あの事件から、しばらくたったある日。
私たちの精神面を心配して、先生たちはカウンセリングを図ったりしてくれたけど、勝己くんは頑なに拒否したし私もそんな勝己くんを見て元気が湧いてくるのを感じたから、その必要はなかった。
先生がそこまで言った時、まるで示し合わせたかのようなタイミングでドアが開いた。
それにいち早く気付いた勝己くんの目線の先には、ミッドナイト先生、エクトプラズム先生、セメントス先生が立っていた。
体育館γとは、通称トレーニングの台所ランド、略してTDL……のこと。
頭の隅を某夢の国がよぎったけど、まあ気のせいだと思うことにしておこう。
ここはセメントス先生考案の施設。生徒一人一人に合わせた地形や物を用意できるらしい。台所ってのはそういう意味だそうだ。
セメントス先生の説明が終わってみんな納得したところで、飯田くんが勢いよく手を挙げた。
落ち着け、と言ってから、相澤先生は話し始めた。
ヒーローとは事件・事故・天災・人災…あらゆるトラブルから人々を救い出すのが仕事。取得試験では当然その適性を見られることになる。
情報力、判断力、機動力、戦闘力、他にもコミュニケーション能力、魅力、統率力など、多くの適性を毎年違う試験内容で試される。
その中でも戦闘力はこれからのヒーローにとって極めて重視される項目となり、技の有無は合否に大きく影響するんだそうだ。
なお、技は必ずしも攻撃である必要はなく、自分の中に「これさえやれば有利・勝てる」って型をつくろう…という話らしい。中断されてしまった合宿での「”個性”伸ばし」は、この必殺技を作り上げる為のプロセスだったというわけだ。
緊張か、はたまた高揚か、手に汗が滲むのがわかる。
合宿で編み出した拘束技、ミストプリズン。
普段の”個性”使用以上に体力と集中力を必要とする技だからまだあまり多用はできないけど、この圧縮訓練で”個性”伸ばしに磨きをかければそれも夢じゃない。もしかしたらもっと技ができてしまうかもしれない。
あの時みたいに、ただ為す術もなく敵にやられるのは嫌だ。
今度は私が、みんなを、勝己くんを守る番。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!