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第1話

『一期一会』
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2026/08/05 21:59 更新
 
「いちご?」

「一期一会(いちごいちえ)、果物のいちごじゃないよ!」

そう、2人の子供の声が響き渡る、夕暮れの道。

今朝方家を出るとき、母親が喋っていたことだ。

もっとも分厚い雲と降り続ける雨のせいで、時間など知れた話でもないが。

傘を差す歩く2人はやがて、同時に足を止めた。

屋根もない路端、雨に濡れるは段ボールか、その中に縮こまるように寝る猫か。

「ねこちゃん……かおうよ!」

片方の、より幼く見える少年が言った。すぐさま、隣の少女が否定する。

「無理だよ、うちじゃ飼えない。きっとママが駄目って言う」

姉弟2人が言い合う間にも、雨はさらに強さを増す。そこに、子猫への情などない。

「いちごだよ! いちごいちごだよ!」

姉は結局、弟の気迫に押し負けて、あるいは早く雨から逃れまいと、箱を抱えて歩き出した。
 

帰宅してすぐ、母は姉弟に駆け寄った。

次にはその腕の中の猫を見て目を丸くする。

「その子、うちで飼うつもりなの?」

「うん!!」

弟から無垢な返事が飛んだ。間髪を容れず母が否定。

「うちじゃ無理。残念だけど、もとの場所に返してきなさい」

言いながら、母親は2人の背中から荷物を取りあげる。

「やだ! ねこちゃんかうの!」

「こう言って聞かなくて、仕方なくいったん連れてきたんだけど……やっぱり飼っちゃダメ?」

「お姉ちゃんまで何言ってるの、駄目に決まってるでしょう。どうしちゃったのよ」

俯き下を向く少女もまた、戻すことに反対する想いが芽生えていた。

弟の無垢な好奇心とはまた違う。可愛らしく、か弱いその姿を、守りたくなった、庇護欲。

当然、口に出すことはしない。

「いちごいちごだよママ!」

沈黙を破ったのは弟の声。母親はキョトンとした表情で姉弟を交互に見つめる。

「あっ、えーっと、一期一会だと思う…んだけど……」

すると母親は肩を上下させ、これは一本取られたと言わんばかりに猫をつまみ上げた。

「仕方ないわね、いいからお風呂入っちゃいなさい。ずぶ濡れなんだから。この猫も洗ってあげるのよ」

そう言い子供たちを風呂場に押し込むと、名前考えなくっちゃね〜なんて言いながらその場を後にしたのだった。
 
 
『一期一会』

どんなに何度も合う人とでも、今この瞬間は二度と来ない。一生に一度だけの出会いを大切にすること。
 

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