第73話

内緒のプレゼント。
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2026/08/09 12:23 更新










真夏の、とある休日。






朝からリビングには、
いつもと少し違う空気が流れていた。








結侑
……。






結侑はキッチンで片付けながら、
ちらりと、リビングを気にするように見る。









ソファには鼓多。

その隣には絇仁。

和室では、玲琉と誇柄がおもちゃを広げて遊んでいる。









それぞれ、いつものポジション(?)についている。


一見、いつもと何も変わらない。










だけど。







結侑には、ひとつだけ秘密があった。






エプロンのポケットの中。

そこには、小さな箱が入っている。







昨日、仕事帰りにこっそり買った、
綺麗な天然石だった。







結侑
(……喜んでくれるかな。)





あまり高いものではない。






でも、箱の中身を思い出すだけで、

自然と頬が緩む。






大切な弟たちのために選んだ、小さなプレゼント。








ただ、それを渡すタイミングが難しかった。









鼓多
ゆうくーん?
結侑
ん?





鼓多に呼ばれて、
結侑は即座にポケットから目を逸らす。






結侑
どした?
鼓多
ん〜、

鼓多
……やっぱ、なんでもない。

結侑
まじ?
鼓多
うん。




鼓多はにこっと笑う。


結侑も笑い返す。










けれど、その鼓多もまた。




自分の鞄の中に、

誰にも見せたくないものを隠していた。










昼食を済ませて、少し落ち着いた頃。







結侑
こったーん、




結侑が呼んだ。




鼓多
んー?
結侑
ちょっと買い物行ってくるね。
結侑
三人のこと頼んでいい?
鼓多
いいよ〜

結侑
ありがとね。
鼓多
いってらっしゃ〜い。






鼓多はソファから手を振る。



結侑が玄関へ向かった。





鼓多
あ、ゆうくん?
結侑
ん?
鼓多
気をつけてね〜?
結侑
はーい。




結侑が外に出て、玄関の扉が閉まる。










鼓多はその音を確認すると、



鼓多
……よし。





小さく呟いた。




鞄から、紙袋を取り出す。




鼓多
これ……。





中には、結侑へのプレゼント。



最近、
結侑がずっと忙しそうにしているのを見ていた。





だから。





鼓多
(たまには、ゆうくんにも。)





そう思って、

真剣に選んだのはハンドクリームだった。





鼓多
喜んでくれるかな……。




鼓多は袋を眺めながら、嬉しそうに笑う。









そのとき。





絇仁
こたぁ。
鼓多
うおっ!びっくりした!






背後から声を掛けられて、

勢いよく振り向く。





すぐ後ろに、絇仁が立っていた。







鼓多
ん、なに?
絇仁
え?なんか隠した?
鼓多
えっ。
絇仁
……。




じーっと見つめられる。







鼓多は冷や汗をかきながら笑った。



鼓多
なんでもないよ?
絇仁
ほんと?
鼓多
ほんとほんと。
絇仁
……怪しい。





絇仁は首を傾げる。



でも、それ以上追求することはなかった。





絇仁
じゃあ、いいや。
鼓多
え?
絇仁
……ふふっ。





今度は絇仁が意味深に笑った。










少しして、結侑が帰宅した。





結侑
ただいま〜
双子
おかえり!





双子が正面から駆け寄ってくる。





誇柄
ゆうくん!
玲琉
おかえりぃ!




結侑は両手を広げて、二人を受け止めて笑った。




結侑
ただいま。
結侑
二人ともいい子にしてた?
誇柄
してた!
玲琉
してたよ!





……けれど。






双子にも秘密があった。








玲琉は自分の小さなポケットを、そっと押さえる。




そこには、

昨日の保育園のお散歩で拾った、
綺麗な石が入っていた。








誇柄も同じ。


大好きな結侑に渡すために、
頑張って作ったお花の折り紙。










それも、


二人とも、お互いに秘密だった。











夕方になって、


また、五人がリビングに集まった。







結侑は夕飯の準備。


鼓多はソファ。


絇仁はキッチンで結侑の手伝い。


玲琉と誇柄は床。








なんとなく、

みんな同じようにそわそわしている。







でも、


五人とも、
それぞれ別々のことを考えている。






——つもりだった。









食事が終わる。


片付けもひと段落した。









結侑が静かに時計を見る。



結侑
(今なら、みんな落ち着いてるかな。)







鼓多も同じことを考えていた。


鼓多
(今ならゆうくんに渡せるかも。)






絇仁も。


絇仁
(ゆさんに……。)





玲琉も、誇柄も。



玲琉
(いまだ!)
誇柄
(ゆうくんに!)









