一般人設定です
陸人side
「今日は昨日とはうってかわり、最高気温は25度、湿度は---」
テレビ、つけっぱなしで寝ちゃってたか。
それにしても今日はとても暑い。
昨日まで霜が凍りつくぐらいだったのに
むしむしして真夏を思い出させるかのよう。
起きて半袖のシャツに着替え、コップに水を入れる。
それを一気に飲み干すと、写真の彼に今日も笑いかける。
毎日言い聞かせるように呟く。
夏なんか大っ嫌いだ。
あの夏さえなければ...
高校二年生の夏
君は言った
いつも通り笑う君に
似合わない言葉が出てきて
当然、信じることなどできなかった。
小さい頃からずっと一緒。
明るい君と暗い俺。
真反対だけど、気づけば隣にいた。
だけど今日の君はいつもと違う気がした。
誤魔化すように言葉を並べる君。
窓ガラスに当たって響く雨音と同じぐらいの声量で
君は泣いていた。
俺に涙を見せないように後ろを向いて
何処かに行こうとする君。
...ああ、もう止めることはできない
そう察した俺は、気づけばこう口走っていた。
スマホも、財布も、ナイフも
必要最低限の物だけ鞄に詰めた。
全巻揃えた漫画も
限定のグッズも
全てが色褪せてガラクタに見えた。
家を出る前、君と撮った写真を破っておいた。
もう、良い思い出は今日に置いていく。
そう決めていた。
君と合流して、あてもなく市街地をさまよった。
君は無表情で、手を伸ばせば今にも消えてしまいそうだった。
なんで君だけこんなに背負わなきゃいけないの?
人殺しなんて...そこら中沸いてるじゃんか
行きたいところなんてない
強いて言うなら...
この近くには大きな樹海がある。
君は何も言わずにただ歩いた。
高校一年生の時。
夏なのにずっと長袖のカッターシャツを着ている君に違和感があった。
体育の着替えの時間、わたの腕にいくつもの傷や痣があることに気づいた。
この時何も気づかなかった馬鹿な俺も、
人殺しと同じなのかもしれない。
わたは酷い虐めを受けていた。
殴る、蹴るは当たり前。
暴言を浴びせられて、刃物で体を傷つけられることもあったらしい。
彼も夏が嫌いだ。
傷が汗で痛むから。
夜とはいえ、まだまだ暑い。
そんな中、分厚いパーカーを着込む君は
まだ傷を見せることを赦していないのだろうか。
無言が続いても互いに考えていることはわかる。
酷く蒸し暑く、蝉がうるさい。
耳を研ぎ澄ませても君の声は聞こえなかった。
君は笑って
?
何て言った?
急に何も聞こえなくなった気がした。
それは間違いではなかった。
重なり響くサイレンの音。
俺達を探しに警察が来たのだろう。
急いで樹海の奥へと走る。
親が通報したのだろうか
俺はわたがいれば他には何も要らない。
わたにとって俺がどういう存在なのかは知らない。
だけど何処までも遠くまで行きたかった。
でも俺の希望に反して
俺達の無謀な旅はもうすぐ終わりを告げることになる。
殺人鬼とダメ人間
社会から見放された俺達なんて
最初から始まらなければよかったのに
作者です。
95話にて、矢花くんを登場させるのを忘れてしまいました...
作者の確認不足によりこのようなことになってしまい、本当に申し訳ないです。
読者の皆様、そして矢花くん、ごめんなさい!
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。