ウナク's DOOR
ヌナが急にテサニヒョンを呼び止めた。
ヒョンも不思議そうにヌナを振り返る。
僕はそんな二人の視線の間で
ついうっかり足を止めてしまったせいで、
息を殺して2人を交互に見ることしかできなかった。
そんなヌナの一言にテサニヒョンが穏やかに笑う。
そう言ったヒョンの声は、いつもより低くて、
甘みを含んだ、深い山奥を流れる雪解け水みたいに
落ち着いた声だった。
僕はヒョンたちの声を
誰よりも聞いているし
大好きだ。
だからこそ、その声色の違いに気づいてしまう。
いつも聞いているヒョンの声なのに、
いつもと違う「大人の男の声」に聞こえて
僕の心をざわつかせる。
そう言ってひらひらと手を振るヌナに、
僕たちは小さく会釈をしてその場を離れた。
僕の少し前を歩くヒョンは、何も言わない。
表情も見えない。
だから余計に、さっきのヒョンの聞いたことない
静かな声が頭の中でぐるぐるする。
テサニヒョンがヌナに服を貸してた?
なんで???
意味わかんない。
「服を貸す」なんて言葉だけなら
大したことじゃない日常のワンシーンなのに。
でもそれがヌナとヒョンとなれば話は別だ。
ヒョンがヌナに服を貸すような理由も
シチュエーションも、いくら考えても
納得できる答えなんか出なくて。
考えれば考えるほどみぞおちのあたりが
ぐちゃぐちゃに気持ち悪くなって
一人前を完食したチキンも、
ヌナがくれたビニールみたいなプルコギも
全部が胃から戻ってきそうだった。
知らないことを想像するのって、
こんなに難しいんだな。
だから僕は、わからないのが苦しくて
テサニヒョンに答えを求めてしまう。
ヒョンが歩くペースは変えずに、軽く僕を振り返る。
その涼しげで色気のある目元が、
今の僕にはとても大人っぽく見えて
思わず視線を逸らした。
そういえばさっき、
テサニヒョンがヌナのことを見ていた気がする。
それもあの会話に関係があるような気がして、
練習生時代の月末評価とか、初めてのステージとか
あの時の緊張ともまた違う恐怖が込み上がってくる。
自分でもこんなことを直接聞くなんて、
子供っぽくて情けないと思う。
だけど、聞かずにはいられない。
ヒョンは全然大したことじゃないみたいに
そう言った。
僕は、自分から聞いたくせに、それしか言えなかった。
……僕はそんなヌナ、知らない。
さっき、食堂でトレーを持ってちょこちょこ歩いたり、
背伸びをする可愛いヌナの姿を知っているのは
僕だけだ、って思ったのに。
僕が知らないところで、僕の知らないヌナを、
僕じゃない誰かが見ている──。
そんなこと、今まで考えもしなかったのに、
テサニヒョンの話を聞いて
その事実に気づいてしまった。
でも、気づきたくなかった。
気軽にヌナに声をかけられるジェヒョニヒョンや
イハニヒョンにも、ヌナと大人な会話ができる
ソンホヒョンやリウヒョンにも、
寝ているヌナに服を貸すテサニヒョンにも──
このモヤモヤした気持ちを向けてしまう自分に、
気づいてしまったから。
だけど、それでも……。
大好きなヒョンたちにこんな気持ちを
向けてしまうとしても。
ヌナを好きなことだけは
どう頑張ってもやめられない。
そんな心の叫びにも、
同時に気づいてしまったんだ──。
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次のページはスポットライト限定作品です!
本編には直接関係ないですが
ヌナ×ジヌの会話劇となってます☺️
ぜひご覧ください🩵













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!