第74話

74.
1,372
2022/02/12 12:37
緑谷出久
……うん!轟くんの方は!?逃げ切れた!?
緑谷くんが轟くんと電話しているのを聞き流しながら、私は息を整える。
逃げ切れた……みんなのおかげで。
爆豪勝己
ッたく……ンでてめェは泣いとんだ
あなた
うええ……勝己くん……生きてる……
爆豪勝己
俺は生きとるわ勝手に死なすな!!
相変わらずの勝己くんのキレ具合にまた涙が零れた。それを見た切島くんが止めに入ろうとする。
勝己くんは切島くんを押し退けると、乱暴な手つきで私の目に溜まった涙を拭った。
勝己くんの指に移った涙を、彼はぺろりと口に含む。私はそれを目を丸くして見つめていた。
爆豪勝己
なんつー顔しとんだ
そう言って勝己くんは笑った。顔に熱が集まるのがわかる。驚きのあまり、涙も引っ込んでしまったみたいだ。
あなた
な、な、な……
切島鋭児郎
ばっ、バクゴー!!フジュンイセーコーユー!!駄目だろそういうの!!
飯田天哉
何っ!?爆豪くん、本当ならそれは由々しき事態だぞ!!
爆豪勝己
だあああもううるせーな!!!
いつもの光景に、口角がへにゃっと上がる。
あなた
とりあえずプロヒーロー達の避難誘導に従おう。まだ安全とは言い切れないから
そう言いながら勝己くんの手を取ろうとしたとき、群衆のざわめきが耳に届いた。
つられてビルの壁に取り付けられたモニターに目をやる。
あなた
え……
そこではオールマイトがオール・フォー・ワンと戦っている、はずだったのに。
あなた
……なに、あれ
ガイコツのような顔をした、別人──ヒーロースーツと特徴的な金髪の髪型は間違いなくオールマイトのものだ──がモニターに映っていた。
『えっと…何が、え…?皆さん見えますでしょうか?オールマイトが…しぼんでしまってます……』
アナウンサーの狼狽した頼りない声が、拡声されてその場に響き渡る。



















その日、絶対的な"平和の象徴"は終わりを告げる。

***
家に帰って来た私は涙と鼻水でぐちゃぐちゃのお母さんとお父さんに出迎えられて、味のしないカレーを食べて、早々に自分の部屋に閉じこもった。
あなた
(林間合宿でみんなと作ったカレー、美味しかったな)
ふと、そんなことを考える。
束の間の楽しかった時間を思い出して、私は溜息をついた。
クッションに顔を押しつけても、脳裏をよぎるのはボロボロになったオールマイトの姿で。
緑谷くん達に改めてお礼を言わないとな、とスマホを開いたところで、意識は途切れた。



勝己くんが夢に出て来たような、気がする。

プリ小説オーディオドラマ