第67話

まだ、遠い。
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2026/07/25 10:48 更新







ある日の夕暮れ。







買い物帰りの五人は、商店街を歩いていた。







玲琉
ゆうくん!



玲琉が立ち止まって、
後ろを歩いていた結侑の手を握る。




玲琉
アイスたべたい!
結侑
また今度にしない〜?
玲琉
えー。



誇柄も結侑の腕に抱きついた。




誇柄
ちむも。
結侑
帰ったらお夕飯だよ〜?
誇柄
はぁい






そんな平和なやり取りを見て、鼓多が微笑む。




鼓多
二人とも、ゆうくん大好きだなぁ。
双子
うん!


玲琉
ゆうくん、おにいちゃん!
誇柄
だいすき!





結侑は二人の顔を覗き込んで、

少し照れたように笑った。



結侑
ふふ、ありがとう。

















その時だった。








花屋の女性
…..あれ?





商店街の端で、

小さな花屋を営む年配の女性が立ち止まった。






結侑をずっと見つめている。






花屋の女性
あなた……。






結侑も足を止めてそちらを見る。









一瞬だけ。





本当に一瞬だけ、表情が固まった。







結侑
あ......。






小さく息を呑む。




女性はゆっくり近付いてきた。






花屋の女性
もしかして……、
結侑
お久しぶりです。







結侑は帽子を外し、一礼した。



その姿に、女性は目を丸くする。




花屋の女性
やっぱり。




懐かしそうに微笑んでから、

ぽつりと言った。





花屋の女性
大きくなったね。
結侑
はい。



結侑はもう一度小さく頭を下げて、

穏やかに笑った。










そして、

女性の視線が弟たちへ向く。






鼓多。

絇仁。

玲琉。

誇柄。










四人の顔を順番に見て、柔らかく笑う。




花屋の女性
元気そうね。
鼓多
……はい!






なにも言えないでいる下三人を見た鼓多が、
率先して答えた。




鼓多
毎日賑やかです。
花屋の女性
そう。



女性は嬉しそうに頷いた。








そして。


ほんの少しだけ首を傾げる。








花屋の女性
……でも、
花屋の女性
あなた、本当に——






そこで言葉を止めた。







結侑は穏やかな表情のまま、

わずかに首を横に振っていたからだ。









それだけだった。









女性はその仕草を見ると、




花屋の女性
あぁ……。



とだけ言って、静かに微笑んだ。





花屋の女性
ごめんなさいね。
結侑
いえ。











それから女性は、持っていた花を、

玲琉と誇柄に一本ずつ手渡した。




花屋の女性
どうぞ。
誇柄
くれるの?
花屋の女性
うん。
玲琉
ありがとうございます。





二人は少しだけ人見知りをしながらも、
綺麗な花に大喜びだった。




花屋の女性
じゃあね。




女性は手を振って店へ戻っていく。





鼓多も結侑も、頭を下げた。




鼓多
ありがとうございました!
















また、商店街を歩き始める。








玲琉はもらった花を見つめながら笑った。



玲琉
いいにおい!
誇柄
きれい!











しばらく歩いてから、


絇仁が何気なく聞く。





絇仁
ゆさん、
結侑
ん?
絇仁
さっきの人、お友達?







結侑は少しだけ空を見上げた。


夕焼けが空に滲んでいる。






結侑
……昔、お世話になった人。
絇仁
そうなんだ。
結侑
うん。













——その夜。










弟たちが寝静まった後、

結侑は一人、ベランダに出た。











夏の風が静かに吹いている。










ポケットから、小さな紙切れを取り出した。



花屋でもらったレシートだった。






その裏には、
ボールペンで短く書かれている。












『また話せる時が来たら。』











結侑はじっとその文字を見つめる。










長い間、動かなかった。











やがて小さく笑う。






どこか寂しそうに。
どこか安心したように。











結侑
……まだ、遠い。









誰に向けた言葉なのかは分からない。










レシートを四つ折りにして、財布にしまう。















部屋へ戻る前。





リビングに飾られた家族写真に目を向けた。










鼓多が笑っている。



絇仁も。



玲琉も。



誇柄も。








その中心には、自分がいた。












結侑は静かに電気を消す。







暗い部屋で、
家族写真だけが月明かりに照らされていた。











その夜も、




誰も、何も知らないままだった。













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