第4話

蒐集家
14
2024/03/17 00:34 更新
 「君はこんなに本を集めてどうしたいのかね、よっぽどの物好きに見えるが」私は問うた。
「物好きなんてもんじゃあねえ。おれは別に本のこたぁ好きじゃねえよ。ただ……君にゃ言えぬ事情があるのだ。心配すんな、そのうちわかる」
その男は自他共に認める変人であった。私は彼のことが全く理解できなかった。とはいえ、善人であることには疑いの余地はなかったから、交友を続けていた。
 東京の或る街まで一緒に歩いてきて、私等は話していた。摩天楼が陽を遮り天を覆われた街にも関わらず、太陽はアスファルトを燃やしていた。
「今日は或る本屋さんに行きてえんだ。東京にはやはり本が多いからねえ」
「また本ですか」私は苦笑した。「田舎者には到底考えられない大きさの本屋がそこらにありますから、あなたみたいな人には嬉しいでしょうね」
「君も同類だろう。蒐集癖は確かにないが、読書家だ」
「同類と言われては困りもんだね。君はさして本を好きではないのだろう?」
「あくまでも蒐集家であって、読書家ではねえんだな。君には大層不思議なことに見えるようだが」
「アハハ最近は考えるのをやめることにしたよ」
 そのうちに例の本屋に着いてしまって、彼はやはり珍しい本を何冊か、私も気になった本があったので一冊を買った。彼はまるで機械のように動いていた。本を買うことに、何にも喜びを感じていないように見受けられた。何より、まるで目当ての本の在処を知っているふうであった。
 今日になって彼の四十九日が終わった。私は久しぶりに彼のことを思い出して、家に行った。その日は小春日和の暖かい陽気であった事は憶えている。
 家には彼の配偶者がそっと佇んでいた。自らの配偶者をなくして、魂の抜かれたかのようになっている。私がインターフォンを鳴らした時に多少の社交辞令をしただけである。それ以降は、いやその時も、全く生きた心地のしない表情であった。少なくとも、以前の彼女を知っている私にとっては違和感を覚えたものである。
 彼の部屋に行くといつも通りに大量の本があった。本棚に入りきらぬものは、乱雑に積まれていた。どれも入手困難な洋書や古書であった。机の上に、一枚の書き遺しがあった。彼の筆跡である。

  「この本らは千年も、八千年も。
   その時のくるまで貴重に保管すべし」

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