次は桜。
最初は負けるかもと思っていたけど、どんどん十亀の動きに合わせてきている。
それに途中から動きが変わった。
何度も見てきた動きだ。
相手を知ろうとする動き。
拒絶せずに引き込もうとする意思。
何となく分かっていた。
桜は風鈴に来るべき存在で、きっと梅宮さん達と同じなのだと。
杉下も、楡井も、蘇枋だってそう。
風鈴はそういう人たちを引き込む場所だ。
悔しくなんかない。これは自分の意志だ。
喧嘩なんて嫌いでいたかった。
殴るのも、蹴るのも、人を傷つけるものであって欲しかった。
人を傷つける自分は、悪者であるべきだった。
......それを、親に捨てられた理由にしたかった。
自分の意志で、私は、
過去と向き合うことから逃げたんだ。
ああ、桜は相変わらず、
私は何か勘違いをしていたみたいだ。
5年前に桜が私を助けた時、桜は既に人を守るために喧嘩をしていたじゃん。
桜が自分と同じなんて、馬鹿みたいなこと考えるんじゃなかった。
家族から逃げた私は、人を助けるために喧嘩できない私は、桜とは真逆の存在だ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!