フリーナの自室
僕は胸を張って、お皿に乗ったショートケーキを指し示した
正直に言えば、少しだけ形が崩れてしまったけれど……
まあ、僕が切ったという付加価値があれば、それすらも「演出」の一つさ!
君がいつものように優しく微笑んで、フォークを手に取る
……あぁ、これだよ、これ!
この、何万人もの喝采よりも僕を高揚させる、
キミだけの声!
演者になれる!って何度も何度も舞台に誘ったけど、
キミは恥ずかしがって舞台には来てくれなかった
僕と並び立てる存在じゃない、だって言ってたけど
僕はキミと演じたいのに!
誰よりも特別なキミと、
舞台の景色を分かち合いたいのに!
僕は隣に座るキミの顔を盗み見ながら、
余裕ぶって紅茶を一口啜った
本当は、キミが「美味しい」と言ってくれるかどうか、
不安で心臓がバクバク鳴っているなんて
キミが好きないちごのショートケーキ
エスコフィエに頼んで、作ってもらったんだ
……神様である僕の口からは、死んでも言えないけれど
キミがふふっと笑って、僕の顔を覗き込んでそう言った
……ずるい。ずるいよ、それは!
僕がどれだけ頑張って「完璧な僕」を演じようとしても、
キミの行動ひとつで全部台無しだ!
僕は顔が熱くなるのを隠すように、少しだけキミの肩に寄りかかった
キミからはいつも、お日様みたいな安心する匂いがする。
言葉にすると、急に恥ずかしくなって、こわくなって
逃げるようにキミの肩に顔を埋める
言葉にした瞬間、喉の奥がキュッとなったんだ
気障なセリフ、でも
これは、嘘偽りのない、僕の"本心"で
……なのに。
急に怖くなった
本当の僕なんて、空っぽで、弱くて、ちっぽけな女の子なのに
それを見せたら、キミは失望して僕の元を去ってしまうんじゃないか?
そんな恐怖から、僕はまた気恥ずかしさを誤魔化すように、ジョークだと言って逃げようとした
本当の僕を見てほしい。
その言葉は、嘘偽りのない願いなのに。
必死にそう告げた僕を、キミは静かに見つめて
キミは同意の言葉を口にする代わりに、ただ愛おしそうに笑って、僕の頭を優しく撫でてくれた
その温かさが、僕の孤独も、臆病な逃げ道も、全部優しく包んでくれる気がして
言葉なんてなくてもわかる
キミが今、僕に触れている事が、何よりの「答え」なんだ。
僕は顔を上げて、
キミの瞳の中にいる、
幸せそうに頬を染めた一人の女の子を確認した
僕はキミの手を引いて、窓を勢いよく開けた
窓の外には、陽光がきらきらとダイヤモンドみたいに
乱反射する、
美しいフォンテーヌの街並みが広がっている
胸の中にあった重たい雲はもうどこにもない!
代わりにあるのは、キミと一緒に歩き出す、きらきらした希望の光だけ!
キミと笑い合いながら、僕は確信していた
僕の本当の人生は、今、この瞬間から、
これ以上ないくらいキラキラに輝きながら始まったんだ!











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。