第119話

〔西畑大吾〕初恋は幼馴染と
7,620
2020/12/03 09:45


時刻は午後7時。



仕事を終えて、デスク周りを片付けながら、帰り支度をしていると…



先輩「あなたちゃん!!これから皆でご飯行くんやけど、あなたちゃんも一緒に行こうやっ!!」



なんて、運悪く…って言ったら失礼やけど、少ーし苦手な男の先輩に、そう話しかけられて。



『…あ、、えっと、、。』



先輩「なっ、ええやろ?久しぶりやし、あなたちゃんが居た方がこっちも盛り上がるし!決定な!!」



なんて私が戸惑っている間にも、何だかんだで押し切られてしまって。



苦手だとはいえ一応先輩やし、断る理由がちゃんとある訳でもないし…。



あんまり乗り気じゃないけれど、行くしかないんかなぁ、、、



なんて、そんな事を考えていると…



「先輩、ダメですよ。」



『…っ!』



突然、話を遮るように誰が言った、その言葉。



思わず声がした方を振り返って見てみれば…



『…大ちゃん、、。』



そこに居たのは、思った通り大ちゃんで。



「今日の先約、俺なんで。あなた、借りて行きますね。ほら、行くでっ!」



『…えっ、?…え、ちょっ!…大ちゃん…!?』



大ちゃんの言葉の意味を私が理解する前に、ぎゅっと、手を繋がれたかと思えば



そのまま会社のオフィスを出て、動揺している私のことなんかお構い無しに



何処かに向かって、一直線に進んでいく大ちゃん。



『…ちゃん!、大ちゃん!…ねぇ、大ちゃん、手……。』



「…えっ、?あぁ、…ごめんっ、。つい、、。…っていうか、あなた。そんな事気にしてたん?笑」



『そ、そりゃ私だってそれくらい気にするし…!』



「んー、でも小さい頃とかよく繋いでたやん。なんなら、お風呂も一緒に入ってたぐらいやし?笑」



『なっ、!それとこれとは別の話で…!!』



「ふはっ、笑 わかってるって!笑 冗談やじょーだんっ!!笑」



なんて、くしゃっと笑う大ちゃんにドキッとして。



「…っていうか、飲み会勝手に断って出てきちゃったけど、どうせあなた。この後暇やろ?笑 ちょっと付き合って。」



『へっ、?』



「ほーら、あなた!早くしないと置いてくで?笑」



『えっ、ちょ、!!待ってや、大ちゃん…!』



慌てて私が大ちゃんの所まで追いつけば、さりげなく道路側を歩いたり



私のペースに合わせてくれる大ちゃんに、余計に私の胸は高鳴って。



…大ちゃんとは、元々幼馴染で、小さい頃から、何をするにもずーっと一緒。



社会人になって働くようになった今だって。



今日みたいに、私が困っている所を助けてくれるのは、いつも決まって大ちゃんで。



優しくて、気遣い上手で、おまけに仕事も出来る。



そんな完璧すぎる幼馴染と、小さい頃からずっと一緒に居たんやもん。



"好きにならない訳がない"、やろ?



……って、本当はそう言いたい所やけど。



実際、私が自分のこの気持ちに気づいたのは、つい半年ぐらい前のこと。



自分でもアホやなって、思ってる。



こんなに一緒に居て、何で今まで気付かなかったんだろうって。



…でも、多分それは、本当は気付いてなかった訳じゃなくて。



私がずっと。自分の気持ちを誤魔化して、気付いていないフリ・・をしてたから。



なんて、ぼーっとしながら、私が色々考えていれば



「あなた!!着いたで!!顔、上げてみ?」



いつの間にか、目的地まで着いていて。



大ちゃんに言われた通り、顔をあげてみれば…



『…わぁっ、!!何ここ!!すっごく綺麗…っ!』



目の前に広がる、綺麗な夜景。



大ちゃんが連れて来てくれたのは、街中が見渡せる、大きな展望台がある場所で。



「あなた、昔からこういうの好きやろ?だから、ここなら喜んでくれるかなって思ってさ、笑」



なんてそう言いながら、少し照れくさそうに、でも優しく微笑む大ちゃんに対して



"好き"って気持ちが、溢れ出す。



…だけど、、



『大ちゃん、覚えててくれたんや、、。』



「ん、当たり前やんっ。忘れる訳ないやろ? だって俺たち、"幼馴染"やし!」



『…っ、、。』



"幼馴染"、なんて。




…そんな関係、私はもう辞めたいのに。



わかってた、わかったけど、、。



やっぱり大ちゃんにとって私は、ただの"幼馴染"に過ぎなくて。



大ちゃんが私に優しくしてくれるのだって、結局それは、私が"幼馴染"だからで。



大ちゃんに優しくされて、嬉しいはずなのに。



それと同じくらい、今の私にとって、そんな大ちゃんの優しさは、苦しくて。



少し気を抜けば、今にでも溢れてしまいそうな涙を、私が必死に堪えていれば…



「……なぁ、あなた。この噂知ってる?」



『…えっ、?』



「ここでな、? 初恋の人と一緒に夜景を見ながら告白すると、その2人は絶対結ばれるんやって。」



なんて、一体何を言い出すのかと思えば



前触れもなく、突然大ちゃんがそう言ってきて。



『何で今そんな事…、、…っ!、ぇ、まさか…、。』



「ふふっ、笑 やっと気付いたん? ほんまに遅すぎ。笑 俺がどんだけ待ってたと思っとんねん。笑」



『え、?え、??いや、でもだって…!』



「好き。」



『…っ、!、、。』



「小さい頃ずーっと、あなたの事が好きやった。…だから、、あなた。俺の彼女に、なってくれませんか…?」



『っ、、。』




いつも以上に優しく、でも真っ直ぐとそう言う大ちゃんに



こんなの、夢みたいで、信じられなくて…。



『…私の返事、、本当はわかってるくせにっ。』



「ふふ、うんっ、まぁね。笑 でもちゃんと、あなたの口から聞きたいやん?」



そう言って、いたずらっ子みたいな笑顔を見せる大ちゃんは、きっと、初めから確信犯で。



『…私も、大ちゃんのことが好きっ。だから、…お願いしますっ、!』



なんて私がそう言えば。そのまま大ちゃんの方へと、引き寄せられて



ぎゅーっと、優しく抱きしめられて。



「絶対、あなたのこと幸せにするからっ。」



『ふふっ、笑 うんっ、、!』



2人で幸せを噛み締めながら、笑い合う。




「…あっ、そう言えば!さっきの噂、続きがあってんっ!」



『…へ、続き??』



「そう、笑 ここで、結ばれたカップルがキスをすると、一生一緒に居れるんやって、!」



『ふふっ、何それ。笑』



「もぉー、あなた、全然信じてないやろー??笑」



『うんっ。笑 だってそれ、全部大ちゃんの作り話だもんっ。笑』



「んー、まぁ、そうなんやけど。笑 でも、嘘ではないで?」



『…えっ、?』



「だって俺、あなたの事、一生誰にも譲る気ないもんっ。」



『…っ、!…んっ、大ちゃんっ、、。』




なんて、反則すぎる大ちゃんの発言に私がドキッとしていれば



そっと、優しいキスが、降ってきて。



…数年後。



私の左手の薬指に、大ちゃんとの約束の証が輝いていることは



きっと、言うまでもないんだろう。








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