ動かして確認すれば、

 正面にいる銃を構える長身の男と、

 警戒態勢に入っている橙色の髪の男に、人虎がいる。

 そして人虎の後ろに鏡花。
???
動くな。少しでもそこから動いたら撃つぞ。
あなた
おや、ずいぶんと物騒だね
 そうだ、正面の彼の名前は国木田独歩。

 奥の橙色の髪の男が谷崎潤一郎。

 任務帰りの樋口が言っていた。
国木田独歩
ポートマフィアに言われたくはないな
 ポートマフィア


 その単語にその場の全員が反応した。

 ほぼ全員が戦闘態勢に入るが、一人だけが違った。
泉鏡花
やめて
中島敦
鏡花ちゃん!!
 鏡花が人虎の影から飛び出して、
 
 私と国木田の間に割り込み、

 私を庇うようにして立っていたのだ。
あなた
鏡花、庇わなくたっていいんだよ。
君は今探偵社員なのだろう?
 「探偵社員としてなら、そこの彼の方が正しく見えるよ」


 その言葉を続けたとき、少し驚いた顔をしたが、

 鏡花は動かなかった。
泉鏡花
確かに、探偵社員としてなら、私の行動は間違ってる。
でも、私は貴女を傷つけたくない。
 ポートマフィアから抜けて、かなり変わったようだ。


 言われるがまま暗殺をこなしていたあの頃と違って、

 今はちゃんと芯を持っている。


 成長したな、と一言声をかけて、正面の男もとい国木田に目線を向ける。
あなた
えぇと、国木田くん、だったかな。君は今何に警戒してる?
国木田独歩
何にと問われれば、お前が社員や一般人を傷つけることに、だな
 「どうせ、目的は依頼に見せかけた暗殺なのだろう。」

 と続けた彼にそう考えるのも仕方がないか、と内心でため息を吐く。

 前は樋口と芥川がそれをやろうとしたから。

 そう思うと同時に鏡花が口を開いた。
泉鏡花
そんなこと、この人はしない。
泉鏡花
確かに任務で人を殺すことはある。でも、任務以外で人を殺すことは絶対にない。
それに、任務でだって殺しは最小限にする。
 お願いだから、信じて。

 14歳の少女の願いが溢されると同時に、入口の扉が開いた。
与謝野晶子
…もしかして………あなた、かい?
太宰治
おや、あなたじゃないか
 ちょうどこの場に居合わせなかった探偵社員二人が帰ってきたのだ。


 それは幸運にも、私を良く知る人物だった。

 一人は幼いころの親友。

 一人は消えたと思っていた元上司。


 そして、室内を見渡してフッと笑いをこぼした。
与謝野晶子
そんなに警戒しなくても、此奴は仕事じゃなきゃ絶対に殺しなんてしないよ。
太宰治
なんだい?あなたちゃん、もしかして警戒されているのかい?
 鏡花の隣に立ち、同じく庇ってくれる晶ちゃんと、警戒されている様子を見て煽ってくる太宰。

 「太宰貴様ッ…連絡しただろうが!」そう思うと同時に太宰の胸倉を掴んでいた。
あなた
元はと言えばお前が伝えなかったからだろう…
前からだったが、まさかお前、ここでもそんな風にして迷惑をかけているんじゃないだろうな?
太宰治
すまないねぇ、でも、君も変わってないね。
あなた
質問に答えてくれ。ここでも迷惑をかけているのか?
 ついつい圧がある、と言われる顔を向けてしまったが、問題ないだろう。

 こいつのことだ、どんな顔を向けられても気にはしないから。
太宰治
そんなわけないじゃないか。この太宰様だよ?
あなた
わかった。相変わらず迷惑をかけているんだな。
 太宰が変わっていないことを悟り、ため息を吐くと同時に胸倉をつかんでいた手を離す。

 もう此奴が泣かせた女全員に此奴の今の住所、ばら撒いてやろうかな…でもそれはそれで探偵社の迷惑か。
中島敦
も、もしかして…太宰さんってずっとこうだったんですか?
 太宰に何かやり返したいと同時に、此奴に振り回される探偵社員に同情していると人虎から声を掛けられた。
あなた
そうだよ。部下に連絡はしないわ、上司に報告はしないわでね。
 「しかもよく自殺しようとして失敗していたんだ。本当に困った人だよ。」と続けると呆れと苦笑いの混ざった顔をした。
あなた
敵ながら心中お察しするよ
 諦めとほんの少しの同情、それから幾分かの申し訳なさと共に、笑いかけて見せた。

 が、少し崩れてしまった。だけど、まあ、それくらいがニンゲンらしいだろう。
国木田独歩
…本当に、傷つけないんだな?
 未だ抜けぬ警戒と疑い。

 そして裏に見え隠れする信頼。

 …武装探偵社、少々チョロすぎやしないか?
あなた
勿論。
なんなら目的は既に達成されているから、もう帰ろうかと
泉鏡花
目的って、何?
あなた
鏡花に会う事。
遠目にでも見れたらそれで良かったんだけどさ、元気にしてるか気になっちゃってね。
中島敦
え、そのためだけに来たんですか⁉
あなた
?うん。そうだよ
 「鏡花の様子見に来ただけなんで、じゃあ。と言われても困るかと思って。」
 と実は持っていた手土産のお菓子を差し出すと、少し引いた目をされた。

 …訪問に手土産は必要なのではないか?
与謝野晶子
妾には、会いに来てくれないのかい?
あなた
すまないね。居場所が分からなかったんだ。
与謝野晶子
…なら良いんだ。少し、時間をくれるかい?
あなた
勿論だ。じゃあ、少々晶ちゃんを借りてくよ。
 「絶対に傷一つ付けやしないから安心してくれ。」と付け足して、探偵社員たちに背を向けて歩き出した。

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