2021年も、クリスマスの鈴の音と共にもう終わろうとしている。
街は淡いネオンに彩られたクリスマスツリーが至る所に飾られていた。
華やかな景色を横目に、
私にクリスマスなんて無縁。そう思っていた。
今年は韓国で過ごすから家族とも過ごせないし。
買い物を済ませ足速に宿舎へ帰る。
木枯らしが冷たい…東京よりも北にある韓国の冬は、肌に冷気が刺さるかのように寒い。
エレベーターに乗り、ドアが閉まりかけた瞬間、人影が見えたので慌てて「開」ボタンを押した。
ゆっくり開いたドアの向こうに居たのはヒョンジンだった。
夕飯の買い物袋をヒョンジンが持ってくれた。
丁度エレベーターは宿舎のある最上階に着いた所だった。
宿舎はまだ誰も帰ってきていなかった。
荷物を置いて早速ヒョンジンと夕飯作りに取り掛かる。
メンバーが帰って来る時間はヒョンジンも把握していなかったので、温めて食べられるようにソースだけを作っておいた。
ヒョンジンは野菜を切り、サラダを盛り付ける。
私はトマト缶を開け、キノコとニンニクを炒めトマトソースと絡める。
完成してもまだメンバーは帰って来ないので、二人で先に夕食を取る事にした。
食器を下げ洗い物をしていると、ヒョンジンは椅子の向きを私の方に変え、じっと見つめていた。
その視線に気がつき、ちらりとヒョンジンの方を見る。
急いで部屋に戻り、身支度をしているようだった。
韓国の冬は寒い。
夜に外に出るなら暖かい服を用意しないと。
そう思い、洗い物を終えた後、私も準備した。
外に出ると、キンと空気が冷たい。
ヒョンジンはコートの下にフード付きパーカーを着ており、フードを被ってマスクで顔を覆っている為ほとんど顔が見えない。
それより、何処へ行くのだろう。
私はてっきり近所に何か買いに行くのかと思っていたが違うようだった。
電車に乗り何処かへ向かうようだ。
二人で出かけているのが誰かにバレてしまっては大事になりかねない。
人が周りにいる間はヒョンジンと少し距離を取り、他人のように振る舞うよう努めた。
ヒョンジンもそれがわかっているようで、時々私がちゃんとついてきているか、振り返り確認している様だった。
ヒョンジンの目的の場所は大きな公園の様だった。
夜の公園はほとんど人がおらず、街灯も少ない。
ヒョンジンは目元のギリギリまで上げていたマスクを少し下げ、顔が少し見えるようになった。
私の方を見てにっこり微笑む。
そう言うと、公園の前にあるお店へさっと入り、暫くすると両手にカップを抱え店から出てくる。
両手で受け取ると、すごく暖かくて、ほっとする。
「行こうか」と二人で公園の中に入って行った。
夜の公園は一歩入った瞬間から凛とした空気に変わる。
ヒョンジンがくれたカフェラテが暖かくて、甘くて、一口飲む度に心が解けていった。
ほとんど人影が無い夜の公園を、たわいも無い話をしながらゆっくり散歩する。
最近見たドラマの話、夢中になって描いている絵の話、この前一人で焼肉食べに行った話。
話題は尽きる事なく、ヒョンジンの目的の場所へ着いた。
一面が開けたと思ったら、大きな池の畔だった。
街灯が水に反射し、キラキラと輝いている。
池の真ん中には小さな島があり、大きなクリスマスツリーが飾られていた。
柔らかなシャンパンゴールドの灯りで彩られたツリー。
それも池の水面に映り、二つのツリーとなって見える。
さっきまで少し離れた距離にいたヒョンジンが、ぴたっと私の横についた。
急に変わった距離感にドキっとする。
真っ直ぐツリーを見つめたまま、ヒョンジンがそう言った。
周り?
見渡すと、ぽつん、ぽつんと一定の距離を保ちながら二人組がまばらに居る。
薄暗くて顔は見えないけれど、きっとカップルなのだろう。
今日はクリスマスイブ…恋人達が愛を深め合う日だ。
そう思ってハッとする。
周りを見渡して見えるのはカップルで、
それは側から見たら、ヒョンジンと私もそう見えるわけで…
ヒョンジンの方を見上げると、
ヒョンジンは私が見る前からずっと私を見つめてくれているようだった。
言いながら恥ずかしくなって、顔がみるみる熱くなってしまい、もうヒョンジンの顔が真っ直ぐ見られなくて俯く。
するとシャラっと私の首に何か巻かれた感覚があった。
触れると…アクセサリーのような…?
そう言うとマスクとフードを外し、手で髪をバサバサっとかき揚げ、すっと整える。
クリスマスツリーをバックにスマホでツーショットを撮影するヒョンジン。
そう言って写真を見せてくれた。
なんてキレイな顔なんだろう。
さすがアイドル。
生で見てもカッコイイのに、写真の中のヒョンジンもカッコイイままだ。
ついヒョンジンに目が行ってしまったけれど、
私の首元に巻かれたキラリと光る物…
オープンハートの真ん中には小さなダイヤモンドが揺れていた。
「街で見つけて、あなたさんの事が頭に浮かんだから買ったんだ。気に入ってくれたら嬉しいな」とはにかみながらそう言った。
クリスマスプレゼントをいただけるなんて思ってもいなかったから本当に嬉しかった。
ましてやヒョンジンからだなんて。
冬である事を忘れるくらい、心がぽかぽかと暖まる。
ヒョンジンの真っ直ぐな瞳に見つめられながらそう言われ、ドキドキする。
そう言ってヒョンジンが首元から身につけていたアクセサリーを取り出した。
シルバーの平たく丸いトップがついたネックレスだった。
トップは表から見るとツルンとしているが、
ひっくり返すと、私が付けているハートのトップがピッタリ重なる様な窪みが刻まれていた。
思わずそう返事してしまったけど、良かったのかな…。
お揃いの物を持つなんて
屈託無く笑うヒョンジンの顔を見ていると、迷いが薄れる。
つけていいんだと思わせてもらえる。
そう言って、手を差し出す。
手を繋ごうのサインに、緊張しすぎて固まってしまった。
ヒョンジンが緊張してる!?
手を繋ぐ事に!?
断ってはいけないと、勇気を振り絞って、ヒョンジンの手に自分の手を重ねた。
ヒョンジンは嬉しそうに笑ってギュッと握ってくれる。
手を繋いだまま、緊張を解こうとするかのようにピョンピョン飛び跳ねているヒョンジンが堪らなく可愛い。
そう言ってヒョンジンは頬を赤らめ、
ゆっくりと歩き出した。
淡い光の中、幻想的な景色を眺めながら…
---「君と過ごすクリスマスーヒョンジン」fin---
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!