第76話

怒涛の日々
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2024/10/27 08:00 更新
新と奏が英国に戻ってからも、慌ただしい日々が続いていた。
横原は大学入学準備、大河は高校の入学式に参加するために挨拶文を考えたり、自分の進級準備もありバタバタの4月を迎えた。


入学準備で登校した大河は、椿とともに3人の新2年の後輩達に指示を出して一息ついた。

「もうすぐお昼だね、そろそろ解散しよか」
「はい。あとは会長の原稿の確認だけですよね?」
「そうだね。自分のだからそれはやっておく。来賓来客の待機室への案内と、新入生の誘導がメインだから明日は頼むね」
そう言った大河は去年の入学式を思い出して、穏やかな笑みを浮かべた。
その笑顔を見た後輩3人は見惚れてしまった。

「がちゃん、気をつけないと新に怒られるよ」
「え?何もしてないけど?」
椿は、見てみな?と視線を送る先に大河の色気に当てられ呆けている後輩がいた。

「おおかた新のこと考えてたんだろ?がちゃんの笑顔は破壊力あるから」
新と再会した日の事を思い出しただけだが、そんなに嬉しそうな顔をしたのだろうか。

正気に戻った一人が、そういえば、と話を切り出した。
「そういえば会長、いつだったか桜のとこで彼女といちゃついてましたよね?」
「がちゃんが?マジ?」
椿は初耳なのではびっくりして大河を見る。

「ああ、残りの手荷物取りに来た時だよ」
「いちゃついてたのは否定しないんだ…..」
椿には小さく笑った大河は、打って変わって後輩には睨むように目を細めた。
蛇に睨まれた蛙だ。
視線を外す事も出来なくなった。

「それ、見たって事はキミは補習組だったんだ」
「えっ、えとぉ……」
見惚れたり怯えたり忙しい事である。
「いい?1学期は欠点取らないように勉強してね」
そう言うと立ち上がり“解散”と一言放った。

大河の彼女の話題に持って行きたかったが上手く交わされたのだった。
「結局、今回は新と奏には会えなかったな」
「ずっと姫んとこだったんでしょ?二人は夏休みには長期間で帰ってくるよ」
「ま、俺らの受験が終わったらゆっくり会いたいな」
「言っておくよ」鞄を椿に渡すと生徒会室に鍵をかけた。

「影はもう横浜だよね。ほんと進学先によってバラバラになるんだな、て思った。この間まで一緒だったのに」
少し寂しそうな椿に相槌をうった。
「そうだよね。ばっきーはどうするの?新の言う通りに併設大?」
「まあね。姫もいるし」
「ねえ、まだ高校生だけどさ、姫とのこと考えてるの?」
遊ばれてるイメージのある椿の事が気になっていたのだ。姫が本気でないなら解放してやって欲しいと思うようになっていたが、本心を話してくれそうには無かった。

「…….心配してくれてありがとなっ!じゃ、また明日!」

笑って手を振る寮生の椿とは校門を出るとすぐに別れたが、そのうしろ姿を少しの間ながめていた。
学校帰りに課題を持って佐藤家に来ている大河。
講師である奏の母親を待ってる間、話す相手もいないので提出用の課題をパラパラとめくる。
今までガムシャラにやってきた結果だろう成績は上がったが、これから本気で向かってくる競争相手にも勝てる気がしなかった。
越されてしまう不安もあり、とりあえず何かしてないと落ち着かない大河だった。

「ごめんなさいね、待たせてしまって」

そう言って奏の母親がリビングルームに入ってきた。
大河の顔を見るなり「睡眠しっかりとりなさい」と注意をしてきた。

「それから、ちゃんと食べなさい。痩せてきてるじゃないの。体調崩したら元も子もないわ」
確かに最近1人で食事をする事が多く、少食にはなっていたので自覚はある。
「食事もカロリー計算されたものを出すようにするから、これも勉強の一環だと思って食べなさい」
「授業が始まるので生活習慣は改めます」
と返事をした。

「そうしてね。大河くんは受験戦争に負けない学力がついてるから大丈夫よ。模擬試験の結果、楽しみにしてなさいね」
そう言って微笑んだ。
マンションに帰ると着替えもせずに共有スペースのソファに座り込んだ。
奏の母親の言葉を信用しようと思うと、気持ちが軽くなり寝不足から睡魔が襲ってきた。
少しだけ….と思い、目を閉じた。


帰宅した横原は、リビングに入るとソファで眠る大河が居た。
静かに近づくと目元にクマが出来てるが安らいだ表情で眠っていた。
最近、時間が合わず顔を合わせて無かったが安心しきって眠っていたのでホッとした。
いつから眠っているのか、すでに夕方だ。
起こすのは忍びないが大河の肩をゆすった。

「がちゃん、起きろ」
数回肩をゆすって、やっと目を開けた。

「あ、よこ…..おかえり」
「ただいま。てか、いつから寝てんの?もう夕方よ」
「あー、寝過ぎた」
「とりあえず制服着替えてこい」

Tシャツ短パン姿でリビングに戻ってくると、テーブルに封書が置いてあった。
「それ、がちゃん宛、さっきポストにあったやつ」
「あ、模擬試験の結果だ」
「お!俺にも見せて」
ペーパーナイフを持ってきて、封書をあけ中にある用紙を取り出し広げた。

「がちゃん、すげー!」
希望校全て合格範囲内の結果を叩きだしていた。
満面の笑顔の大河だった。

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