目が覚めて初めに見えたのは、見覚えのない真っ白な天井だった。
探偵社の医務室よりも幾分か広く小綺麗で、消毒液の匂いに混じって鉄の……血の匂いもする。
どうやら今自身はベッドに寝かせられているらしく、躰への負荷は少なかった。
だが勿論あなたは警戒し、身を勢いよく起こす。
…否、起こそうとした。
躰を何かで拘束されていた。
よく見れば腕すらまともに動かせないようになっている。
拐った人間の目的は何なのか。
あなたには検討もつかなかった。
すると其の時、がららら、と戸が開かれる様な音がした。
音のする方へ目を向けようとしたが、仕切りの所為でうっすらとした影しか見えない。
コツ、コツ、コツ。
革靴が床を叩く音が響き、自身の方へと近付いてくる。
あなたは身構え、影を見つめる。
やがて其の人物はぬらりと姿を見せた。
出てきたのは、存外ひょろりとした黒尽くめの男だった。
顔は狐の面で隠されており、肌の色さえ一切見て取れない。
発せられた声は大人びていたが、何処か少年らしさを感じる声色だ。
黒尽くめの男をギロリと睨めつけて云う。
男は、おお怖い怖いなどと軽くあしらってから、再度口を開いた。
男…新美は狐の面を外して云った。
黒い容姿によく映える真っ白な肌に、吸い込まれてしまいそうな金色の瞳。
人間離れしている、というのはこういうことなのだろうか、とあなたは思った。
そう冷え切った声で云うと、新美はベッドサイドまで歩み寄る。
抵抗したくても出来るわけがなく。
新美は手袋を外してあなたの額に手を当てた。
新美が静かにそう告げた、次の瞬間。
頭に稲妻の様な衝撃が走る。
そして、脳の至る所を蚯蚓が這い、隙間をぬって出入りするかのような不快感が。
動きが落ち着いたと思えば、今度は急な眠気に襲われる。
その後ゆっくりと、あなたの意識は強制的に引き剥がされた。
新美はあなたの意識が無くなったのを確認すると、携帯端末を取り出す。
そして迷いなく数字を打つと、端末を耳に当てて口を開いた。
其れだけ云って、すぐに通話を切る。
端末をポケットへ戻すと新美は再度あなたを見つめた。
小さく溢れた其の言葉は誰の耳にも届くことはなく、真っ白な医務室へと溶けていった。











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。