【Hogwarts Legacy】 Ominis・Gaunt story.
『私さ、実は未来から来たんだよね』
静かな図書室の中、ページをめくる音だけが静寂を破っていた。薄暗い照明の下、俺は目が生まれつき悪いせいで本の文字もよく見えない。
だから、うたた寝しながら彼女が本をめくる音を聞くのが好きだったのだが、何を思ったか突然彼女が意味の分からないことを言い出した。
俺は机に突っ伏せていた顔を上げた。
「…そうか、何年先の未来から来たの?」
彼女の他愛もない冗談に付き合ってあげた。
『100年ぐらい…かな』
「随分と先の未来からやって来たんだね。笑」
面白そうな物語の冒頭を話し始めた彼女に、俺はなぜか妙に惹かれ始めた。
「じゃあ君はタイムマシーンでも発明して
未来に戻ろうとしてる途中かな?笑」
そう言って笑っていると、彼女は俺の右頬に手を伸ばしてそっと触れた。その酷く優しげな手つきに、どうも違和感を覚える。
『あの人も……貴方と同じスリザリンだった。』
そんな消えそうな声で言う彼女の指は、ほんの少し震えているように感じた。
『貴方と同じように、
きちんとボタンを上まで止めて
上品に制服を着こなしてた』
頬をなぞりながら、白く細い指はゆっくり俺の髪に触れた。
『髪色も貴方と同じ、
透き通るような明るくて目立つ髪』
『でも……少し彼の方が白銀が混じってた』と、優しげな笑い声も聞こえた。
妄想にしてはよく出来た始まり方だ。
『貴方のように不器用なりにも
一生懸命優しくしようとしてくれたの。
…あ、機嫌が顔に出やすいのも一緒…。笑』
「なら、
その彼も俺と同じように目が悪かった?」
ただの作り話なはずなのに、誰か知り得ないその "あの人" という人物に苛立ちを覚え、わざと答えづらい質問をしてみた。
だって、よく分からない奴と似ているだの、一緒だの言われて良い気分になる奴なんていないだろう。
だけど、俺が想像していた答えとは違う言葉を、彼女は淡々と話し始めた。
『うん、悪かったよ。一度だけさ、
お前みたいな可愛げのない奴のことを、
好きになるわけないだろって怒鳴られてさ』
「……酷いな、そいつ」
『でしょ?
私もそう思ったから言ってやったの
あんたみたいな見る目ない奴のこと、
私も嫌いですって』
「へぇ…それで?」
『そしたら次の日、
あんなこと言ったのは本心じゃないって
不貞腐れた顔で謝ってきたの』
彼女の声が静かな空間に響いた。
懐かしさを感じさせるその響きは、まるで時間が一瞬だけ戻ったかのような錯覚を与えた。彼女が話す内容は、どこか楽しげで、でもどこか切ない。
彼女がする作り話は、昔の思い出を辿るような微かな哀愁を含んだ話だった。
『あ、でもね
彼は血統にすごく固執する人だっから
純血にこだわってたよ』
「俺にはその純血にこだわる意味が
理解できないね」
『うん、そうだよね
でも彼だって心の底から思ってたんじゃない
周りがそうさせただけ』
俺の目が弱視でも、声の強弱や少しの震えで、相手の表情は何となく掴める。
俺は少し黙って彼女を見つめた。
もちろん目が悪いせいでくっきりとは見ないが、彼女の瞳にはどこか影が落ちているように感じた。
胸が締めつけられるような感覚に襲われ、動悸が激しくなっていく。
彼女の言葉の意味が、何かしら隠された真実を持っているように感じた。
「……君は、その人が好きなんだね」
きっとそう聞いた俺の声も、彼女と同じぐらい震えていたと思う。
ぼやける視界で見えるのは、少しの間を置いた後、彼女がまた閉じた本をゆっくりと開く姿だった。
「何か言ってよ」と、口を開こうとした俺を遮るように、小さく息をついて彼女が先に口を開いた。
『なんかこの本読んでたら
そんな作り話を思いついちゃった。
どう?時空を超えた恋の物語って感じ?』
誤魔化すようにヘラヘラと笑う声が、更に違和感をもたらす。
「じゃあその物語の続きを
俺と一緒に考えようよ」
そう言うと、読んでもないくせに意気揚々とページをめくっていた音を止め、彼女は俺をじっと見つめた。
「君は山奥でタイムマシーンを見つける
それで未来に戻れるんだ」
『……もういいよ、オミニス
ただの作り話だし。』
「君はどうする?戻るかい?」
彼女の息遣いが微かに震えているのがわかる。
沈黙が長く続く中、彼女の肩が僅かに揺れたのと同時に、俺の手を両手で包み込むように握った。
『貴方を置いていけないわ
会えなくなるなんてつらいもの
____たった一人の私の親友なんだから』
俺は微かに微笑んだ。
「うん、もし君が戻ると言ってもね
闇の魔術を使ってでも君にはここに居てもらう」
『……ふふ、壮大な物語になりそうね』
「うん、そうだね」
『もし闇の魔術を使って
私が死んじゃったらどうするの。笑』
「それでもずっと一緒に居れるだろう?
君が地面の下に眠ってたとしても」
『……作り話上手だね』
「君もね」
心の中で確信に変わったような気がした。
彼女が語る話の中には、嘘などない。
きっと優しい彼女は元に戻れると分かっても、すぐに帰ろうとはしないと思う。
俺と、その男。
天秤にかけて時間を費やし、しばらくの間迷い続けるだろう。
だけど、その物語にはきっと続きがあって
やはりその男が恋しくなって、君は未来に戻ると思う。
「あなた。
今伝えるのは変かもしれないけどさ…
君のことが好きなんだ。
親友ではなく恋人としてずっと一緒にいたい」
どうせだったら、生きている君と一緒にいたいし。
好きな子に闇の魔術を使うなんてことは、
さすがに俺だって気が引けるからさ。
なら、その男と同じように俺を好きになってもらうのが手っ取り早いかな。
それしかない。
君が誤った選択をしないように回避するしかない。
どれだけ君が "これは作り話だよ" と、
誤魔化してきたとしても
それなら、君がずっと泣いている理由を教えてくれよ。
と、俺はそう問いただすけど、君はなんて答える?
タイムマシーン。 fin.












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。