第69話

陸拾肆
3,959
2023/11/09 14:50 更新









































中原あなた
ん、ぁ……?




















目が覚めて初めに見えたのは、見覚えのない真っ白な天井だった。





探偵社の医務室よりも幾分か広く小綺麗で、消毒液の匂いに混じって鉄の……血の匂いもする。





どうやら今自身はベッドに寝かせられているらしく、躰への負荷は少なかった。










だが勿論あなたは警戒し、身を勢いよく起こす。




























…否、起こそうとした。



躰を何かで拘束されていた。


よく見れば腕すらまともに動かせないようになっている。







拐った人間の目的は何なのか。

あなたには検討もつかなかった。





















すると其の時、がららら、と戸が開かれる様な音がした。




音のする方へ目を向けようとしたが、仕切りの所為でうっすらとした影しか見えない。











コツ、コツ、コツ。










革靴が床を叩く音が響き、自身の方へと近付いてくる。
















あなたは身構え、影を見つめる。




やがて其の人物はぬらりと姿を見せた。













?
やァ、こんにちは













出てきたのは、存外ひょろりとした黒尽くめの男だった。


顔は狐の面で隠されており、肌の色さえ一切見て取れない。




発せられた声は大人びていたが、何処か少年らしさを感じる声色だ。



中原あなた
…、お前は誰だ


黒尽くめの男をギロリと睨(ね)めつけて云う。



男は、おお怖い怖いなどと軽くあしらってから、再度口を開いた。






?
うふふ、そう身構えないでよ
僕は別に君を殴りに来たわけじゃあない
中原あなた
…質問に答えろ
?
嗚呼、ごめんごめん
僕の名前は_________
























新美南吉
新美南吉だ
中原あなた
…!


男…新美は狐の面を外して云った。


黒い容姿によく映える真っ白な肌に、吸い込まれてしまいそうな金色の瞳。





人間離れしている、というのはこういうことなのだろうか、とあなたは思った。






新美南吉
扨(さて)、僕も君と談笑してられる程暇じゃない。
さっさと依頼(いらい)を片付けさせてもらおう




そう冷え切った声で云うと、新美はベッドサイドまで歩み寄る。




抵抗したくても出来るわけがなく。





新美は手袋を外してあなたの額に手を当てた。



















新美南吉
___異能力、〈 花をうめる 〉






新美が静かにそう告げた、次の瞬間。
































中原あなた
ッがァアッ、!!









頭に稲妻の様な衝撃が走る。




そして、脳の至る所を蚯蚓(みみず)が這(は)い、隙間をぬって出入りするかのような不快感が。



動きが落ち着いたと思えば、今度は急な眠気に襲われる。







中原あなた
ッあ、…ぅ…、…


その後ゆっくりと、あなたの意識は強制的に引き剥がされた。





















































新美はあなたの意識が無くなったのを確認すると、携帯端末を取り出す。



そして迷いなく数字を打つと、端末を耳に当てて口を開いた。



















新美南吉
…依頼は完遂しました。
彼の意識が戻って確認した後に、報酬をお願いします。











其れだけ云って、すぐに通話を切る。




端末をポケットへ戻すと新美は再度あなたを見つめた。














新美南吉
……ごめんね






小さく溢れた其の言葉は誰の耳にも届くことはなく、真っ白な医務室へと溶けていった。


















プリ小説オーディオドラマ