ジリリリリ、と目覚まし時計が鳴り響く。
シーツから顔を出し、私は真っ先に自分の視界を確認した。
天井、カーテンの隙間から漏れる朝の光、脱ぎ散らかした昨日の靴下。
……赤いのは、いない。
大きく伸びをして、私はベッドから飛び出した。
昨日の自分は、きっとテスト返しのストレスか何かで少しだけおかしくなっていたんだろう。
顔を洗い、鏡の前で髪を整える。目の下に少しクマがあるけれど、瞳の色は昨日と変わらない茶色だ。
私はクローゼットから、洗濯したての薄い水色のシャツを取り出した。
柔軟剤の爽やかな香りが鼻をくすぐる。
赤いリボンをきゅっと結び、チェックスカートのプリーツを整える。
お母さんの小言に答えながら、トーストを口に放り込む。
テレビのニュース、パンの焼ける音、セミの声。
昨日と全く変わらない、夏休みの足音が聞こえる朝。
昨日と同じように元気よくドアを開けた。
……けれど、一歩外に出た瞬間、アスファルトの上で「それ」が私を待っていた。
一匹、二匹……。
いや、昨日の比じゃない。
家の前の電柱の周りを、十数個の「赤い物体」が、まるで意思を持つドローンのように規則正しく旋回している。
私は一瞬、足が止まりそうになった。
でも、すぐにバッグのストラップをぎゅっと握りしめて、前を向く。
私は赤い物体の群れを無理やり突っ切るようにして、駅までの坂道を駆け出した。
背中に当たる朝の日差しが、昨日よりもずっと、ヒリヒリと熱く感じられた。
電柱に群がる赤い物体を気合で突き放し、私は駅の階段を駆け上がった。
ホームにはいつものように、スマホを眺めながら電車を待つりりあの姿がある。あそこまで行けば大丈夫。りりあと合流すれば、このおかしな世界から抜け出せる。
りりあが驚いたように私を見た。無理もない、全力疾走したせいで息が切れているし、何より今の私の目には、昨日よりずっと濃い「赤」が映っているのだから。
膝に手をついて呼吸を整える。
その時、私のすぐ目の前に、ふわりと裾の長い白い布が降りてきた。
低くて、どこか楽しそうな声。
顔を上げると、そこには駅の喧騒から切り離されたような、奇妙な少年が立っていた。
着ているのは、現代の服じゃない。汚れ一つない真っ白な着物。
そして、私を覗き込む彼の瞳は、吸い込まれるような金色をしていた。
声が出ない。
だって、彼の足元はホームの床に触れていない。わずかに浮いているのだ。
それだけじゃない。朝の強い日差しが、彼の体を透過して後ろの看板を透かし見せている。
私は思わず絶叫して、りりあの腕を掴んで飛び退いた。
私は彼を指差した。けれど、りりあは私が指す何もない空間を見て、青ざめた顔で私の肩を揺さぶる。
その間も、白い着物の少年は
と面白そうに首を傾げ、さらに一歩、空中で踏み出して私に近づいてきた。
『次は――、急行、渋谷行きが参ります』
アナウンスが響き、滑り込んできた電車のドアが開く。
私はパニックのまま、震えるりりあの腕を引いて、逃げるように冷房の効いた車内へと彼女を引きずり込んだ。
電車のドアが閉まり、ホームにいた「白いヤツ」が視界から消えた。
私は車両の隅にりりあを押し込むようにして陣取ると、ブツブツと呪文のように呟き始めた。
隣から、怯えるようなりりあの声が降ってくる。
無理もない。親友がいきなり何もない空間に向かって絶叫したかと思えば、今は虚空を見つめてブツブツ言っているのだ。
りりあは、私のあまりの気迫に圧倒されて、それ以上は何も言えなくなっているようだった。
私は無理やり完結させて、正面の窓を睨みつけた。
そこには、水色のシャツを着て、顔を真っ青にした自分の姿が映っている。
……そして。
私の背後。
座席の背もたれの上に、ちょこんと腰を下ろして、窓に映る私とバッチリ目を合わせている「白装束」の姿も、しっかり映っていた。
金色の瞳が、窓越しに悪戯っぽく細められる。
私は目を血走らせながら、再びガタガタと震え始めた。
神さまは幽霊くん 第1章 5話 「2日目の朝」 終わり












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。