第19話

心、剥落
374
2025/12/27 11:18 更新



藍
俺の分もよけて。スペースつくってくださいよ
山本
山本
椅子に座ればいいじゃん
小川
小川
藍まで来たら狭くなる


 話し声が聞こえる。右から左から。

小野寺
小野寺
まだぐっすり?
大塚
大塚
眠り深過ぎて逆に心配


 様子を見に来てくれたのかな。迷惑かけちゃったよな。悪いことしたな。

甲斐
甲斐
ちゃんと息してますよね?
西田
西田
自分らうるさいって
小川
小川
お前が一番声でけぇよ


 にしても、騒々しい。

 寝かせたいのか起こしたいのか、どっちなの。



(なまえ)
あなた
...白雪姫ってさ、周りが騒がしくて寝ていられなくなったから目が覚めたんじゃないかなって、今思った

山本
山本
ほら起きた
小川
小川
西のせい
西田
西田
俺なん?!


 ゆっくりと目を開けば、ベッドの周りにいる七人の大きな大人。そしてその隙間から見える、先ほど目覚めた時よりさらに暗くなった窓の外。

 小人なら絵になるのかもしれないが、こんなに図体の大きい男達が周りを囲んで俺一人を凝視している景色は圧迫感が半端じゃない。


 かすむ目を擦り、そんなことを考えていると、藍と同じように後方に立っていたたっちゃんがベッドサイドに腰掛けるリベロの二人を掻き分けて、据わった目のままこう言った。

大塚
大塚
それはつまり…キスをご所望ということですか?そういうことですか?
(なまえ)
あなた
寝てる俺を取り囲んで覗き込むのはやめてって話
小川
小川
甲斐、こいつ危険だから取り押さえておいて
甲斐
甲斐
ええっ
大塚
大塚
まだなんもしてへんのに
山本
山本
これから感あるから
小川
小川
ついでに隣のも
小野寺
小野寺
隣?
西田
西田
たしかに
藍
ちょ、力強っ、まじゴリラ。俺何も言ってすらいないのにあんまりや
山本
山本
日頃の行い


 甲斐くんに遠慮がちに肩を掴まれているたっちゃんと、西にがっちり羽交締めにされている藍。

 そんな対照的な二組が喚いている中、話し声と共に部屋のドアが開く音がしたので、俺は上半身を起こしてそちらに視線を移した。



関田
関田
やっぱり。そっとしとけって言ったのに
健太郎
健太郎
まだいたの?俺でも我慢したのにお前らずるいって
宮浦
宮浦
あなたさん、どうですか。少し休めましたか?
山内
山内
はい、みんな撤収ー。ご飯まだだからね。君らいたらあなたさん落ち着いて食べられないから
藍
そんなん言いながら関さんたちだって来てますやん
大塚
大塚
ご飯なんて一人で持って来られるのに一緒に来たってことは、同じように思っとったってことでしょう?


 登場した面々の口から出た解散宣言に、拘束されたままの二人がやんややんやとやじを飛ばす。

関田
関田
このまま残ったあげく翌日寝坊したら、許さないよ?


 腕を組む関さんの一言で、途端に黙る二人。

健太郎
健太郎
明日もあるんだから。さぁ帰った帰った
宮浦
宮浦
夜ご飯、ここに置いておきますね
山内
山内
あなたさんお休みー


 わらわらとドアの前でつっかえながら、渋々部屋を後にする一同。



関田
関田
あとは頼んだ


 みんなの背中を押してドアの外へ追いやる関さんが、一人残る様子の祐希さんにそう告げる。


 無言で頷いた祐希さんはその背中を見送るとドアを閉め、こちらを振り返った。







(なまえ)
あなた
…祐希さん


 部屋に来てから一度も口を開いていない祐希さんの表情からは、何も読み取れない。

 いつもなら嫌悪や憎悪や、感情の揺らぎも、眉の動き一つで判るはずなのに。


 静かにこちらへと近づく祐希さんはどれともとれない面持ちをしていて。それなのに、逃してはもらえない気配はしっかりと放っている。

(なまえ)
あなた
祐希さん、あの…


 ベッドの側に立った祐希さんの開いていた手が拳に変わり、腕が振り上げられる。

(なまえ)
あなた
俺、本当に…申し訳


 反射的に、来る衝撃に備えてぎゅっと目をつぶった。


 けれど。



石川
石川
…げんこつでも落ちると思った?


 予想に反した軽い感触。


 振り下ろされた拳は、ぽすっと間抜けな音を立てるかのように、力なく頭上に着地していた。







石川
石川
怒っては…いる。でも、それ以上に心配してる


 俺だけじゃなく、みんなね。

 そう付け足し、俺の頭に手を置いたまま、ベッドに腰を落とした祐希さん。


 さっきまでの気配が嘘のように消え、むしろ弱々しいほどに力なく、言葉を紡ぐ。

石川
石川
けど足りなかったみたい。あなたさん、全然理解してくれないから


 握った拳を緩め、控えめに頭を撫でながら、じっとこちらを見つめるその姿は。

石川
石川
俺は、どうしたらいい?


 あまりに真っ直ぐで、懇願するかのように、一心で。



石川
石川
どうすればあなたさんのこと、大切だって伝わる?


 とても腹を立てている人とは思えないくらい、悲しそうな顔をしていた。



プリ小説オーディオドラマ