第39話

38.美しき別れ(過去編)
16
2024/06/15 16:36
三浦光side
ー私は、王家、関家の一人娘として生まれた。他に兄弟は居なかった。だから信じられないくらいに優遇された。…しかも、死ぬほど才能があるとなれば。
魔法を生まれた時から成人と同じレベルに使いこなせ、知能もずば抜けていた。所謂「天才」と。そう呼ばれていた。天才と言えば、庶民の家に生まれた裕がそれに近い。うちの家は裕を養子として引き抜こうとしていた。…失敗に終わったけど、割と何度が来ていたから関わりがあって、皆よりよく裕のことを知っている。
言っても女だし、跡継ぎにはなれないから。
…まあでも、「関光」は関の代々伝わる伝統魔法を使えた数少ない後継者だったし、一切外に出してもらえないくらいには過保護だった。
皆、「光」に興味があるわけじゃない。「関光」に興味があるだけ。「関」に利用価値があるだけ。私の才能に価値がある。私そのものは才能を持つための器でしかない。そう分かりきっていた。でも、そんな分かりきったことを抱えながら生きるのはあまりにも寂しかった。
みんな誕生日とか、他の記念日とかにすぐプレゼントを送りたがるけど。そんなもの要らなくて。どうせ私の才能が目立たなくなったら用済みになるんだから。ただ、「ご機嫌取り」をしたいだけ。
「王女、誕生祭の贈り物についてですが…」
三浦光
三浦光
いらない。
「ですが、王が…」
三浦光
三浦光
…お兄様がほしい。叶うものなら。
叶うはずがない。ただ、同じ目線で立ってくれる兄弟が欲しかった。お兄様がほしいといったら、尚更裕を引き抜こうとするだろうということも分かっていた。
裕が関になることはない。それも分かっていた。分かりすぎて苦しかった。何も知らない無邪気な暮らしを少しでも良いから送ってみたかった。
「…王女、…年は同じですが素晴らしい才能を持った庶民の家庭の者がいます。その者を、」
三浦光
三浦光
…その子はどう頑張ったってお兄様にはなれないじゃない。
裕の父親が頑なに関に引き渡そうとしなかった。息子を想うのなら懸命な判断だと思う。生活に苦しんでいるはずなのに、到底手に入らない大金を賭けられても息子を手放さなかった。…そんな親が欲しかった。
「…所詮、庶民です。金に目が眩んで、」
三浦光
三浦光
…元ある家庭を壊したくはないの
…頑なに断られているけれど、裕の治療費を出すと言ったら少し揺れていたらしい。…裕の将来さえ確保出来れば、多分悩んでしまう。息子のことしか考えてないから。…でもそんなことはしたくなくて。幸せな家庭を潰したく無かった。
でも、寂しかった。
「…ですから、いくら支援をいただけても息子は渡せません」
裕の父親と、関の人間が言い合っているのを見た。それを横目に、車椅子に乗せられて眠っている裕を見ていた。濃い呪いで、関を筆頭とした王家ですら解呪は無理だ。それを分かっているから、「解呪してやる」という甘い誘いに乗らないのだろう。どうせ口約束で、守ってもらえないことなど分かりきっているから。
三浦光
三浦光
…ねえ、名前なんだっけ
長谷川裕
…(爆睡)
…寝ている。
三浦光
三浦光
ねえー、起きて?つまんないから
どさくさに紛れて肌に触れてみる。呪いがどれ程の物なのか見てみたかった。
三浦光
三浦光
……おそろし
反射的に手を離した。ほんの小さな違和感。魔法面で「天才」と呼ばれるほどの実力があるのに、それでも感じられるのは針の穴レベルの小さな、小さな違和感。
それがすごく恐ろしい。呪いは強ければ強いほど隠れて見えない。恐ろしい重圧だけを、ごく一部の者だけが感じられる。
長谷川裕
……、…?
三浦光
三浦光
あ、おきた。名前なに?
長谷川裕
……ゆう
その目には何が映っているのだろう。決して私を見ているわけではない。でも、才能を見られているわけでもない。「興味がない」という態度がありありと現れている。
長谷川裕
……ねていい?
三浦光
三浦光
おきててよ。暇なの
長谷川裕
……おうじょさまって暇人なの?
三浦光
三浦光
そうだよ?だってだれも…、“光”に興味なんてないじゃない
長谷川裕
……そう
本当に幼い頃の話だ。だけどお互いに大人びすぎていた。お互いに冷めきっていたのだと今なら分かる。周りの環境に振り回されて、感情なんてとっくに無くなっていたのだ。
そう言う意味では、通常記憶の無い頃からの付き合いだし、幼なじみといっても過言ではない。裕も私も生まれた頃からの記憶があるけど。
長谷川裕
……ねていい?
三浦光
三浦光
だめだって!
ちなみに、洸より長い付き合いだったりしないこともないけど、この生まれてから18年間で交わした会話の8割が「寝ていい?」「寝ちゃダメ」これに尽きる。これしかしていない。仲が良いだとか悪いだとかではなくて、単純に誰もいなかったから仕方がなく話していただけ。お互いに。
三浦光
三浦光
明日たんじょうびなんだ、しってた?
長谷川裕
……だれが?
三浦光
三浦光
あたし
長谷川裕
…そう。……ねていい?
三浦光
三浦光
おいわいぐらいしてよ!3歳になったんだよ!?
3歳の会話とは思えないけど、魔法あったら割と喋るのも早いしこの頃になったら大人びてきたりする。
長谷川裕
……だからなに?
三浦光
三浦光
きもちなんかない贈り物よりおめでとうの方がうれしいんだから
長谷川裕
……はぁ、
そういえば、裕に祝ってもらったこと無かったな。結局。虎と野茅に会うまでは、好きでも嫌いでもない幼なじみって感じで。2人のことを知って初めて、裕に残った人間性に気づいた。
「…息子は今は居ません。ですから、」
三浦光
三浦光
……居ない?
影から見ているつもりだったのに、思わず口を挟んでしまった。何にも興味を示さずに、起こされるまでずっと眠っている裕が居ないなんてあり得なかった。
「…!王女殿下、お初にお目にかかります」
三浦光
三浦光
…裕は?
別に堅苦しい挨拶なんてどうでも良かった。好きとかじゃないけど、いなくなってほしくないから。
「…裕には有り難いことに友人が出来まして…」
三浦光
三浦光
…え、……そうなんだ、
嘘でしょ、って思った。あの裕に出来るわけ無いと思っていたから。だから、自分を犠牲にしてまで虎を助けに行ったり、自信を持って欲しくて野茅に剣術科を勧めたりしたのを聞いて耳を疑った。父親はもちろん、裕がこんなに早くに居なくなるなんて思っていなかっただろうけど、誰も愛せなかった裕が心から人を愛せた、それを聞いたらきっと、あの人なら泣いて喜んでくれると思う。
似た者同士割とさっぱりした関係で長く付き合いがあった裕とは正反対に、全く違う者同士で唯一無二の存在となった洸とは、裕とは違い綺麗に別れることは出来なさそうだ。
裕との別れは綺麗だったと思う。もちろん急だったし、予想外だったけど、それでも「全うした」という面では、あの別れ方に満足している。…本当に、救われた。…でも、洸とはどれだけ別れ方を選んでも、ろくでもない物になることは容易に想像がついていた。…洸の人生を、狂わせ過ぎた。

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