突然、誰かの手が彼女の腕を強く掴んだ。
次の瞬間、世界が揺れた。
冷たい水の中から引き上げられる感覚。
あなたの好きな人の名前だった。
必死にあなたを抱きしめ、波をかき分けながら岸へ向かう。
水は彼女たちを引き戻そうとするように絡みつき、身体は氷のように冷たい。
けれど、あなたの好きな人の名前の腕は決して離れなかった。
ようやく岸辺にたどり着き、あなたの冷えた身体を抱き起こす。
かすれた声が、彼女の耳元で震えた。
あなたの好きな人の名前の瞳から、涙がぽたりと落ちる。
震える声が夜の静寂を破る。
あなたは何も言えず、ただあなたの好きな人の名前を見つめた。
あなたの好きな人の名前の手があなたの頬に添えられる。
あなたの好きな人の名前はあなたを抱きしめ、彼女の髪に顔を埋める。
その言葉に、あなたの目からも涙がこぼれた。
静かな波の音がふたりを包む。
空には、流れ星がいくつも消えていく。
震える声が、夜の海に溶ける。
あなたの好きな人の名前はそっとあなたの頬に触れ、優しく微笑んだ。
あなたの好きな人の名前の瞳が、まっすぐにあなたを捉えていた。
その瞬間、あなたの意識の奥に、幾つもの記憶がよみがえる。
——花冠をそっと乗せられた、あの日の森の泉。
——夜空の丘で、星を数えながら語り合った夜。
——湖に浮かべたセフィロトの花びら。
どれも、愛おしくて、二度と戻らない時間。
それなのに、自分はその手を振りほどこうとしていた。
あなたの瞳から涙が溢れる。
どうしてもっと早く、この気持ちを言葉にしなかったのだろう。
風が吹いた。
セフィロトの花びらが宙を舞い、二人を包む。
まるで、星の記憶が、祝福のように降り注ぐ——。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。