ある日の夕暮れ。
買い物帰りの五人は、商店街を歩いていた。
玲琉が立ち止まって、
後ろを歩いていた結侑の手を握る。
誇柄も結侑の腕に抱きついた。
そんな平和なやり取りを見て、鼓多が微笑む。
結侑は二人の顔を覗き込んで、
少し照れたように笑った。
その時だった。
商店街の端で、
小さな花屋を営む年配の女性が立ち止まった。
結侑をずっと見つめている。
結侑も足を止めてそちらを見る。
一瞬だけ。
本当に一瞬だけ、表情が固まった。
小さく息を呑む。
女性はゆっくり近付いてきた。
結侑は帽子を外し、一礼した。
その姿に、女性は目を丸くする。
懐かしそうに微笑んでから、
ぽつりと言った。
結侑はもう一度小さく頭を下げて、
穏やかに笑った。
そして、
女性の視線が弟たちへ向く。
鼓多。
絇仁。
玲琉。
誇柄。
四人の顔を順番に見て、柔らかく笑う。
なにも言えないでいる下三人を見た鼓多が、
率先して答えた。
女性は嬉しそうに頷いた。
そして。
ほんの少しだけ首を傾げる。
そこで言葉を止めた。
結侑は穏やかな表情のまま、
わずかに首を横に振っていたからだ。
それだけだった。
女性はその仕草を見ると、
とだけ言って、静かに微笑んだ。
それから女性は、持っていた花を、
玲琉と誇柄に一本ずつ手渡した。
二人は少しだけ人見知りをしながらも、
綺麗な花に大喜びだった。
女性は手を振って店へ戻っていく。
鼓多も結侑も、頭を下げた。
また、商店街を歩き始める。
玲琉はもらった花を見つめながら笑った。
しばらく歩いてから、
絇仁が何気なく聞く。
結侑は少しだけ空を見上げた。
夕焼けが空に滲んでいる。
——その夜。
弟たちが寝静まった後、
結侑は一人、ベランダに出た。
夏の風が静かに吹いている。
ポケットから、小さな紙切れを取り出した。
花屋でもらったレシートだった。
その裏には、
ボールペンで短く書かれている。
『また話せる時が来たら。』
結侑はじっとその文字を見つめる。
長い間、動かなかった。
やがて小さく笑う。
どこか寂しそうに。
どこか安心したように。
誰に向けた言葉なのかは分からない。
レシートを四つ折りにして、財布にしまう。
部屋へ戻る前。
リビングに飾られた家族写真に目を向けた。
鼓多が笑っている。
絇仁も。
玲琉も。
誇柄も。
その中心には、自分がいた。
結侑は静かに電気を消す。
暗い部屋で、
家族写真だけが月明かりに照らされていた。
その夜も、
誰も、何も知らないままだった。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。