僕は何度も筆箱の中を確認した。
ない。
やっぱりない。
いつも使っている青いペン。
昨日まで確かにあったはずなのに。
僕は慌てて筆箱を閉じた。
そう言うと、緒莉くんは少しだけ首を傾げた。
チャイムが鳴り、授業が始まる。
だけど僕は集中できなかった。
頭の中に浮かぶのは前の学校のことばかり。
『あれ?』
『ペンがない。』
最初はただの勘違いだと思った。
でも違った。
次は消しゴム。
その次はノート。
少しずつ。
少しずつ。
僕の物が消えていった。
先生の声で我に返る。
慌てて立ち上がる。
教室から小さな笑い声が聞こえた。
座った後も胸がざわざわしていた。
昼休み。
みんなとご飯を食べている時だった。
愛杏くんが口を開く
突然話を振られて少し驚く。
気付けば会話は盛り上がっていた。
瑠都さんも。
帆さんも。
緒莉くんも。
みんな楽しそうに話している。
本当に優しい人たちだ。
前の学校とは違う。
そう思う。
だけど。
”また同じことになったら?”
心の奥から声が聞こえた。
放課後。
教室にはまだ数人残っていた。
僕は鞄を持ち上げる。
その時だった。
”クスクス”
後ろから小さな笑い声が聞こえた。
振り返る。
でも誰もこっちを見ていない。
気のせいかな。
そう思った。
だけど。
教室を出ようとした時。
机の横に丸められた紙が落ちているのに気付いた。
誰かのゴミかな。
そう思いながら拾う。
そして。
紙を開いた。
そこには、
黒いペンでたった一言。
『転校生って暗くない?』
僕の手が止まる。
ただの悪ふざけかもしれない。
僕に向けたものじゃないかもしれない。
だけど。
胸の奥が少しだけ痛かった。
遠くから聞こえる楽しそうな笑い声。
窓の外の夕焼け。
僕は紙をぐしゃりと握りつぶした。
”大丈夫”
”大丈夫だから”
自分に言い聞かせるように呟く。
だけどその言葉は、
少しも大丈夫そうには聞こえなかった。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!