第14話

13 混ざらない甘さ
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2026/03/08 07:36 更新


荼毘「ムーンフィッシュ殺したのも、お前だろ?」

蒼い炎が、ゆらりと揺れる。

荼毘「ヒーローになったお前を、ずっと探してたのによ。」

あなた「ヒーローは向いてないんだ。」

悔しそうに、眉をわずかに下げた。

荼毘「俺の死を決める権限は、お前にあるじゃねえか。」

一歩、距離を詰める。

「じゃあ_____なんで殺さない?」

あなた「もう一度死ぬ前に、やることがあるんでしょ。」

「違う?」

少しだけ首を傾ける。






あなた「……轟燈矢。」






その名前を聞いた瞬間、荼毘は目を見開いた。

蒼い瞳の奥で、何かが揺れる。


怒りでも、殺意でもない。


どこか懐かしい、哀しみを帯びた色。


あなたは、それを黙って見つめていた。

あなた「これで、お互い秘密を共有できた。」


その時。


トゥワイス「おーい荼毘ー!何してんだ早く来い!来んじゃねえ!」

あなた「ほら。仲間がお呼びだよ。」

荼毘は小さく鼻で笑った。

荼毘「じゃ、またな。」

背を向けて歩き出す。

その足取りには、どうしようもない名残惜しさが滲んでいた。

あなたはその後ろ姿を見送りながら、ゆっくり息を吐く。

強ばっていた背筋を、そっと伸ばした。





相澤「堺さん!」

駆け寄る足音。

相澤「大丈夫ですか?」

「さっきのヴィランは?」

あなた「逃げられたよ。」

そう言って笑う。

だがその笑顔は、相澤にはどこか投げやりに見えた。


相澤「爆豪が…拉致されました。」

「これは担任である俺の_____」


あなた「違う。」


きっぱりと、言葉を遮る。


「ヒーローのせいじゃない。」


静かな声だった。

それでも、揺るがない。

「ヒーローには責任が付き物。」

「でも、それで自分を潰しちゃいけない。」

あなたは前を向いた。

「生徒の保護に向かう。」

その一言一言に、
大きな後悔と、それでも曲げない信念が滲んでいた。

相澤「……はい。」

その背中は、誰よりも強く。

そして、誰よりも孤独だった。



緑谷side

生徒40名のうち、ヴィランのガスによって意識不明の重体15名。

重軽傷者11名。

無傷で済んだのは、13名だった。


そして、行方不明1名。


僕らの楽しみにしていた林間合宿は、最悪の形で幕を閉じた。






あなた side

コーヒーを一口、飲み込む。

根津「現にメディアは、雄英の非難で持ちきりさ。」

プレゼントマイク「信頼云々ってことで、この際言わせてもらうがよォ。」



「いるだろ。内通者。」



重い沈黙。

あなたはカップを指先で回した。

あなた「ああ。」

「現時点で、何人か候補はいる。」

空気が固まる。

あなた「でも安心してよ。」

「今この場にいる誰のことも、私は信用していない。」

「そして私が信頼にされる理由もない。」

淡々と続ける。

「だから候補を打ち明ける気はない。」

根津「なるほど。それも一理あるね。」

小さく笑う。

「とはいえ、少なくとも私は君達を信頼している。」

「その私が白だとも、証明しきれないわけだが、」

カップを持ち上げる。

「とりあえず、学校としてやるべきことは一つ。」

「生徒の安全保障さ。」


二口目。


混ざりきらない甘さが、舌に残る。


緑谷「オールマイトが言ってたんだ。」

「手の届かない場所には助けに行けないって。」

「だから____手の届く範囲は、必ず助け出すんだって。」


震える声。


「僕は、手の届く場所にいた。」

「必ず助けなきゃいけなかった。」


拳を握る。


「僕の“個性”は……そのための“個性”なんだ。」

切島「じゃあ、今度は助けよう。」

緑谷が顔を上げる。

切島「緑谷、まだ手は届くんだよ!」

「助けに行けるんだよ!」

反対する声。

それでも譲らない声。

何も言えず、俯く声。

ぶつかり合う生徒たちの言葉を、あなたは扉の外で聞いていた。


一人一人違う声色。

違う口調。

それぞれの想いが重なるたび、

自分が抱えている命がもがく。



「殺さないでください」

「殺さないでください」

「殺さないでください」

踵に噛みつくように、命が懇願する。

傷つけないように、
心の中でそっと言う。

——ごめんね。

優しく剥がす。



コーヒーではなく、
シロップをそのまま口に流し込んだ。


気味が悪いほどの甘さ。


でも、そのくらいでちょうどいい。


その余韻が残る、ほんの数分だけ。

抱えている苦味を、忘れられる。

それでも。

あなたは鞘に収めた刀を、静かに撫でた。




——人を殺す感覚だけは。




忘れないように。





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