懐かしい匂いがする。
何の匂いだろう。いつ嗅いだんだろう。
わからないけれど、落ち着く。
髪がさらさらと揺れるのは、窓でも開いているせいだろうか。心地良い。
懐かしいこの匂いも、風にのってどこかからやってきたものなのかな。だとしたら、深く、深く、眠ることが出来そう。
張り詰めた糸が解かれ、包み込まれていくような、そんな温かさがあるから。
そういえば今日は特に忙しくて、何も食べていなかった気がする。
お腹空いたな。
睡眠もそうだけど、日々消費するエネルギーに対して摂取している量も足りていない感じがある。食べてもその倍消耗している、みたいな。
カロリーの高い物が食べたい。それかとびきり甘い物。
シュガーハイになるくらいの甘々しいお菓子とか。
あれがいいな。なんだっけ、チョコのかかったパイみたいなやつに、マシュマロが挟んであるお菓子。最近スーパーでもあまり見かけなくなったなぁ。そもそも今も売ってるのかな。もうチョコでいいか。あるいはマシュマロだけでもいい。
考えてたらますます食べたくなってきた。
だからかな。
夢の中にまでマシュマロが出てきて、まるでそれが口に触れたみたいな感覚がしたのは。
朧げな意識の中から目を覚ますと、そこは自分が泊まるホテルの部屋のベッドの上だった。
閉じたままの窓の外に視線を移せば、赤々とした陽は沈み始めている。
仕事中にもかかわらず、爆睡をかましてしまった。
自分で思っていたより、無理はしていたのかもしれないけれどーーーー。
でもまだ、もう少しくらいなら、あと少しくらいなら、無理を押せる。
そう思い込ませて。不調の予感も気配も、知らないふりをした。
自分の体のことなんて二の次にしていた。
だって頑張らないと、人より何倍もやらないと、俺がここにいる意味、ないでしょうよ。
寝かされて、自発的に目覚めるまで起こされもしなかったということは、そういうことだろう。
睡眠不足だけでなく、過労、併せて慣れない環境での心労も、おそらく悟られている。
怒らせると怖そうな人を順に思い浮かべ、誰ならまだましかを必死に考えた。
そして言い訳を思案しようとしたが、糖分の枯れた俺の脳ではもうそこまでの思考は働かせられないらしく、未だ眠気の残った体をベッドに沈めたまま、俺は諦めたように目蓋を落とした。














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。