第74話

day.35.5【終】
2,129
2023/10/16 12:59













- Geto side -










コンコン__


執務室のドアが遠慮がちに音を鳴らした。


ドアへ目を向けると、予想外の人物が顔を覗かせた。








伏黒 恵
伏黒 恵
…失礼、します。





ばつが悪そうに恵が中に入ってくる。





夏油 傑
夏油 傑
どうした?





そう尋ねれば__





伏黒 恵
伏黒 恵
すみませんでした…





と、開口一番に謝罪してきた。





夏油 傑
夏油 傑
フッ__
突然だな。





余りの素直さに、ついつい笑ってしまうと__


恵は口を尖らせて、顔を背けた。








夏油 傑
夏油 傑
あなたから話は全て聞いたよ。
もう気にするな__






最初はどうなることかと、随分と冷や冷やしたが__


正直に話してくれたんだ。


もう、何も言う事はない。






夏油 傑
夏油 傑
人を好きになる気持ちは、
良く理解できる…





私も人の事を言えた質ではない。


誰のものでないあなたに出会った私は、相当運が良かったんだ。





夏油 傑
夏油 傑
慰めにもならないが__
いつか恵にも、
運命の人が現れるさ。





そう希望を込めて諭した。











伏黒 恵
伏黒 恵
あなたの右眼…





微かに震える声で__


それは禁句の如く__


恵がゆっくりと言葉に出す。





伏黒 恵
伏黒 恵
なんなんすか…
あの、右眼…





何か、見て来たのだろうか__




伏黒 恵
伏黒 恵
無いはずの右目に風穴がありました…
その奥に、得体の知れない、恐ろしい何かが存在していました…

それに、
俺を吹き飛ばしたあの力は…
相当強い結界術でした。
補助監督が持つ力じゃない。


夏油 傑
夏油 傑
私も右眼について、
詳しく知っているわけではないんだ…




全ては天元様から聞いた話に過ぎない。




夏油 傑
夏油 傑
あなたの右眼は今、
天元様の眼となっている。
その眼を通して2人は繋がっているんだ。
結界術については、天元様の力だ。
伏黒 恵
伏黒 恵
天元様と…!?

夏油 傑
夏油 傑
あぁ__
呪術界一の結界術の使い手と同じ力を、あなたは宿してしまっている。




恵が口を開けたまま驚いてる。



夏油 傑
夏油 傑
風穴の向こうに見えた存在については、私もよく知らない…
ただ、天元様はこう言っていたよ。
あの右眼はアマツカミと…
伏黒 恵
伏黒 恵
アマツカミ…?






夏油 傑
夏油 傑
出会った時__
あなたに右眼はあった。
だが、運命は私達に試練を与えてね…
私の命を助けるために、あなたは右眼を天元様に捧げたんだ。




そう言えば、途端に恵が鼻で笑った。



伏黒 恵
伏黒 恵
ハハッ__
なんすか、それ…




自分自身を嘲笑っているようだった。



伏黒 恵
伏黒 恵
アンタら、どれだけ、
強く結ばれてるんですか…


夏油 傑
夏油 傑
フッ__
今頃気付いたのか?
私達は切れない糸で繋がってるんだよ。

伏黒 恵
伏黒 恵
端から…
入り込む隙間なんて無かったんだな…



恵の表情が途端にスッキリしていた。


もう行きます__と、ドアノブに手掛ける。


だが、何かを思い出したようにその動きを止めた。





伏黒 恵
伏黒 恵
あの__
少年院であなたが抱きしめてくれたって話…それは事実なんですけど…

夏油 傑
夏油 傑
寒くて抱きついただけだろ…?
伏黒 恵
伏黒 恵
はい。
そうです…

ただ、抱きついた時、
こう言ってましたよ。






恵が表情を綻ばせる。






伏黒 恵
伏黒 恵
"傑"って__
 
夏油 傑
夏油 傑
!!







そう言って、恵は執務室から出て行った。








正直、出て行ってくれて助かった。


みっともないくらい、表情が緩んでいる。


こんな顔、生徒に見せられない。







裏切りなど、微塵もあり得ないんだ。


こんなにも私を愛してくれている。







あなたに会いたい。


会いたくて堪らない。












はやる気持ちを抑えた帰り道。


君の待つ家に足早に向かう。






玄関を開ければ、眩しいくらい輝いた世界。


夕食の良い匂いと共に、君がキッチンから顔を出す。


穏やかな笑顔で私を出迎えてくれる。




あなた
おかえり、傑。


夏油 傑
夏油 傑
ただいま__











愛しい人よ__



















- season2 end -












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