壁につけられた時計を見ながら君は言った。
ポケットから取り出したスマホが表す時間は夜中の1時。
夜明けの予想時間は5時20分。
そう言うとなんだか曖昧な返事が帰ってきた。
スマホ画面から目を離しても君の顔は影に覆われていて表情が分からない。
いつもならたったの5時間だと思っていた物が長く感じる。
それはきっと僕も同じ。
少しでも時間を無駄にしたくない。
これ以上そう思う事はきっとこの先ないと思う。
何かを思い出したとでもいいたげな表情。
何をしたいのかも分からず君のたんすをのぞく。
透明なケースに入ったブレスレットが数個あった。
中に入っている物をごっそりと取り出して君に見せる。
君が指差したのはオシャレで銀色の鎖に鈴が通されたブレスレット。
指差された物を持ち上げて再確認すると君はブンブンと首を縦に振った。
他のアクセサリーはケースにしまい、指定された物を君に手渡す。
使い古されているけれど、丁寧に扱われていたのかサビや傷がひとつもない。
ただ、寿命僅かな星のように鈍い光を放っていた。
何も返す言葉がなくて頷くことしか出来ない。
息が詰まるほど吸い込んだ何かが僕を埋め尽くす。
そして、君は数秒ぐらい手元を見つめてこう言った。
宙の大切な物なんだからこんな僕なんかが貰えるような理由なんてひとつも無い。
むしろお願いされても受け取りにくいまであるし。
真剣な眼差しで頼み込む君。
何とも言えなくて僕はただ、
としか言えなかった。
言われるがままに腕を出してブレスレットを付けてもらった。
いつもそんなもの付けないから変な気分。
ぎこちない笑顔でそう言うと君はへにゃっと笑ってくれた。
やっぱり君は笑顔が似合う。
寿命にタイプとかあるものなのか?
もうすぐに死んでしまうかも知れない人の前だと寿命の話はめちゃくちゃ話しずらい。
怖いぐらい口角を上げてにっこりと笑う君。
もはやにっこりのレベルを通り越していた。
僕がそう問いかける。
すると次の瞬間、君の口から思ってもいない言葉が飛び出した。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。