第37話

ヒーローなんて嘘ばっかり。
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2021/10/17 12:04
涼風 宙
あのさ、夜明けって何時か分かる?
壁につけられた時計を見ながら君は言った。
佐藤 黒斗
ちょっと待って……
今調べるから。
ポケットから取り出したスマホが表す時間は夜中の1時。

夜明けの予想時間は5時20分。
佐藤 黒斗
5時20分だって。
涼風 宙
ふーん。
そう言うとなんだか曖昧な返事が帰ってきた。

スマホ画面から目を離しても君の顔は影に覆われていて表情が分からない。
佐藤 黒斗
どうしたの?
涼風 宙
なんか夜明けが長いなぁって。
いつもならたったの5時間だと思っていた物が長く感じる。

それはきっと僕も同じ。
佐藤 黒斗
夜明けまで何する?
少しでも時間を無駄にしたくない。

これ以上そう思う事はきっとこの先ないと思う。
涼風 宙
えーっと。
僕はなんでもいいんだけど……あっ!
何かを思い出したとでもいいたげな表情。
涼風 宙
僕のたんすの上にあるブレスレット取ってくれない?
佐藤 黒斗
えっ?あ、うん。
何をしたいのかも分からず君のたんすをのぞく。

透明なケースに入ったブレスレットが数個あった。
佐藤 黒斗
どのブレスレット?
中に入っている物をごっそりと取り出して君に見せる。
涼風 宙
えっと、1番右のやつ!
君が指差したのはオシャレで銀色の鎖に鈴が通されたブレスレット。
佐藤 黒斗
これ?
指差された物を持ち上げて再確認すると君はブンブンと首を縦に振った。

他のアクセサリーはケースにしまい、指定された物を君に手渡す。
涼風 宙
これね、大切な物なんだ。
使い古されているけれど、丁寧に扱われていたのかサビや傷がひとつもない。

ただ、寿命僅かな星のように鈍い光を放っていた。
佐藤 黒斗
そうなんだ。
何も返す言葉がなくて頷くことしか出来ない。
涼風 宙
これ、母さんの形見なんだよね。
息が詰まるほど吸い込んだ何かが僕を埋め尽くす。

そして、君は数秒ぐらい手元を見つめてこう言った。
涼風 宙
……これあげるよ。
佐藤 黒斗
へ?
佐藤 黒斗
いやいや、お母さんの形見なんでしょ?
宙の大切な物なんだからこんな僕なんかが貰えるような理由なんてひとつも無い。

むしろお願いされても受け取りにくいまであるし。
涼風 宙
ちがう。
貰って欲しい。
真剣な眼差しで頼み込む君。

何とも言えなくて僕はただ、
佐藤 黒斗
う、うん。
としか言えなかった。
涼風 宙
黒斗、腕出して!
僕が付けたいから。
言われるがままに腕を出してブレスレットを付けてもらった。

いつもそんなもの付けないから変な気分。
佐藤 黒斗
ありがと。
ぎこちない笑顔でそう言うと君はへにゃっと笑ってくれた。

やっぱり君は笑顔が似合う。
涼風 宙
そーいえば、黒斗って何歳まで生きたいタイプ?
寿命にタイプとかあるものなのか?
佐藤 黒斗
うーん……80歳までは生きたい、かな?
もうすぐに死んでしまうかも知れない人の前だと寿命の話はめちゃくちゃ話しずらい。
涼風 宙
そっか!
涼風 宙
じゃあ、黒斗の願いはきっと叶うよ。
怖いぐらい口角を上げてにっこりと笑う君。

もはやにっこりのレベルを通り越していた。
佐藤 黒斗
えっ、なんで?
僕がそう問いかける。

すると次の瞬間、君の口から思ってもいない言葉が飛び出した。
涼風 宙
そのブレスレットには特別な魔法がかけられてるからだよ。

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