ハンビンside
━━━○番線に、電車が参ります
聞きたくないアナウンスがまた聞こえてくる
「あ、そろそろ帰らなきゃだよねっ」
ドキッ
「え?わっ!もうこんな時間!!時間なんて忘れてましたっはは〜、」
なんて、全部嘘だ
本当は結構時間が経っていることも、何本か電車を見過ごし、もう帰らなければ行けない時間になってしまっていることも全部気付いていた
だが、僕は都合良く時間に気づいてない振りをして少しでも長く貴方の傍に居たかったんだ
きっと彼も自分が僕の時間を奪ってしまったとでも思っているのだろう
あの様子から僕に気を遣って もう帰らないとっ 、なんて言い出してくれたんだ
このまま時間が止まってしまえばいい
僕は本気でそう思いながらも、非現実的な事が起こる訳もなく、帰らなければいけない時間が近づいて来ていた
ガタンゴトン
「この時間になるとやっぱりガラガラですね」
「ハオヒョン!あそこの角座りましょ!」
そう言い、僕は周りに人のいない3人席に彼を誘導した
「うん!よかった、空いてて〜」
ハオヒョンはそう言うと、僕が座った隣ではなく、間を1個空けて座った
(え、、隣来てくれないの…)
正直、たった1席でも、離れて座られたことがショックで動揺してしまった
てっきり僕の隣に座ってくれるかと思ってたのに
彼は急によそよそしくなってしまった
「ハ、ハオヒョン、隣来ないですか?」
「…!い、いや〜こんなに空いてるのに男同士が隣座ってるの変かなと思ってㅎㅎ」
半笑いを浮かべ、言葉を詰まらせながら気まずそうにそう言う彼
そうか、彼にとって僕は、男同士の、あくまでも友達なんだ
分かってはいた、分かってはいたのに
実際にこの現実を突きつけられるのは、予想以上に辛かった
いくら彼を慰めることが出来たとしても、
彼が僕を必要としてくれていたとしても、
彼の求めるものは、男友達としての僕なんだ
決して、それ以上の関係では無い
僕は一体何を期待していたんだろう、
男である、この、変わらない現実がある限り
僕は彼にどれだけ尽くしたとしても、望む関係にはなれないんだ
ジャンハオside
「ハオヒョン!あそこの角座りましょ!」
「うん!よかった、空いてて〜」
電車に乗り込むと、彼がちょうど誰も居ない3人席に誘導してくれた
(…ハンビナと一緒に帰れるなんて嬉しいな、、)
なんて考えて座ろうした時、嫌な出来事がフラッシュバックした
あの日、彼が彼女と電車に隣同士で座っていた光景
何度忘れようと思っても忘れられなかった光景
正直、雨に打たれてこのまま消えてしまいたいと思ったあの日、傘を忘れたことよりも、運悪く雨に降られたことよりも、母親を思い出したことよりも、
(…君にもう、愛する人が居た、ということが1番辛かったんだよ)
本当は少しでも長く彼の傍に居たい、彼の隣で彼からの温かい言葉を聞いていたかった
だが、隣に座るのは彼女のことを思い出してしまうため、1個離れて座ることにした
「ハ、ハオヒョン、隣来ないですか?」
ドキッ
「い、いや〜こんなに空いてるのに男同士が隣座ってるの変かなと思ってㅎㅎ」
言ってしまった、何でこんな嘘…
本当は隣に座りたいのに、余計な嘘までついてしまった
彼は他の人とは違う
そんなの自分が1番分かっていた
男なのに、男だということを気にしないくらい好きになっていたのだから
(…でも、これでいいはずなんだ、)
そうだ、僕がいくら弁解したとして、現実は変わらない
ハンビナには彼女が居て、その事実がある限り、僕は僕が望む関係にはなれない
そうだ、忘れてはいけない、僕は朝のあの時点で既に失恋してたんだ
こんな状況では、彼の隣に居れば居るほど辛くなるんだ
(…ハンビナ、ごめん、)
自分を守るために嘘をついてしまったことを心の中で謝り、彼から少し目を背けた
少しの間、静かな時間が流れた
僕が変なプライドなんか捨てて、友達として彼の隣に素直に座ってれば、
今も彼と笑いあって会話出来たはずなんだ
後悔と自分への怒りでまた涙が出そうになる
その時、彼が口を開いた
「…ヒョン、さっき言ったこと、本当ですからね」
「…え?さっき…言ったことっ、て」
急に真剣な眼差しでこちらを見てくる彼に思わず釘付けになってしまう
「僕が守ります、ハオヒョンのこと、ずっと」
「だから、嫌じゃなければ、これからもそばに居させて貰えませんか?」
ポロッ
一筋の涙が流れる
さっきまで泣きそうなのを我慢してたのに、そんな言葉をかけられてしまっては、止めることが出来なかった
「…なにそれっ、ずるいよ、」ポロッ
守る?僕を守るって?
