入り口を抜けた瞬間、暗闇に沈んだ空の下、
蒼い炎が視界に飛び込んできた。
荼毘「おっと。危ねえな。」
相澤の攻撃を、男は軽く身をひねってかわす。
ヴィラン連合____荼毘。
まだ不明な点も多いが、ここで人員を割く必要はない。
あなた「相澤は生徒の保護にあたれ。」
「こんなヴィラン、私一人で事足りる。」
その声音に迷いはなかった。
相澤は一瞬だけ彼女を見て、すぐに決断する。
相澤「…ここは頼みます。」
彼の背中が闇へ消えていく。
あなたは静かに刀を抜いた。
金属が鞘を擦る音が、夜の空気に細く響く。
あなた「ヴィラン連合、荼毘、だっけ。」
その言葉が終わる頃には__
すでに、彼の心臓は貫かれていた。
あなたはゆっくりと手を伸ばし、彼の胸に触れる。
どろりと、泥のような感触。
あなた「……ごめん。」
消えかけていた瞳の光が、静かに戻っていく。
その時だった。
荼毘「よくも俺のコピーを殺してくれたなぁ。」
はっと振り向く。
そこには____もう一人の荼毘が立っていた。
荼毘「とはいえ、今はもう死んでねぇよな。」
コピーの体は力なく歩き去っていく。
本物の荼毘は、口元を歪めた。
蒼い炎がゆらりと揺れる。
荼毘「やっと見つけたぜ。」
「“怪物”」
その言葉と同時に炎が放たれる——
だが、それよりも早く。
あなたは彼の腕を掴み、背後の壁へ叩きつけていた。
鈍い音が夜に響く。
あなた「……どうしてそれを知っている?」
瞳の奥で、静かな怒りと不安が渦巻く。
荼毘「おいおい。乱暴はよせよ」
あなたより背の高い彼は、彼女の腕を掴み返す。
そしてそのまま、壁に押し付け返した。
荼毘「俺はずっと“怪物”を探してた。」
蒼い瞳が、真っ直ぐに彼女を射抜く。
あなた「私の正体を知っている以上、生かすつもりはない。」
「殺さないで、とでも言うつもりで?」
腕を振り解こうとするが、びくともしない。
諦めたように、彼女は小さく息を吐いた。
荼毘「ああ。」
「そうだよ。」
彼は楽しげに笑う。
「なんなら、人殺しのお前をコッチに引き連れようと思ってる。」
あなた「随分と自信家なのね。」
「“探す”くらいで、“怪物”の正体には辿り着けないと思うけど。」
そう言って、そっと左胸に手を添える。
荼毘「協力してくれたら、教えてやってもいいぜ。」
あなた「貴方達は命を奪うことを“快楽”と呼ぶ。」
「私は違う。」
「私はただ_____今まで奪ってきたものを、返してるだけ。」
荼毘は楽しそうに肩をすくめた。
荼毘「同じじゃねえか。」
「どちらも“殺す”って行為に変わりはねえ。」
ぴくり、と指先が震える。
怒りか。
それとも_____共鳴か。
あなた「命は複製されない。」
「だから今、コピーは殺した。」
荼毘はゆっくりと顔を近づけてきた。
互いの吐息が触れ合う距離。
蒼い瞳の奥に映る、もう一人の彼と目が合う。
あなた「私が殺す対象には、貴方も入ってるかもね。」
荼毘「だろうな。」
次の瞬間。
彼は、あなたの腕を掴んでいた手を離し——
そのまま頬に触れた。
優しく。
あまりにも自然に。
その瞬間、あなたは思った。
_____この世界には、「怪物」が二種類いる。
快楽のために殺す怪物。
そして、正義のために殺す怪物。
今、自分とは違う怪物が____
私に焦がれている。
腕を振り解こうとしても、できない。
だから。
あなたは背伸びをして、唇を触れさせた。
それは、愛の証ではない。
次の瞬間____
荼毘の口元から血が滴った。
舌を噛み切られていた。
それでも、彼は死なない。
私が、生かすと決めたから。
荼毘は目を見開いたまま、彼女を見ている。
あなた「貴方の死はもう、支配している。」
「……少しだけ、先に延ばしてあげる。」
彼女は荼毘の誘いを断らなかった。
だが、それは協力ではない。
彼の最期を見届けるための____時間稼ぎ。
荼毘は、かすかに笑った。
荼毘「やっぱり……あの日のこと、覚えてんじゃねえか」
まだ二人とも。
ヒーローに憧れていた、あの日——。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。