そして。




五人が同時に立ち上がった。







結侑
……?
鼓多
…...?
絇仁
……?
玲琉
……?
誇柄
......?






全員が静止する。






結侑
どうしたの?



結侑が不思議そうに言う。







鼓多も首を傾げる。



鼓多
みんな立ったけど。
絇仁
……?
双子
……?







次の瞬間。




五人が同時に口を開いた。









    「「「「「あの!」」」」」









結侑
……え、どうした?
弟たち
……。






全員で顔を見合わせる。






鼓多
ゆうくん!
絇仁
ゆさん。
玲琉
ゆうくん!
誇柄
ゆうくんに!

結侑
……え?








全方向からプレゼントを持った手が伸びて、

結侑は完全に固まってしまった。










結侑
……あの、
結侑
もしかして、みんな……?


弟たち
……。



鼓多
ふふっ、俺も。
絇仁
僕も。
玲琉
れるも!
誇柄
ちむも!!


結侑
えぇ……。





あまりの奇跡に、思わず笑ってしまう。











最初に鼓多が、紙袋を手渡した。




鼓多
はい。
結侑
ゆうさんに?
鼓多
うん。





結侑が受け取って、

確認してから中身を取り出す。






金木犀の匂いの、ハンドクリームだった。





結侑
……。




結侑の瞳が一気に潤む。




結侑
ありがとう。






鼓多は照れくさそうに笑った。



鼓多
ゆうくん、いつも俺たちのために頑張ってくれてる。
鼓多
だから、ありがとう。






その言葉に、結侑の胸が温かくなった。





結侑
すごく嬉しい。
結侑
ありがとう、こったん。









次に絇仁が手渡す。




絇仁
ゆさん。



小さな箱を差し出した。




絇仁
僕からも。
結侑
ほんとに?ありがとう。




結侑は優しい手つきで受け取った。




結侑
開けてもいい?
絇仁
うん!




そっと、丁寧に開ける。





そこには、綺麗なハンカチが入っていた。






結侑
……。




また、目を細めて微笑む。




結侑
くにお……。
絇仁
ゆさん、喜んでくれたっ?
結侑
うん。嬉しい。






結侑は絇仁の頭を撫でて、笑った。



結侑
ありがとう、くにお。







そして、双子。





玲琉
ゆうくん!




玲琉が両手を差し出す。


そこには、きらきら光る綺麗な石。




玲琉
れるから!
結侑
ありがとう。




結侑はしゃがんで、目線を合わせた。




結侑
これ、なぁに?





玲琉は嬉しそうに説明する。




自分が見つけたもの。

大切に取っておいたもの。




玲琉
ゆうくんにあげたかったの!
結侑
……。





結侑は必死に涙を堪える。



でも、その幼い優しさに触れてしまっては、
少しだけ涙腺を緩めそうになった。





結侑
ありがとう、れるち。


結侑
大切にするね。
玲琉
うん!






続いて、誇柄。




誇柄
ちむも!
結侑
ありがとう。




誇柄からも小さなプレゼント。



結侑の手に、
黄緑色のお花の折り紙が乗った。





少しだけ歪な形。

でも、愛おしさが詰まっていた。





誇柄
ゆうくん、だいすきだから。
結侑
ゆうさんも、愛してるよ。

結侑
ありがとう、ちむ。







結侑
……。




そこで、結侑が何かを思い出した。






エプロンのポケットに、そっと手を入れる。



こつん、と
小さな箱に指が当たった。







結侑
……実はね。




四人が、一斉に結侑に注目する。





結侑
ゆうさんも、
結侑
みんなに渡すものがあるの。



鼓多
え?
玲琉
ゆうくんも?

結侑
うん。
結侑
みんな、いつも頑張ってくれてるから。






そして、

四人の手に、小さな天然石の欠片を乗せた。






透き通っていて、

光り輝いていて、



誰もが目を奪われてしまう。











五人の間に、しばらく静寂が訪れた。








そして、
何気なく鼓多が笑う。




鼓多
ふふっ。


鼓多
なんか。
絇仁
ん?
鼓多
俺たち、似てるね。





結侑も笑った。


みんな笑った。





結侑
ほんとだね。










五人は輪になって座った。






それぞれのプレゼントを眺める。





高価なものでもない。

特別に豪華なものでもない。





でも。




そこには、
五人それぞれの「大好き」が詰まっていた。








結侑は弟たちを見回す。




鼓多も。


絇仁も。


玲琉も。


誇柄も。




みんな笑っていた。








誰かを喜ばせたい。

大切にしたい。

ありがとうを伝えたい。




そんな気持ちが、
五人の間で偶然同じ日に重なった。











それくらい、



この家は、愛情で満たされていた。












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