「つむぎちゃーん!朝だよ起きて起きて!」
「うーん、莉子さん…私赤ピーマンはいいけど、ピーマンはダメなんです…」
「へぇ、そうだったんだ…じゃなくて!寝言言ってないで起きてよー!」
「ああ、ピーマンの肉詰めはご勘弁…」
「ああっもう!えいっ」
「痛っ!る、瑠璃先輩?!」
「ご、ごめん。そんな強くはしてないと思うけど…」
「い、いえ、そのなんか…ありがとうございます?」
「ま、マゾヒスト?」
ほっぺをつねられて起こされた。1日が童顔の美少女に起こされて始まる。なんと言い朝だ。それを彼女ー瑠璃に行ったら涙目で怒られるだろうが
「あ、いや、最終的に遅刻せずに済んだわけですし!そっちの意味で…」
「そういうことね、それよりお着替えするよ!私もう終わってるもん」
「さすが先輩ですね」
「そ、そんな…っ」
「寝癖直し忘れてるのも可愛いですね♡」
「きゃっ、ほ、ホントだー」
そんなふうに二人で身支度をする。
「ね、ねえ紬ちゃん」
「どうしたんですか?」
「そ、その、髪を結うのるりがやってみてもいい?」
「え?」
「お、お姉さんらしいことしてみたいな…って、るりお兄ちゃんしかいないから」
ー背伸びしたい系か!可愛いな!もちろんどうぞ!
「お願いします」
とは言うものの、瑠璃の身長では紬の頭のてっぺんまでとかすのは難しいだろう。紬はしゃがんであげようとするが、相手に気を使わせるという行為は自分のプライドを傷つけるらしいので、部屋に備わっている踏み台を用意した。
「紬ちゃんの髪って綺麗だよね、るりはうねっちゃうの」
「長くてきれいだと思いますよ?、アレンジができるのも羨ましいですし」
「紬ちゃんは伸ばさないの?」
「お手入れがめんどくさいですから、一回伸ばしたことあるんですけど、畑仕事とかしてたら邪魔になっちゃうし」
「そっかぁ」
髪を櫛でとかし少しだけ髪をすくって団子を作るそれを紅色の花の簪で止めればいつもの紬の完成だ。
しかし、今日からは少し違う。
引き出しにしまった、ピンク色の着物を取り出す。そして、エプロンもつける、相変わらずできないリボン結びを瑠璃に頼んで。着替えを済ます。
「あ、もうこんな時間だね、朝ごはんだべにいくよー」
「はーい」
社宅である早乙女寮では、住人はご飯を従業員休憩室で食べることになっている。簡易的な調理台があるので、店の厨房を使う必要はない。
「「おはようございます」」
「おはよー、紬ちゃんと起きれてんなー」
「おはよう」
「ふふん、聞いて下さいよ、繭さん、怜ちゃん、るり、紬ちゃんを起こしたんですよ」
「え、ちょっと先輩…」
「紬ちゃんピーマンの寝言を…」
「やめてくださいよお!お二人の前で!」
「あら、私もいるわよ」
「菊さん!」
従業員休憩室の仕切りの奥から出できたのは、朧月茶屋の店長兼早乙女寮の寮母、西園寺 菊。仕切りの奥が調理台なので、朝食を作ってくれているのだろう。
「おはよう、ふたりとも、紬、起きれないなら取って置きの方法を教えてあげるわ」
「ほんとですか?!教えてください!」
「それはね…」
菊は紬にだけ聞こえる声でこういった
「好きな人のキス、よ」
「はい?」
「おい、菊教育に悪いようなこと言うんじゃねーよ」
「聞こえてたの?悪くないわよ、紬だってそのうちね」
紬は思わず、地元での男関係について思い出してみる。
暦村の未成年者は自分を合わせて5人で、自分が一番年上だ。一番歳が近い子で、5つ下の女の子。あとは1桁台の歳の子しかいないから、恋愛対象とはならない。一緒に畑仕事をしていたのも、お姉さんばかりで、男性は既婚者の中年男性しかいなかった。
「ないですよ…私の出身的に」
「ここに来たからには素敵な出会いもあるわよ。それにお付き合いのお相手は必ずしも異性である必要なんてないわ」
「へっ?!」
「まぁ、頑張ってね。ふふふ…」
そう言って菊は厨房に戻っていった。
ー何だったの…
「紬ちゃんも座りなよ、るりの隣来る?」
「はいっ喜んで!」
そして気づいてしまった。隣は瑠璃。そして向かい合わせは、怜だ。顔がいい、ドキドキする。せっかくの初めての朝ご飯の味も分からなくなるかもしれない。
紬が緊張しているうちに、隣の瑠璃は向かい合っている繭と楽しそうに会話を始めてしまう。こちらも何か話さねば、しかし、天気のトラウマが蘇ってくる。
紬が悩んでいると
「紬」
「はいっ?!」
「紬って返事が元気だよね」
「そ、そうでしょうか?」
「元気なのは良いことだよ…」
「ありがとうございます…」
ー何この会話!悪くはないが!
30秒の沈黙。
やがて
「紬」
「ハイッ」
「布団の寝心地良かった?」
「ハイトテモ!」
「そう…よかったね」
「有難う御座います」
会話終わり。
ーおかしい、私こんなコミュ障じゃないよ?!
