前の話
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「いちご?」
「一期一会、果物のいちごじゃないよ!」
そう、2人の子供の声が響き渡る、夕暮れの道。
今朝方家を出るとき、母親が喋っていたことだ。
もっとも分厚い雲と降り続ける雨のせいで、時間など知れた話でもないが。
傘を差す歩く2人はやがて、同時に足を止めた。
屋根もない路端、雨に濡れるは段ボールか、その中に縮こまるように寝る猫か。
「ねこちゃん……かおうよ!」
片方の、より幼く見える少年が言った。すぐさま、隣の少女が否定する。
「無理だよ、うちじゃ飼えない。きっとママが駄目って言う」
姉弟2人が言い合う間にも、雨はさらに強さを増す。そこに、子猫への情などない。
「いちごだよ! いちごいちごだよ!」
姉は結局、弟の気迫に押し負けて、あるいは早く雨から逃れまいと、箱を抱えて歩き出した。
帰宅してすぐ、母は姉弟に駆け寄った。
次にはその腕の中の猫を見て目を丸くする。
「その子、うちで飼うつもりなの?」
「うん!!」
弟から無垢な返事が飛んだ。間髪を容れず母が否定。
「うちじゃ無理。残念だけど、もとの場所に返してきなさい」
言いながら、母親は2人の背中から荷物を取りあげる。
「やだ! ねこちゃんかうの!」
「こう言って聞かなくて、仕方なくいったん連れてきたんだけど……やっぱり飼っちゃダメ?」
「お姉ちゃんまで何言ってるの、駄目に決まってるでしょう。どうしちゃったのよ」
俯き下を向く少女もまた、戻すことに反対する想いが芽生えていた。
弟の無垢な好奇心とはまた違う。可愛らしく、か弱いその姿を、守りたくなった、庇護欲。
当然、口に出すことはしない。
「いちごいちごだよママ!」
沈黙を破ったのは弟の声。母親はキョトンとした表情で姉弟を交互に見つめる。
「あっ、えーっと、一期一会だと思う…んだけど……」
すると母親は肩を上下させ、これは一本取られたと言わんばかりに猫をつまみ上げた。
「仕方ないわね、いいからお風呂入っちゃいなさい。ずぶ濡れなんだから。この猫も洗ってあげるのよ」
そう言い子供たちを風呂場に押し込むと、名前考えなくっちゃね〜なんて言いながらその場を後にしたのだった。
『一期一会』
どんなに何度も合う人とでも、今この瞬間は二度と来ない。一生に一度だけの出会いを大切にすること。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。