第6話

空白
209
2018/04/02 14:04
目を開けた私がいたのは、一番最初の真っ白な空間だった。

……扉は?
リュウ
やあ!記憶の旅は楽しめたかい?
あなた

リュウ。……まぁ、楽しかったよ

リュウ
ふんふん。それは良いことだ!
リュウが嬉しそうにくるんと空中で一回転した。
リュウ
大分記憶が集まってきたんじゃない?思い出したこと言ってみなよ
あなた

……えーと……星夜は中学三年生からの友達で、高校に入ってから告白された。正確には、行人先輩の後にだけど。
行人先輩は部活の先輩で、二歳上の高校三年生。学校一モテてて、大人っぽい。ある日突然告白してきた。
それで戸惑ってたけど、最終的に一人を選んで落ち着いた……かな

リュウ
うんうん。合ってる!よかったねぇ!
私の周りを笑顔で一周して、リュウはまた目の前にやってきた。
リュウ
さて、『今』の君はどっちを選ぶ?
……そう言うってことは、もう私は現実に戻るのかな。

少しでも時間を伸ばそうと、私はリュウに尋ねた。
あなた

リュウさ、なんでさっきの二枚は出てこなかったの?

リュウ
ん?あぁ、邪魔しちゃ悪いかなと思ってさ。一応プライベートなわけだし
あなた

……なるほどね。ありがとう

リュウ
いえいえ
屈託なく笑うリュウ。

しん……と何もない空間に静寂が訪れた。

……どうしよう。いよいよ本格的に選ばなきゃ。
リュウ
戻る扉はこれだよ。もう用意しておいたんだ。絶対帰れるから安心してね
あなた

あの、さ……

リュウ
なに?
あなた

その扉を開けたら、リュウとはもう会えないんだよね?

リュウが驚いたように目を見開いた。

私も、何言ってんだよって思う。でも、リュウが弟みたいで――――私は一人っ子だから、すごく寂しい。寂しくなる。

こんな短時間で私に離れたくないって思わせるなんて、リュウは魔性の少年だね。
リュウ
……ボクも、できればまだ君といたい。ちゃんと話してみたかったよ。だけど、ボクはこの空間でしか存在できない。君が目を覚ましたら消えちゃうんだ
あなた

え……

リュウ
それでも、ボクは君に戻ってほしい。
……これ見て
現実世界に戻るのとは別の扉を出現させて、リュウはそれを静かに片手で押した。

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