あれ、私は何故歩いているんだろう。
心ここにあらずの状態から、一気に現実に引き戻される。
道端を走って行く子供達。談笑をする大人達。
こんなにも人里は賑やかなのに、家からこんなところまで、ぼーっとしながら歩いてきたようだ。
しかし、腕の中にある小説の原稿の束。
今日書き終えた自信作を、誰かに見せたかったような。
約束をした気がしてならないのだ。
……しかし、誰に見せたかったのだろうか。それがどうしても思い出せない。
この小説は、その人のために書いた気がする。
……でも、思い出せないのなら、単なる気のせいだろう。
そうに違いない。
あったとしても、大したことではないのかもしれない。
この違和感を、そう落とし込むことにした私は、足を止めて、来た道を引き返した。
あ、そういえば、出版にあたって本の印刷をしないと。
鈴奈庵に、もし本が出来たら印刷をしてほしいと頼んであったんだった。
あそこの本屋さん、昔から行ってるけど、時々奇妙な感じがするんだよね。
足元の小石を無意識に蹴り上げる。
そうして小石は飛んでった。











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。