ジョングクの発言が終わると同時、エデンが目を瞠った。物陰でほとんど可視できなかった「ハレルヤ」が、まるでマジックをするかのように、自然と、そして違和感なく、微塵の恐怖も感じさせずに何処からかナイフを取り出したからだ。
──殺意を感じないッ、まずい……!!!!
だが反応が遅れた。あまりの所作の美しさに視線を奪われてしまったのだ。力でねじ伏せられた訳ではない。リーダーであるアビスを遥かに卓越する佇まいと、背景との同化が起きている。存在はしているのに、まるで存在感がない。その場に一瞬で溶け込む力。警戒心を解く力。存在感を消す力。
それはまるで、透明人間。
エデンの腹部から血が流出する。他のメンバーは何が起こったのか分からずただ立ちすくむことしか出来ない。重役四名の中でエデンの対人戦闘は群を抜いている方だ。しかしそんな彼が一番最初にやられているのは何故だ? いつ? 今? どうして? エデンの腹部をよく見ると、果物ナイフがぐっさりと刺さっている。嘘だ。あのエデンが一太刀もせずにやられたというのか。
アリアの鳩尾に深く重い拳が入る。体に与えられた論外な暴力にその場で嘔吐すると、吐瀉物の溜まりへ顔から落ちていくアリア。何が起こったのか分からず、ただ「ひゅ゙っ、ひゅ゙っ」と息を吸い込むことしかできない。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!