そんなこと言われたらまた期待しちゃうじゃないか、やめてよ、もうこれ以上傷つきたくないのに
そんなことを思いながらも涙は止まらなかった
素直に嬉しかったのだ
僕を気にかけてくれて、僕に真剣に向き合ってくれる人に出会えたから
なのに、彼の1番愛する人には、なれない
彼の愛情を独り占めすることは出来ない
僕だけに向けられる愛情では無いんだ
嬉しい気持ちと、辛い現実に対する感情が混ざり合い、上手く言葉が出てこない、
「…ヒョン!どうして泣くんですか?!」
そういって1個席を詰め、また僕の手を握ってくれる彼
「ハオヒョンっ、まだ辛いことがあるんですか?全部教えてください、お願いします、ハオヒョンのこと守るって決めたんです」
本当にずるいよ、君は
こうやって触れられると、何でも受け止めてくれる気になってしまう
叶わない恋をしているまま友達のフリをして、隣に居続けるのはあまりにも辛すぎて、
もういっそのこと全部彼と交わした言葉も温もりも、全て忘れて、会わないことにしようって決めたのに
彼はそれさえも許してくれない
「っ、そんな優しい言葉ばっかり言わないでっ、グスッ」
「忘れられなくなっちゃうじゃんっ…」
彼は、眉間に皺を寄せて聞き返す
「わす、れる…?」
ハンビンside
「わす、れる…?」
その言葉に頭が真っ白になった
なんの事だ、忘れるって、今日あったこと?今までのこと?まさか、僕のことを…?
そんなこと僕が耐えられない
こんなに心から愛する人に出会ったのに、忘れられるなんて、そんな事があったら多分僕は一生立ち直れない
「ハオヒョン、忘れるってどういう事ですか?」
「ゆっくりでいいです、お願いします、全部話してください」
僕は必死に、しかし優しく流れる涙を拭い、ハオヒョンをなだめながら懇願した
すると、彼は恐る恐る口を開きだした
「…っ僕は、僕は、ハンビナが望むような関係にはなれないっ」
「ハンビナを僕のせいで悩ませたくないっ、!、」
そう言い切り、また涙を浮かばせる彼
僕が、望むような関係…?
「なんですか、その、望むような関係って、」
「悩みなんかしませんよ、悩んだとしても、僕はハオヒョンのためなら何時間つかっても構いません」
「…!そんなのっ、、だからやめてよ、そういうこと言うの!!」
僕はただ本心を言っているだけなのに、どうして彼は否定するんだ
分からない、でも、僕はこの本気の気持ちを伝えることしか出来ないし、伝えられるのはこの本心しか無いんだ、嘘なんて1つも言っていない
「全部、ぜんぶ本気です!どうして否定するんですか…?」
「嘘だっ!ひどいよ、もう何も言わないでよっ」ポロッ
ギュッ
僕はまた彼を抱きしめた
彼がひどく泣いている、それだけで僕は辛かった、理由を教えてくれない以上、行動で示すしか無かったんだ
彼が辛い時、そばに居て守ってあげたい
そう心に決めたんだ
「ヒョン!おねがいです、落ち着いてください、」
「僕は、僕は本心しか言ってない、嘘なんてついてない」
「だから、ハオヒョンが嘘だと思う理由を教えてくれませんか?言ってくれるまで離しません」
少々強引だったかもしれない
だが、彼の本心を聞き出すにはこうする以外方法が思いつかなかったんだ
気づくと、彼は泣き止んで落ち着いてくれた
(ヒョン、抱きしめられると安心するのかな…)
そして、ようやく口を開いてくれた
「だって、だって…ハンビナ、…いるじゃん」
「え…?何て言いましたか?」
「ハンビナ、彼女!いるじゃん…」
そう言ってまた涙目になるハオヒョン
「え!いやいやちょっと待ってハオヒョン!!泣かないで落ち着いてください!!」
「勘違いしてますって!!」
「なに…勘違いって!僕のそばに居るとか言ったくせに彼女居たら無理じゃんか…」
「だから、それ!彼女!僕、彼女なんて居ませんから!!!」
「……っえ??」
彼は大きな目を更に大きくしてフリーズしてる
「だから、彼女いませんよ、僕」
「やっぱり、あの時電車で僕のこと見ましたよね?」
「…見た、だから少し離れたっ、じ、じゃああの人は誰なの?!」
「…いやぁㅎㅎ、ハオヒョンに話すまでも無いくらい、全然仲良くない同じ高校だった女子ですㅎㅎ」
「運悪く駅で会っちゃって、…全然仲良くなかったんですけど、あの人誰にでも話しかけてくる人なんです、で離れようとしたんですけど、電車の中まで付いてこられちゃって、ははっ」
彼は相変わらずきょとんとしてる
何故かその顔が可愛くて頭を撫でてしまった
「わ、っちょ、ちょっともう、っ!//」
照れてるのも可愛い、
「…ハオヒョン、ヒョンは、僕に彼女がいたら悲しいですか?さっき忘れようと思ったのに、とか言ってましたけど」
「…っへ?そんなこと、言ったっけ?いや、忘れちゃった〜言ってないよ多分ㅎㅎ」
そう言い、顔がどんどん真っ赤になるハオヒョン
「いやいや、あんなに泣いてたじゃないですか、…ていうか、僕に彼女が居るって思ってたから泣いてたんですか?ㅎㅎ」
なんてね、そんな都合のいい話ある訳ないよな〜なんだか顔を赤くしてるハオヒョンは急に幼く見えて、さっきまで聞けなかったこともスルスルと聞けてしまう
「…だよっ」
「え?」
「そうだよっ!!!」
「っえ、え?!本当に?!なんで、ちょっ」
━━━━○○駅〜、○○駅〜、
そうだよって言った?僕に彼女が居るのが悲しいって、え、どうゆうことだこれ
1番気になる所でヒョンの最寄り駅になってしまった
「僕、ここだから!降りるね!//」
「えっちょっと、話が〜っ!」
「…ㅎㅎまた、会おう、次会ったら話すね」ナデナデ
そう言ってハオヒョンは最後の最後でお兄さんのような顔をして、僕の頭を優しく撫でて電車を降りていってしまった
(〜っ///、ずるいのはどっちだ!)
家に着くまでずっとハオヒョンの顔が忘れられず、3回ほどコケた












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。