第29話

29話
556
2024/07/16 14:55 更新
「海人……?
こんな夜中に、どうしたの?」


近くのコンビニまで買い物に行こうとして、よく知っているシルエットに気がついた。



霧雨の中、だいぶ濡れていて。
ここまで歩いて来たんだろうか。



俺に会いに来てくれたのか、と思わず心が弾むけれど。


立ち尽くす海人は、ゆっくり俺の顔を見て、目線が泳いでから俯いて黙ったまま。



会いに来たわけではなかったんだと、その表情から伝わってきて。


胸は苦しくなった。





濡れているまま、帰すわけにいかない、と理由をつけて、無理矢理マンションに連れて行く。



「い、いい。
俺、帰る、ごめん……」


「風邪引いたら、ダメだろ。」


少し強引に肩を抱き寄せると、腕を突っぱねて、俺から離れようとして。


「廉もマネージャーも困るだろ。」


そう言えば、海人が何も言えないと分かって、名前を出した。


「…………。」



黙って、腕の力が少し緩む。


強引に部屋に連れていき、俺の服に着替えさせる。



着替えて、リビングに戻ってきた海人は、黙って俯いたまま、立ち尽くしていた。


「なんか飲む?」



リビングの入り口に立ち尽くしたまま、首を横に振った。


まるであの日のように。





「ありがと。
俺、帰る…。
服、今度送る、から……」


濡れた服を抱きしめたまま、小さな声で呟いて、肩にかかったままのタオルを外した。


「これ、ありがと……」



俺も黙ったまま、タオルを受け取った。


かける言葉を、必死に探す。


このまま、また会えなくなるのは嫌だった。


「服、なんか袋いる、だろ?」


結局かける言葉なんか見つからなくて、間抜けなセリフしか出なかった。


「あ、うん…」




海人から受け取った服が入る袋を探すフリをして、必死に言葉を探す。


袋なんか、見つからなければ。


海人を帰さなくて済む。



「ゴミ袋とかでいい、よ?」


ゴソゴソとクローゼットを漁っていた俺に、海人が待ち切れずに声をかける。



「あったよ。」



本当はとっくに見つけていた袋に服を入れて渡そうとして、そのまま足元に置いた。



「なんか飲んでからにしようよ。
久しぶりじゃん。」



無理矢理に椅子に座らせた。




「………。」


海人は、俯いたままで、俺も黙ったまま、紅茶を入れた。



「紫耀……」

しばらく続いた沈黙の後、マグカップを見つめて、海人が俺の名前を呼ぶ。


ただ、それだけなのに、それだけで、少しだけ満たされていく自分に気がつく。


「……ん?」


海人の顔が見たくて、少し覗き込むと、顔をあげて、俺に笑顔を見せた。


「曲、聴いたんだよ、かっこよかった。」















プリ小説オーディオドラマ