重厚な扉を開けて、
いよいよあの人に、しっかり顔を見せる。
…気に入られなければ、捨てられるかもしれない。
こうちさんはああ言ったけど、俺は金で買われてる、飼われてる身なんだから、
あの、つかつきさんの一言で、生きるも死ぬも決まる。
怖い。
こうちさんが扉の向こうに消えて、
つかつきさんがこちらをゆっくり振り返った。
ジャケットは脱いでいて、
でもベストと緩めたネクタイだけでも十分に上品。
…彼が、僕のご主人様。
あの、オークションの売人の言葉を思い出した。
「性奴隷」
髙地のように自立したΩは、ちゃんと働けばいい。
僕みたいに、子供じみて、買われたΩは、きっとこうするしかない。
僕は、バスローブの腰紐を解いて、ぱさりと床に落とし、
そのままひざまずいた。
前がはだける、素肌が覗く。
これが僕が考えられた精いっぱい。
二億ドル…
計算する気も起きないけれど、きっととんでもない。
なおさら僕には釣り合わない価値だ。
…?
そっぽを向いてブランケットを手渡し、ソファを勧めるご主人様。
そうか、この人はαだ。
ヒートに当てられないなんて、きっととても理性が強いαなんだろう。
第二性のことも、まともに知らない。
唇を噛みしめる。
もういっそ死んでしまいたい。
こんなバカで、こんな使えない、ただの無能なおもちゃ。
無理だよ。
だって、僕は学校に行けてない。
無理だよ。
この性別、何やってもうまくいかないんだからさ。
人をまどわすことくらいしか能がない。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!