優しそうな柔らかい雰囲気の男性、華奢で大人しそうな女性。
その二人の間に入り、元気に跳ね回る子供。
どこにでもいそうな、幸せそうな家族だった。
三人は口を大きく開け、何かを話し、笑っている。
顔のボヤけた父親らしき人物は、やがて別れ道に着くと、二人と離れ、別の方向へ歩いて行く。
信号が青になるのを待つため、立ち止まった。
子供は手を振って、それを見送る。
気づけば、目の前に車が突っ込んでいるのが、目に映っていた。
「またか…」
夢から覚めて、ベッドから体を起こす。
また汗で湿った服を脱いで、タンスから新しい服を出して袖を通す。
最近、夢を見ることが多くなった。
すっかり忘れていたがはずだが、こんなこともあったな、と思い出してきた。
そんなことを考えながら、ベッドの横に落ちていたスマホを拾い、時間を確認する。
液晶画面には12時の数字が映していた。
…寝過ぎたな。
特に気に留めることもなく、大きな欠伸を漏らす。
「腹、減ったな…」
俺は部屋から出て、一階のダイニングへ向かった。
ダイニングに入ると、テーブルに置かれた皿が目に留まった。
チャーハンが入った器にはラップがかけられている。
たぶん、じいさんが作ってくれたのだろう。
少し冷めたチャーハンを電子レンジに入れ、二十秒ほど温める。
ピーピーと音が鳴り、皿を取り出して椅子に座った。
ラップを外し、チャーハンを別皿に少し移してから口に運ぶ。
やはり、味はしない。
夢を見た日は、味がしない。
俺はじいさんの料理は、何だか優しい味がして好きだったが、それを感じず、少し寂しく思う。
早々と食べ終え、皿を台所へ運ぶ。
食器に水を張り、そのまま流しに置いた。
俺は、取り分けておいたチャーハンを手に取り、また神社の方へ行く。
神社の向かおうと玄関を出た瞬間、目の前を水色の何かが横切った。
一瞬、冷や汗をかける。
だがすぐに正体を思い出し、息を吐いたところで、今度は上から顔が覗き込んできた。
「あっ、起きた?」
「ユウくん、おはよう」
横に水色の人魂を浮かばせた浮遊霊ーーユウくんだった。
そのまま脇を通り抜けて神社へ向かうと、後ろからユウくんが浮いて付いてくる。
「それどこ持っていくの?」
俺の手元を見て、首をかしげる。
「メイちゃんの。できるだけ同じものを食べていたいんだってさ」
「へえ。子供の考えることは可愛いね」
一緒に食べたいという気持ちは分かるし嬉しくもある。
ただ、じいさんのお供物と、俺が持ってくるご飯。
両方食べていれば、そろそろ太るんじゃないか。
なんて考えているうちに、本殿の目の前まで来ていた。
本殿では、メイちゃんが手毬を突いて遊んでいる。
こちらに気づいた途端、ぱっと顔を輝かせて飛んできた。
「ご飯!」
いつも通り、元気いっぱいだ。
チャーハンを渡すと、本殿の陰に座り、勢いよく食べ始める。
「いただきまーす!!」
本当に、美味しそうに食べるな。
そういえば、今日はじいさんの料理だ。
俺ですら少し濃いと思うほどの味付けだがーー
幸せそうに頬張っている様子をを見るに、特に心配は無さそうだ。
メイちゃんの食事を見守っていると、ふと
視線を感じた。
雑木林の方へ目を向ける。
そこに、黒い影が立っていた。
こちらをじっと見ている。
理由はわからない。
ただ、遠くからでも分かほど、不快だった。
思わず、顔が歪む。
その様子に気づいたのか、ユウくんが話しかけてくる。
「ん、どうしたの?」
俺は、まだじっと見てくる気配から、そっと目を逸らした。
「いや…なんでもないよ」
そのタイミングで、メイちゃんが元気よく声をあげる。
「ごちそうさま!!!」
手を合わせる姿を見届けて、俺は食器を手に取った。
帰り際、もう一度振り返る。
だけど目に入ったのは、ユウくんとメイちゃんが楽しそうに声をあげて遊んでいる光景だけだった。
それ以上、何も見えなかった
俺は、そのまま振り向き直して、家へ戻った。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!