調子が悪そう、と察すれば、その先を予見する。
フィジカル面なのかメンタル面での問題か。どの程度の緊急性を要するのか。
一過性の、自己完結出来る事由ならまだしも、本人だけではどうにもならないことならば、なおさらこちらが気づいてあげなければ。
けれどそれは同時に、本人が触れられたくないことである場合も少なくはない。
個人競技ではない分、選手間同士の関係性がもろに試合に影響が出るため、個々人の不調を放置して、他選手との不和に繋がるような事態は絶対に避けなければならない。
だからいつも思う。チームスポーツとはなんて難しいものなのだろう、と。
そして俺はそういう時に、相手が気づかれたくないようなことや些細な変化にも敏感に反応してしまう。察しがいいのは学生の頃から。
例えば選手の調子が上がっており、のっている状態であってももちろん分かりはするが、それ以上にネガティブな面での察知能力の方が高いのは、俺自身がそういう人間だからかもしれない。
そう、察しはいいはずなのだ。
なのに…この子はどうにも、読み難い。
声を上げる甲斐くんの言葉に、飛ばしていた意識を戻す。
“あなたさんって、トス出来る人ですよね”
全メニューが終了した体育館でモップをかけていた時、帰る支度をしていない様子の甲斐くんが、静かに俺に歩み寄り、尋ねた。
ただ単純に上げられる、というだけの意味でのトスなのか。
それともーーーー。
何の前置きもなく言われたものだから、意表を突かれ、断る理由も浮かばず、結局彼の居残り練習に付き合う形となったわけだが。
あの台詞が引っ掛かり、頭から消えない俺は、次にボールを上げる手を止め、そう問いかける。
何本目かのスパイクを打ち終えた甲斐くんは服で汗を拭いながら、しゅんとした顔をして俺に近づく。
その瞬間、芯から身体が冷えるような感覚がした。
安心してください。そう言うかのように、俺の頭を撫でる甲斐くん。
俺今どんな顔しているんだろう。
そんなに酷い顔なのかな。隠すのも上手なはずなのにな。
やはりこの子は末恐ろしい。
最年少なのに。末っ子なのに。
懐の深さといい、精神年齢の高さといい、本当に底が知れない子だ。
くすくすと笑う甲斐くんを、目を細め、疑うように凝視するが、腹の中は見えそうにない。
俺よりもずっと高い位置から首を傾げ、こちらを見つめる甲斐くん。
そう言うと顔色も変えず、一人納得したように頷きながら元の位置に戻り、手を挙げてボールを要求する。
しかしすぐに、そうだ、と呟き、甲斐くんはこう続けた。
自己主張をあまりしない選手だから、余計にそう感じた。
自ら関わりを持とうとしてくれたことが、素直に嬉しかった。
けれど彼の最後の一言で、甲斐くんはやはり甲斐くんなのだと痛感した。
悔しいじゃないですか。
あっけらかんとした表情でそう言葉を終えると、甲斐くんは改めて手を挙げ、ボールを求めた。
要求されるがままに、俺の指は反射的にボールを弾いたものの。
動揺と共に宙を舞う球体は、意図せぬところへと浮かび。
上がったトスは乱れ、ボールはあらぬ方向に飛んでいってしまったが、それでも甲斐くんは見事に合わせてみせた。
本当にうちの末っ子は、恐ろしい。














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!