第45話

粒選りの溝鼠(捌)
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2022/08/18 06:15 更新
 恐怖からジョングクの言葉が不協和音で聞こえて、頭の中が掻き乱される。既に二人やられた。無様に倒れている仲間を見ると、ふつふつとした怒りが湧いてくる。どれだけ口喧嘩をしようとも、生死を共に生きた仲間なのだ。顔も分からぬ伝説とやらに、このまま宝物を殺されるわけにはいかない!
ドグマ
ドグマ
……はは、ははははは。これは笑えませんね。僕の大事な仲間を……こんな風に……。嗚呼、可哀想に……痛いでしょう。痛いですよね……。いくら英雄だとしても、ヒーローだとしても、ハレルヤ様だとしても! 叩きのめすのは許せない!!!!
ドグマが腰許に隠していた拳銃を荒々しく取り出し、無造作に四方八方へと発砲する。銃声音が激しく木霊して薬莢が足元に落ちるが、どれも当たるはずがなく殺気がただ通り雨のように寂寥せきりょうな空気に濁るだけだった。発砲後の煙が浮流する中、神のお告げのようにクリアなハレルヤの忠言が生す。
ジョングク
ジョングク
怒りに任せて抹殺道具を使うことは一番の愚行です。こういった諸刃の剣は上手く使わないと、ただの鉄の塊になってしまいますよ
後ろに気配を感じた頃には遅かった。口許をハンカチで覆われると、その後ドグマの意識は遠のいていき目を閉じる。三人とも先程まで喧嘩をしていたはずなのに、たった一瞬で命の断崖に追いやられてしまった。これが、ドブネズミの社会。
ジョングク
ジョングク
安心してください。あの方は眠っただけです
 声は聞こえるのに、何故姿が見えない。いいや、人間なのだからそんな事はありえないはずだ。ただこれは、マジシャンがよく使うミスディレクションを上手いこと駆使しているのだと思う。ミスディレクションは、自分とはまた別の場所に注意を向けさせる高難度の技。だがこれが分かったところでどうしようも出来ないのが残念ながら事実だ。戦闘においてミスディレクションを使うということは、かなりの場数を踏んでいないと到底不可能なこと。そして自分の存在を限界まで薄くするという行動は、普通に考えて人間技ではないだろう。居ると分かっているのに見えない恐怖。存在感を極限まで薄める高度な技術。アビスに勝ち目などなかった。
アビス
アビス
……はあ、ハレルヤ様。降参だ。俺に勝ち目はないし、謝罪の形は改めて設けさせてくれ。このままだと仲間が死んでしまう、っん゙ぐっ゙!?
リーダーらしくソファに座っていたアビスの腹部を思いきり殴り、首根っこを掴むと、ジョングクはアビスを地面へと放り投げる。ゴホッ、ゴホッ、と咳き込むアビスの背中を無慈悲に踏みつけ起き上がれないように牽制すると、ジョングクはドスの効いた声で言った。
ジョングク
ジョングク
何か勘違いしているようですが、私は雑魚の管理も出来ないゴロツキなど死んでしまった方がよいと思っています。いくら貴方がこの世界の後輩だとしても、私だったら頭を下げるだけの器ではいませんからね。喧嘩を売られたかと思いましたよ。ただの謝罪だけなら、俺だってここまで来ねえんだよ
アビス
アビス
い゙ッ゙!?
アビスを押さえつける足が離れたと思ったが、そんなに甘く解放するためではなかった。上げられた足が、もう一度、臓器を潰す意思が伝わるほどの力で残酷に踏みつけられたのだ。あまりの重力に体が耐えきれず、アビスはぐぷっと血反吐を吐く。

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