一定の音で鳴る機械音、少し苦手な匂いで私は気がついた。
私は病院で、ベッドに横たわっている。
「 市川さん、気が付きましたか? 」
知らない女の人の声がする。
『 …すみません、ここは病院ですか、? 』
「 はい、市川さんは、交通事故に巻き込まれて搬送されたんです。今生きていることが、奇跡なんですよ。 」
『 奇跡… 』
私は上体だけ起き上がると、少し体に痛みが走った。
それから、視界は真っ黒なままだ。
『 すみません、目の包帯を外してもらえませんか 』
「 … 」
『 あの、 』
私は顔に触れると、呆然とした。
包帯など、なにも施されていない。
「 今、こうして生きていることは奇跡ですが、市川さんの目は見えなくなってしまいました 」
私の手に、水滴が落ちてくる感覚はたしかにあった。
これは私の目だ。
でも、いくら目を開けても、瞬きをしても、黒以外の色が見えることはない。
『 あの、私…、 』
言葉にならない言葉を紡ごうとするも、無駄な足掻きだった。
私は、あのひとのことを思い出した。
これでもう、本当に会うことはなくなったんだ、と。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!