あなたの下の名前(英語の大文字で)
夏の夜は涼しくて、
蝉の声が
寂しさを埋めてくれる気がする。
⋯寂しさが増すことも
あるんだけどね。
ぱっと振り返った若井さんは
優しく微笑んだ。
出逢ったときから
変わることのない
人の心を明るく
太陽みたいに照らしてくれる笑顔。
小さく手を振り替えして、
若井さんの後ろ姿を見つめる。
⋯何で、
「大好き」だなんて
言っちゃったんだろう。
言わなければ、
この気持ちに気付くことなんて
なかったかもしれないのに。
元貴さんとだって、
いつも通り過ごせたかも
しれないのに。
⋯どーしたって過去は変えられない。
私の大嫌いな言葉だ。
そんなの分かってるよ。
承知の上だよ。
それでも変えたいって
思っちゃうんだよ。
あのときああしていれば、
あのとき謝っていれば、
あのとき笑えていたら、
あのとき救えていたら、
あのとき抱きしめられていたら、
あのとき泣けていたら、
あのとき気持ちを伝えられていたら、
あのときー⋯。
今、
元貴さんが抱きしめてくれたら
幸せなのに。
馬鹿らしい。
惨めで、
醜くて、
それでも尚尊いの。
ガチャッ
ぎゅっ
MOTOKI SIDE
あのときの記憶が
滝のように流れてくる。
大好きな人に
会えなくなってしまったら
大好きな人を
抱きしめられなくなってしまったら
大好きな人と
笑い会えなくなってしまったら
大好きな人の
声を聞けなくなってしまったら
大好きな人に
気持ちを伝えることが
できなくなってしまったら
もしかしたら僕は、
同じ過ちを繰り返すかもしれない。
ガチャッ
ぎゅっ
俺の大好きな、
優しい声。
すべてを包み込むような、
温かい声だ。
俺の都合よく
あなたの下の名前ちゃんを抱きしめるなよ。
あのとき
あなたの下の名前ちゃんに
気持ちを伝えられなかったくせに。
自分が寂しいからって
悲しいからって
抱きしめるなよ。
俺がバックハグしてたのに
あなたの下の名前ちゃんが正面から
俺を抱きしめてくれた。
温かくて、
心地よくて、
安心して、
何とも愛おしすぎて、
嬉しすぎて、
涙が溢れて止まらない。
壊れそうな場合、
私の肩に寄りかかってさ、
お互い甘えてみましょう。
さあ、
次はどこへ行こうか。
私の最愛なるあなたへ。















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。