次の日、朝食をとるためリビングに集まっている。
明るく晴れ晴れとしている上に、艶ややかな表情をしている新を見て、横原と奏は大河がこの場に居ない理由を察した。
大河が座る場所に“ご愁傷様”と手を合わせる横原。
「あらち、がちゃん起きてるの?」
「起きてるけど動けないって」
「「………………」」
「そうだ!ごはん、持っていって食べさせてくる!」
楽しそうに言う新を二人は止める事はしなかったが
「先に新が食べてからにしな」
冷静な横原の一言が飛んだのだった。
「…….大河くん、大丈夫?」
朝食をプライベートルームのテーブルに置き、寝室を覗いた。
新が調子に乗りすぎて大河を潰してしまい、申し訳なさがある。
「起きれる?」
「……………」
返事がないので怒らせてしまったか、と焦りながらベッドにいる大河に近づく。
「ごめんなさい」
顔を見せてくれない大河に、小さな声で呟くように謝る。
「ねぇ、怒ったの?」
ゆっくりベッドにあがり、寝ている大河に跨ると身体を仰向けにした。
新と目が合うと大河は優しく笑ってみせた。
瞳が潤み出している新に「怒ってないよ」と頬に手を添え撫でてやる。
そのまま大河に抱きつくと耳元でもう一度謝る。
「調子にのってごめんなさい」
「うん。これから手加減を覚えてね」
新は大河の耳たぶに甘噛みをして、頬に舌を這わせたあと鼻の頭にキスをする。
そして「今日の予定は?」と鼻先で声をかけた。
「寮に行くくらいかな」と返事を聞くと唇を塞いだ。
「よかった!怒ってなくて。ごはん持ってきたから、食べさせてあげる!!」
「え?」
一悶着あったが、最後には大河が折れるのだった。
新と奏は母親たちがいる新の実家に来ていた。
報告や連絡を済ませたあと、大河の学習カリキュラムについて新は奏の母親に聞いた。
「……..は?なんて?」
奏の呆れたような表情が可笑しくて母親達は声をたてて笑い出した。
「何故、俺らが1番に報告したいのに黙ってたと思うの?がちゃんが思い詰めて受験ウツにでもなったらどうする気だったわけ?」
「何言ってるの。私がそんな事させないわよ」
自信たっぷりに答える自分の母親に奏は頭を抱えた。
「大河くんは、背中を押すだけで本気をだしたわ。今あの子、もう充分合格圏内にいるわよ。だから話したのよ。あなた達が秋には大学生になる事をね」
あとは問題慣れと体調管理だけね。
とにこやかに笑う母親だった。
年下の自分たちが大河より先に大学生になる事で、精神的負担になると思い、わざと言わなかった。
今まで帰国出来なかった理由はスキップと大学受験のためだった、と言えなかったからなのに、すでに知られていたとは。
笑うしかない新と奏だった。
「じゃ、このままのカリキュラムで無理させてないんだね」
新は確認をした。
「そうね、受験に関しては問題ないわ。あとは入学後よ」
「?」
「あなた達にも言える事だけど入学後が大変なのよ。大河くんは今、それをやってるから行き詰まったのかもね。なら問題集を混ぜようかしら?今やると自信失くすからダメって止めてたけど」
「「…………」」
「ね、みなち、大河くん母さん達に遊ばれてない?」
「がちゃん、真面目だから」
顔を見合わせて苦笑いをした。
新と奏は実家をあとにすると、夏まで在籍していた学園の校内にある桜の木の下に居た。
桜が咲くにはまだ早いのが残念だが、満開の頃にはまた英国に戻らないといけない。
横原と大河は寮に残してある最後の荷物を引き取りに来ており、寮母にも最後の挨拶をしていた。
寮の門前で二人並んで頭を下げて、お世話になった寮をあとにした。
待ち合わせ場所にしていた桜の木は新にとって思い出深い場所である。
入学式の日に大河と再会し、新のファーストキスの場所でもある。
横原と大河が荷物を持ってこちらに来ているのを見つけると、小走りで大河の元へ行く。
大河の腕に自分の腕を絡めて見あげると掠めるように頬にキスをした。
帰国して2日目だが、新の大河に対するスキンシップが増えたと思う横原だった。
横原や奏の前で何回キスをしていただろうか。
部屋なので何も言わなかったが、さすがに校内で補習組が登校しているので小言を言う事にした。
「校内でイチャイチャすんのやめとけ。誰に見られるか分からんぞ」
老婆心からの小言も二人の世界に浸る新と大河には聞こえておらず、完全にスルーされた。
「あほらし!先に車で待ってようか」
「ほっとくと、誰かに通報されるかもよ」
「そこまでになるか?!」
奏が指さす先には、大河が新を胸の中に包み込むように
抱いてキスをしようとしていた。
「だからっ!お前ら、やめろって!」
そう、言って二人を引き剥がし「ここをどこだと思ってんだっ!」怒鳴りつけた横原。
「だって、見せつけてるんだもん」
「は?」
「大河くん見てる子達に見せつけてるの!俺のだって!」
「…..も少し大人になれって….」
横原の怒気が撃沈し項垂れた。
「通学するがちゃんが気にしないなら、いいんじゃない?通報されない程度なら」
奏が納得できる一言を放った。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。