会話ができるに越したことはないが、ぎこちないし、すぐに終わってしまう。隣のように会話を繋げられたらいいのに。
「ねぇ、紬…」
「ひゃい!」
「紬って、僕にだけ態度硬いよね」
「そ、そんな事…」
「瑠璃とは気軽に話してるし、姉さんとはたまに言い合いとかもしてるのに…もしかして話しにくい?」
「そ、そんな事ないです!怜さんと話すの楽しいし、前もおっしゃってましたけど嫌いなんでこれぽっちも思ってないです!」
「そう…」
そして会話は終わった。
ーどうして怜さんとの会話は上手くいかないんだろう
そうこうしているうちに菊が「ご飯できたわよー」と、呼びかけてくれたので、各自取りに行く。今日のメニューは、白ご飯、ネギの味噌汁、焼き魚、大根下ろしといったthe、朝食といった感じだ。しかし、とても良い香りが食欲をそそる。飲食店を営む人の料理なのだから格別と言ってもいいだろう。
「いただきます」
さくり、と紬は焼き魚を食べる。程よい焦げ具合と塩見がきいていてとてもおいしい。
「おいしいです…」
「でしょう?月見坂は川、池、湖もあっていろんな魚が特産品となっているの。他の街でも有名よ」
そう説明してくれる菊だがなぜか怜と自分を交互に見つめてニヤリとしていたのがとても気になった。
朝食の後片付けを済ませたら、最終的な身だしなみチェックをする。その後は各自の担当のところで、開店準備をする。
朧月茶屋は朝食メニューも出しているので、従業員たちの朝はとても早い。
「紬ちゃん、お店の看板だしに行くよー」
瑠璃に連れられ、紬は店の外に出る。折りたたんだ状態の黒板の看板を立てる。そこには日替わりメニューと書いてある。
「今日の日替わりメニューは、抹茶ミルク、小豆アイス、あんみつだよ」
付箋を見ながら瑠璃が言う。
「日替わりメニュー?」
「朧月茶屋では日替わりメニューが毎日3つあってね、お店を閉めるときに、菊さんに次の日のメニューが書いたメモを貰いに行くの。今日はるりが、行ったから明日の分は紬ちゃんに行ってもらおうかな?」
「わかりました。それにしても美味しそうですね」
「だよね~、そうだ、紬ちゃん、日替わりメニューのメニュー名書いてみる?」
「やってみます」
字の綺麗さには自信はないが、いずれやることになるのだからやってみる
紬は日替わりメニューと書いてある下に、瑠璃に言われたメニュー名と金額を書いていく。
看板が終わったら次は清掃だ。
「石畳のところや、外の飲食スペースの机椅子を綺麗にしてね。窓拭きとかもするよ。雑巾を洗う場所は裏庭。終わったら、お茶っ葉の水やりをするよ」
テキパキと指示をしてくれる瑠璃。やはり一緒に働いてみると先輩らしくて頼もしい。小柄ながらちょこちょこ動いているところはいつ見ても可愛らしいが。
「るりは箒をしてるから、紬ちゃんは雑巾をやってくれる?あの…押し付けじゃなくて、るりじゃ窓拭き届かないから」
「わかりました!お任せください!」
紬は裏庭の水道で、雑巾を洗う。机椅子を拭くきれいな方と、窓を拭くあらかじめ汚れた方を1枚ずつ取って、濡らす。先に机椅子を拭いて、その後窓を拭いていった。
「ごめん、今日落ち葉少なかったから、手伝うね。確か壊れかけた踏み台があって…なおってたら良いんだけどな…」
そう言って瑠璃は裏庭へ向かう。
しばらくすると、踏み台を抱えて戻ってきた。
「直ってたよ!さすが繭さんだね!」
「じゃあお手伝いお願いします。窓の汚れって取りにくいものありますよね。机椅子の方はお客さんがきれいにしてから帰ってくれてるみたいだから楽でしたけど」
「だよね、店内が空席の時は使わない時もあるし…うーん、届かないー!」
「大丈夫ですか?ほら」
「ひゃっ!えっあ、う、うん!ありがと…」
「瑠璃先輩?」
「そ、そのっ瑠璃がたわないとこまでやってくれてありがとう…っ」
「大丈夫ですよ、人助けです。それよりどうしたんですか?」
瑠璃が今までからは感じられないほどにシャイで何だかもじもじしている。
「そ、そのっ!お水やりの方に移ろっか!雑巾は瑠璃が洗っといてあげる!」
やや、強引に雑巾を奪い取られ、瑠璃は裏にはへと逃げ出すように駆けていった。
「あっ!先輩!」
ー何かしちゃったかな…?
裏庭に入った瑠璃は真っ赤になった顔を誰もいないのに隠すようにして、俯いて雑巾を洗った。
「さっきの、恋愛小説の胸キュンシーンみたいだったって言ったら、笑われちゃうよね…」
瑠璃は内心驚いている。こんな些細なことで人の心は動くのだと。
裏庭からこっそりと紬の様子を伺う。自分を待ってくれているようだ。
そんな紬を見て瑠璃は小さくつぶやいた。
「運命のご相手は必ずしも異性でなくても良いですよね…菊さん」
To be continued…












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。