(taiga side)
役作りのためにホテル生活を始めて2週間。
仕事以外は基本ホテルから出ず、誰とも合わず、少しずつ人間不信になりつつある。
ま、これが役にピタリとハマっているからいいんだけど。
俺のやる役は、双極性障害(躁うつ病)と解離性障害の2つの病気にかかっている役。
前者の方は、ハイテンションで活動的な躁状態と、憂うつで無気力なうつ状態をくりかえすもの。
後者の方は自分が自分であるという感覚が失われている状態。つらい体験を自分から切り離そうとするために起こる一種の防衛反応であるもの。
2つとも共通しているのは二重人格ということだ。
演技に見えてはいけない、本当にその人になりきらなければならない。
つまりは、自分を一度壊さないといけないということ。
もしかしたら、一生もとの人格には戻れないかもしれない。
でも、俺は今回の役で何かが変わるかもしれない。そう思っている。
とりあえず、危ないことをしてみようと思って、わざと、悪い評判の方のエゴサをしたり、昔の母親のことを思い出したり、寂しくなったら、自分の手首をスッときって安心してみたり、夜の街を練り歩き、バーであった男の人と
大「っあぁ!そこ!!っぁ!!!」
体だけの関係になったり。
とにかく、自分の精神状態をボロボロにしていった。
それが演技にも出たのか、
監「京本くん、素晴らしい。気迫が溢れているじゃないか。演技とは思えない。君をこの役に抜擢してよかったよ。」
そう言ってもらえた。
それがとても嬉しくて、どんどん自分を壊していった。
ある日のこと、俺はいつものように泥水状態で、意識も朦朧としながら歩いていると声をかけられた。
あぁ、今日も体を壊される。快楽に溺れていく。
はずだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!