三浦光side
ー五度目の枯渇。
完全に意識を失った。
…それでも洸は来なかった。章に、死んでほしくなくて近づいた。崩壊寸前の精神は回復魔法ではどうしようもない。体力だけでも、と治癒をかける。呼吸が安定するまでそばに居るつもりだった。今更捕まえる気力なんて残っていないだろうから。
返事はない。
…見殺しにする気だった?…あり得ない、あの洸が。そんなことするはず無い。本当は誰よりも優しくて誰よりも人が大好きで。そんな人が、どんな理由であろうと人を見殺しにするはずがない。
…かなり高位な治癒をかけても、まだ心拍数が高い。…もうなにも感じなかったはずなのに、死んで欲しくないと強く思った。
自分でも馬鹿げてるのは分かっている。自分は死のうとしているのに他人には死んで欲しくないと思う。…あまりにも自分勝手で、矛盾していて、どうしようもなく醜い。
心臓の鼓動が早い。…流石に5回も連続して枯渇したらそう簡単には治らないか。…でもずっとここに居るのもな。…まぁ、こんなに近づいて反応も無いから、多分捕まえられる可能性はないだろう、と不安材料を切り捨てて章に触れた時だった。本当に、その一瞬だった。
…掴まれた。腕を。
どうして。…何で動けるの?治癒はかけた、でも意識が戻るような細工はしていない。ただ単に魔力を注いで、体力を回復させただけで、すぐ動けるはずがない。
何で動けるの、なんで、…おかしい、おかしい。
…馬鹿げてる。……追いつけないからってわざと枯渇する奴がどこに居る?…しかも2回目の枯渇で良いのに、私を油断させるために限界まで待ち続けた。私が完全に油断するまで。
安心したら力が抜けてきた。…久しぶりに魔法も使ったし。良かった、洸は見捨てたわけじゃなかった。全て分かって章に託してただけだった。…つまり、章のことを信じられたってこと。
じゃあ、死んでも良いじゃん。
聞いてくれるんだ。優しいな。
…策士だな。
今まで聞かないようにしてたんじゃないの、とツッコミたくはなるけど、そんなこと言ってられなくなったんだろうな。
…全部吐き出させる気だな。えぐいことさせてくるな。
死なせる気無いでしょ。
三浦洸side
…皆に詰められてるんだけどどうしたら良いんだろう。…ほのかに代わろうかな。
…光が残してった置き手紙。「愛してる」だけの手紙。光は何も分かってないよ。本当に好きならそばに居てよ。俺を「愛してる」んじゃない、“洸”を、愛してただけなんじゃないの?他の人格なんてどうでも良かった?それとも、自分のことが嫌いなだけなんじゃないの?死ぬ理由に俺を使っ、
…違う、そんなこと無い。絶対に。光はそんな人じゃない。…初めて、俺を人として見てくれた人だから。
ー今、知らされる。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!