恐怖からジョングクの言葉が不協和音で聞こえて、頭の中が掻き乱される。既に二人やられた。無様に倒れている仲間を見ると、ふつふつとした怒りが湧いてくる。どれだけ口喧嘩をしようとも、生死を共に生きた仲間なのだ。顔も分からぬ伝説とやらに、このまま宝物を殺されるわけにはいかない!
ドグマが腰許に隠していた拳銃を荒々しく取り出し、無造作に四方八方へと発砲する。銃声音が激しく木霊して薬莢が足元に落ちるが、どれも当たるはずがなく殺気がただ通り雨のように寂寥な空気に濁るだけだった。発砲後の煙が浮流する中、神のお告げのようにクリアなハレルヤの忠言が生す。
後ろに気配を感じた頃には遅かった。口許をハンカチで覆われると、その後ドグマの意識は遠のいていき目を閉じる。三人とも先程まで喧嘩をしていたはずなのに、たった一瞬で命の断崖に追いやられてしまった。これが、ドブネズミの社会。
声は聞こえるのに、何故姿が見えない。いいや、人間なのだからそんな事はありえないはずだ。ただこれは、マジシャンがよく使うミスディレクションを上手いこと駆使しているのだと思う。ミスディレクションは、自分とはまた別の場所に注意を向けさせる高難度の技。だがこれが分かったところでどうしようも出来ないのが残念ながら事実だ。戦闘においてミスディレクションを使うということは、かなりの場数を踏んでいないと到底不可能なこと。そして自分の存在を限界まで薄くするという行動は、普通に考えて人間技ではないだろう。居ると分かっているのに見えない恐怖。存在感を極限まで薄める高度な技術。アビスに勝ち目などなかった。
リーダーらしくソファに座っていたアビスの腹部を思いきり殴り、首根っこを掴むと、ジョングクはアビスを地面へと放り投げる。ゴホッ、ゴホッ、と咳き込むアビスの背中を無慈悲に踏みつけ起き上がれないように牽制すると、ジョングクはドスの効いた声で言った。
アビスを押さえつける足が離れたと思ったが、そんなに甘く解放するためではなかった。上げられた足が、もう一度、臓器を潰す意思が伝わるほどの力で残酷に踏みつけられたのだ。あまりの重力に体が耐えきれず、アビスはぐぷっと血反吐を吐く。














編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。