真夏の、とある休日。
朝からリビングには、
いつもと少し違う空気が流れていた。
結侑はキッチンで片付けながら、
ちらりと、リビングを気にするように見る。
ソファには鼓多。
その隣には絇仁。
和室では、玲琉と誇柄がおもちゃを広げて遊んでいる。
それぞれ、いつものポジション(?)についている。
一見、いつもと何も変わらない。
だけど。
結侑には、ひとつだけ秘密があった。
エプロンのポケットの中。
そこには、小さな箱が入っている。
昨日、仕事帰りにこっそり買った、
綺麗な天然石だった。
あまり高いものではない。
でも、箱の中身を思い出すだけで、
自然と頬が緩む。
大切な弟たちのために選んだ、小さなプレゼント。
ただ、それを渡すタイミングが難しかった。
鼓多に呼ばれて、
結侑は即座にポケットから目を逸らす。
鼓多はにこっと笑う。
結侑も笑い返す。
けれど、その鼓多もまた。
自分の鞄の中に、
誰にも見せたくないものを隠していた。
昼食を済ませて、少し落ち着いた頃。
結侑が呼んだ。
鼓多はソファから手を振る。
結侑が玄関へ向かった。
結侑が外に出て、玄関の扉が閉まる。
鼓多はその音を確認すると、
小さく呟いた。
鞄から、紙袋を取り出す。
中には、結侑へのプレゼント。
最近、
結侑がずっと忙しそうにしているのを見ていた。
だから。
そう思って、
真剣に選んだのはハンドクリームだった。
鼓多は袋を眺めながら、嬉しそうに笑う。
そのとき。
背後から声を掛けられて、
勢いよく振り向く。
すぐ後ろに、絇仁が立っていた。
じーっと見つめられる。
鼓多は冷や汗をかきながら笑った。
絇仁は首を傾げる。
でも、それ以上追求することはなかった。
今度は絇仁が意味深に笑った。
少しして、結侑が帰宅した。
双子が正面から駆け寄ってくる。
結侑は両手を広げて、二人を受け止めて笑った。
……けれど。
双子にも秘密があった。
玲琉は自分の小さなポケットを、そっと押さえる。
そこには、
昨日の保育園のお散歩で拾った、
綺麗な石が入っていた。
誇柄も同じ。
大好きな結侑に渡すために、
頑張って作ったお花の折り紙。
それも、
二人とも、お互いに秘密だった。
夕方になって、
また、五人がリビングに集まった。
結侑は夕飯の準備。
鼓多はソファ。
絇仁はキッチンで結侑の手伝い。
玲琉と誇柄は床。
なんとなく、
みんな同じようにそわそわしている。
でも、
五人とも、
それぞれ別々のことを考えている。
——つもりだった。
食事が終わる。
片付けもひと段落した。
結侑が静かに時計を見る。
鼓多も同じことを考えていた。
絇仁も。
玲琉も、誇柄も。
そして。
五人が同時に立ち上がった。
全員が静止する。
結侑が不思議そうに言う。
鼓多も首を傾げる。
次の瞬間。
五人が同時に口を開いた。
「「「「「あの!」」」」」
全員で顔を見合わせる。
全方向からプレゼントを持った手が伸びて、
結侑は完全に固まってしまった。
あまりの奇跡に、思わず笑ってしまう。
最初に鼓多が、紙袋を手渡した。
結侑が受け取って、
確認してから中身を取り出す。
金木犀の匂いの、ハンドクリームだった。
結侑の瞳が一気に潤む。
鼓多は照れくさそうに笑った。
その言葉に、結侑の胸が温かくなった。
次に絇仁が手渡す。
小さな箱を差し出した。
結侑は優しい手つきで受け取った。
そっと、丁寧に開ける。
そこには、綺麗なハンカチが入っていた。
また、目を細めて微笑む。
結侑は絇仁の頭を撫でて、笑った。
そして、双子。
玲琉が両手を差し出す。
そこには、きらきら光る綺麗な石。
結侑はしゃがんで、目線を合わせた。
玲琉は嬉しそうに説明する。
自分が見つけたもの。
大切に取っておいたもの。
結侑は必死に涙を堪える。
でも、その幼い優しさに触れてしまっては、
少しだけ涙腺を緩めそうになった。
続いて、誇柄。
誇柄からも小さなプレゼント。
結侑の手に、
黄緑色のお花の折り紙が乗った。
少しだけ歪な形。
でも、愛おしさが詰まっていた。
そこで、結侑が何かを思い出した。
エプロンのポケットに、そっと手を入れる。
こつん、と
小さな箱に指が当たった。
四人が、一斉に結侑に注目する。
そして、
四人の手に、小さな天然石の欠片を乗せた。
透き通っていて、
光り輝いていて、
誰もが目を奪われてしまう。
五人の間に、しばらく静寂が訪れた。
そして、
何気なく鼓多が笑う。
結侑も笑った。
みんな笑った。
五人は輪になって座った。
それぞれのプレゼントを眺める。
高価なものでもない。
特別に豪華なものでもない。
でも。
そこには、
五人それぞれの「大好き」が詰まっていた。
結侑は弟たちを見回す。
鼓多も。
絇仁も。
玲琉も。
誇柄も。
みんな笑っていた。
誰かを喜ばせたい。
大切にしたい。
ありがとうを伝えたい。
そんな気持ちが、
五人の間で偶然同じ日に重なった。
それくらい、
この家は、愛情で満たされていた。
リクエストありがとうございます!













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。